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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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久々に運転する古い地盤調査車両に、紫雨は手こずっていた。


「あーもう!たまに運転しないと感覚分かんねえな、マニュアル車は!」


一度国道の信号でエンストしたその車のハンドルを殴ると、紫雨はため息をついた。


スリッパで雪道を走ったため、一度転んでスーツの膝が一部擦れてしまった。


「くっそー。全てあいつが悪いんだ。あいつ!林が!」


自分のために何かをやろうとしているらしい林のことを思い、紫雨は舌打ちをした。


「そもそも俺なんかのどこがいいんだ?どМかアイツは!!」


新人として林が入ってきてから、可愛がってやったことなんて一度もない。

そもそも渡辺とのことがあったため、指導係にもしてもらえなかった紫雨は、林と話す機会などなかった。


ただ夢中で受注を重ね、成績を残してきた。

一つでも多く表彰されたかったし、一刻も早く昇進したかった。


篠崎が自分に失望しきるまえに。


せめて彼に「あいつ、仕事はできるのに」と言ってもらえるように。



そんな中、離れた席でただ黙々と勉強しているような新人に興味はなかった。


話しかけても大した反応も返さず面白みの欠片もない男は、自分が介さずともハウスメーカーの営業という職業に限界を感じ、勝手に消えるものと思っていた。



しかし彼が、篠崎が林に話しかけた。


バリアフリーの介護住宅について二人で話しているのを、紫雨は自分の席で聞いていた。

そして篠崎が林に関心を示し、その肩に触れるのを見ていた。


途端に空気同然だった後輩は、腸が煮えくり返るほどの嫉妬の対象に変わった。


自分はこんなに努力して受注をもらい展示場トップの成績になっても、篠崎に話しかけてさえもらえないのに、

さっぱり受注を上げていない、何も努力をしていない新人が、なぜ篠崎に話しかけてもらい、肩まで叩いてもらえるのだろう。


思えば思うほどムカついた。


その日のうちに林を宿泊展示場に呼び出して、思い切り犯した。

篠崎に叩かれていた肩を掴んで、夢中で腰を振った。


もうどうなってもよかった。

林が秋山に泣きついて、今度こそ解雇になってもよかった。


しかし、その日早退した林は、翌日何事もなかったように現れた。


その態度が気に食わず、次の日もその次の日も、林を捕まえて無理矢理関係を持った。


それでも彼は、何も誰にも言わなかった。何もなかったように過ごした。

そのことがますます紫雨を苛立たせた。


林にムカつかなくなったのは、時庭展示場に新人が入ったからだ。篠崎の隣の席に可愛い後輩が入ったからだ。


それからの1年間は、林はいてもいなくてもよかった。

暇つぶしに自分が持っている知識は教えてやった程度だ。


今まで自分に散々ひどいことをしていた先輩の言葉を、林は素直に吸収し知識を身につけていった。

それでも彼が可愛く見えることはなく、篠崎と新谷が八尾首展示場に異動になってからは、さらにつらく当たった。


「本当に俺なんかのどこがいいんだ、あいつ……」


拘束の入口で発券ボタンを押すと、紫雨はまたエンストを起こしながら呆然と呟いた。





高速に入ると景色は一気に山道に入った。

クネクネと左右にくねりながら山を避けていく道は、自分でハンドルを握っていなかったら酔いそうな道だ。


その変わり映えしない景色と、やっと慣れてきたマニュアルの操縦のおかげで、紫雨は思考を彼に集中させた。


彼に自分がしてきたこと、浴びせてきた言葉を反芻し、考える。


ひとつもない。


林に掛けてあげた優しい言葉なんて。


一度もない。


彼を認めてあげたことなんて。


自分のことを好き勝手に犯し、

あとから入ってきた新人である新谷のことはこれ見よがしに可愛がり、

彼がいなくなると、途端につらく当たった上司。


恨みこそすれ、それを好きになるなんて、ありえないことだ。


そう恨みこそすれ――――。



だから、復讐のために自分を抱いたのだ。

弁護士をちらつかせ自分を脅し、好き勝手に犯したのだ。

拒否できない状況に追い込み、毎晩自分の口を塞いで、寝不足と疲労でふらつくほどに溜まった鬱憤をぶつけてきたのだ。


それなのに―――。


(俺のこと、好きになるわけなくない?)


好きじゃないならば……

それどころかむちゃくちゃに犯すほど、こちらのことが嫌いなら……


(……林は今、何をしようとしている?)


俺を天賀谷から追い出して、何を……。


「…………」


俺を天賀谷から追い出して―――?


紫雨は自分の思考が至った結論に呆然としながら、ただアクセルを踏みハンドルを回した。




天賀谷展示場についた。


1週間しか離れていないのにやけに懐かしく感じるそれには、全く雪が積もっていなかった。


道中の大型ファッションセンターで適当に買った革靴で降り立つと、紫雨は駐車場を見渡した。


社員が停めている駐車場の端には、ホワイトパールのハイブリッドカーが停まっている。


それを見ただけで目頭が熱くなる。


しかし自分の胸を覆っている疑問が……。


もしかしたら林は自分を好いているのではなく、恨んだままなのかもしれないという疑惑が、紫雨の思考を冷静にさせる。


(………早まるな。焦るな慌てるな。あいつに聞けばいい。答えはあいつしか持ってないんだから)


紫雨は迷いを捨てるように展示場に進んでいった。


駐車場から展示場まではやけに遠く感じた。

外階段を一歩一歩上がる。ドアノブに手をかけ、気密性の高さ故、やけに重く感じるドアを引っ張り開けると、天賀谷展示場の懐かしい匂いがした。


「……げ。紫雨さん。マジで来たんすか」


飯川が無遠慮に嫌な顔をする。

少し前の彼なら、紫雨に対してあからさまにこんな態度を取れなかったはずだ。


この1週間、展示場を離れたことで、彼の態度まで変わっている。


もしそれが、林の影響を受けてのことだったとしたら……。


「林は」


紫雨は言葉少なに飯川を睨んだ。


「……展示場の中でなんか、電話してましたけど」


飯川がどもる。


紫雨はサイズの大きい革靴を蹴り落とすように脱ぐと、まっすぐ展示場に入っていった。


それでもいいから…

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