横浜港の海面が、不気味に揺れた。
――ドボォォォンッ!!
先ほど三寳櫻が異能でぶっ飛ばしたサメノドンが、海から姿を現したのだ。
「おいおい、どんだけしつこいんだよ!?」
三寳は、汗を拭いながら第三の口を閉じた。連続技は疲れる。
「ニャー、やつは異能『喰鮫(ジーズハンター)』の持ち主だな。」
ペルシア猫のウラジーミルが冷静に言う。
「喰鮫……?」
「敵の攻撃を喰らえば喰らうほど、能力が強化される。つまり、あのマグロ軍団を喰らったことで……」
アーサー・ベンフィールドがにこやかに続ける。
「彼はマグロの習性を学び、回遊速度が向上し、今や彼の動きは世界最速ですよ。」
「ちょっと待て!それって、アタシがやったこと、逆効果じゃん!」
サメノドンは超高速で回遊しながら、目にも止まらぬスピードで突進してきた。
「喰ッッ!!!」
鋭い牙が、三寳の分身をバクリと喰い千切った。
「え!?ちょっ、分身ヤられたんだけど!?」
「お嬢さん、ご安心を。」
アーサーは不敵に微笑んだ。
「ここは、英国式異能の出番です。」
その言葉とともに、彼はシルクハットを取り、優雅にお辞儀をした。
「異能発動――『ティータイム・エンパイア』。」
瞬間、彼の背後にイギリス王室の紋章が浮かび上がり、地面に巨大なティーテーブルが現れた。
テーブルクロスは風になびき、次々とティーカップが並ぶ。
「……は?」
三寳が唖然とする中、アーサーは優雅にティーカップを持ち上げた。
「異能『ティータイム・エンパイア』……それは、すべての敵を強制的にお茶の時間に引きずり込む異能。」
サメノドンが突進してくる……だが次の瞬間、彼の足元に突如、椅子が現れ、無理やり座らされた。
「……ガア?」
さらに、目の前にカップとスコーンが並び、なぜかサメノドンは無意識にピンキーを立てて紅茶を飲み始めてしまった。
「ニャー!恐ろしい能力だ!」
ウラジーミルが身震いする。
三寳は唖然としながら尋ねた。
「……え、マジでこんなんで勝てるの?」
「お嬢さん、イギリスの紅茶のルールは絶対です。」
アーサーは紅茶を一口飲み、微笑む。
「一度ティータイムに入った者は、優雅に振る舞わねばならない。 それが紳士淑女の掟――敵は二度と暴れられません。」
サメノドンは口元を震わせながら、紅茶をこぼさないように両手で慎重にカップを持っていた。
「……フゴッ……」
「お嬢さん、トドメをどうぞ。」
三寳は苦笑しながら、自らの手を切り落とし、新たな分身を生み出した。
「しゃーねーな……魚操術(フィッシュ・コントロール)発動!」
次の瞬間、港の奥から巨大なマグロが跳ね上がり、サメノドンの顔面に直撃!!
ドガァァァン!!
サメノドンは紅茶をこぼし、顔を真っ赤にして倒れ込んだ。
「やべっ、怒られちゃう!」
しかし、その瞬間――アーサーの異能が発動。
「ミルクをこぼした者は、もはやティータイムの資格なし!」
彼の宣言と同時に、サメノドンの体が蒸気のように消え、空気中に溶けていった。
「……勝った?」
「その通りです。勝利ですね。」
アーサーが優雅にステッキを鳴らした。
「ニャー、紅茶の力……恐るべし。」
三寳は肩をすくめた。
「……もう、帰っていい?」
――次回、『第四話・ロシアンブルー暗殺者の影』!
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