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◇
端的に言えば、その場は異常だった。
「アハッ、ハハハ!ヒャハハハハ!!」
「起キテ…起キテ、ラダオクン…ラダオ……ネェ…」
同じように空虚な瞳をしていながら、二人の瞳からは全く異なる感情を察することができた。
片や狂気的な笑みを浮かべて愉悦に満ちており、片や無理矢理に笑みを浮かべて困惑と絶望に満ちている。
あまりにも相反しているその感情の差に不気味な何かに見えた。
「拘束!…レウ!コンちゃん!」
すぐに男を拘束して地面に転がす。
意識があればひたすらに笑い続けるそうなので、とりあえず昏倒させておいた。
インカムに向かって二人の名前を呼び、緊急事態であることを告げる。
あとは、らっだぁと……どりみーやな。
らっだぁは…腕のアレが原因やな。
薬品系は専門のコンちゃんが来るまで待機…どりみーを何とかして正気に戻させへんと。
「どりみ、どりみー!」
「ア…キョォ、サ……ラダオク、起キテクレナ…ドウシタラ…」
真っ青な顔で涙を浮かべて無理矢理に笑うその顔はぐしゃぐしゃで、らっだぁの肩を抱く腕だけがしっかりとしていた。
はくはくと震える口で拙く言葉を紡ぐどりみーの肩を揺らして、大丈夫、と強く告げる。
「もうすぐコンちゃんが来る!らっだぁの事はコンちゃんに任せておけば万事解決や!とにかく今は落ち着け…な?」
「…ゥ、ン」
頷いてもなかなか手を離さないどりみーを何とからっだぁから引き離して、部屋の隅で大人しくしてもらう。
ぼうっとした虚ろな表情は、人でも人外でもない、“何か別の生物”を思わせた。
「きょーさんっ!?緊急って聞いたんだけど…ッ!?」
「腕に刺された跡がある、近くに落ちとったコレが原因なハズや!対応任せた!」
「っ、うん!」
一瞬硬直したものの、テキパキと動き始めたコンちゃんにホッとする。
一方、何をどうすれば、と混乱しているのか困惑した表情で立ち尽くしているレウの肩に手を置いた。
「あ、えっと…きょーさん」
「レウはどりみーつれて部屋出てくれや」
俺の言葉をどう受け取ったのか、下唇を噛み、絞り出すように声を上げた。
「…俺じゃ、役に立てない…かな」
「違う、どりみー見てみ」
耳元で囁くと、レウが今その存在に気が付いたと言わんばかりに目を見開いた。
レウは幼い頃の境遇上、他者の気配にとても敏感になっている。
そんなレウでも気が付けない程、今のどりみーからは気配が一切感じられなかった。
「…」
一点をじっと見つめて、何かを考え込んでいるようにも見えるが、俺はどりみーが“別の何か”になっている途中のように見えてならなかった。
何か、どりみーがどりみーじゃない“何か”と魂だけを入れ替えたような、そんな感じ。
その考えじゃ、器に魂が二つ宿るという考えになってしまうから論理的に言って可笑しいのだけれど…
元来、一つの肉体、一つの器に宿ることの出来る魂は一つのみ。
そう、そんなこと…あるはずがない。
「みどりくん、こっち行こう」
「…………」
「…レウ、任せた」
力強く頷いたレウを見送り、男を雑に担ぎ上げる。
多少雑に扱って傷付いたとしても問題はない。
…だって、どうせ最期には死ぬのだから。
らっだぁが前に言ったおかげで拷問部屋は一部屋空いている。
もはや物置と化していたその場所が今、本来の意味を取り戻そうとしていた。
◇