宰相アレクシス・ヴァンガードは、玉座の間の奥にある密室で数人の貴族と向き合っていた。彼の前に跪くのは、漆黒のフードを被った者たち──王国の暗部を担う暗殺部隊、《黒影》。
「如月まどかの討伐は ‘表向きの作戦’ だ。」アレクシスは低く囁く。「本命は──王国の真の支配権を確立すること。」
龍神が死んだことで、王国は危機に瀕している。しかし、アレクシスにとってそれは好機だった。
「龍神の治世は ‘力’ による支配だった。だが、その時代は終わった。」
彼はフードの男たちを見渡し、静かに言葉を続ける。
「新たな王を擁立し、完全なる ‘統制国家’ を築く。」
それこそが、アレクシスの計画だった。
「しかし、問題が三つある。」
一つは、如月まどか。勇者を殺し、龍神までも討った少女が今後どう動くかは不透明だった。彼女は “王国を滅ぼす” ことさえ視野に入れている可能性がある。
「まどかの討伐は ‘三人’ に任せたが、奴らが失敗したのだろう。」
アレクシスは冷酷に言い放つ。
「《黒影》の精鋭部隊を総動員し、まどかを葬る。」
暗殺者たちは静かに頷いた。
「そしてもう一つの問題……」
アレクシスの目が鋭く光る。
「……吸血鬼、レイス・ワイル。」
その名に、貴族たちはざわめいた。
「彼が ‘真の脅威’ になる可能性がある、と?」
「ああ。」アレクシスは指を組み、冷ややかに微笑む。「転生者であり、かつ ‘吸血鬼貴族’ の末裔……。現在はただの放浪者だが、もし ‘勢力を持ち始めたら’ 厄介だ。」
「では、彼も始末を?」
「いや。」アレクシスは首を横に振る。「彼は ‘まだ’ 我々に牙を剥いていない。下手に手を出せば、敵対を決定づけてしまう。」
彼は机を軽く叩いた。
「だからこそ、まずは ‘王国側に引き入れる’ のが最善策だ。」
「……なるほど。もし拒否した場合は?」
「その時は──抹殺する。」
密室に沈黙が落ちる。
「そして最後の問題……」
アレクシスはさらに声を潜めた。
「……サブ・フェルディナンド。」
「まどかを討った報告を持ち込んだ男ですね。」
「そうだ。しかし、 ‘あれ’ が本当とは思えん。」
「では、調査を?」
「当然だ。サブの動向を監視し、奴の ‘嘘’ を暴く。もしまどかが生きていれば──」
アレクシスはにやりと笑った。
「その時は ‘餌’ に使わせてもらう。」
密室に冷たい空気が満ちる。
王国の闇が、ゆっくりと動き出していた。
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