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横浜の倉庫街。薄暗い通路に三寳櫻の足音が響く。
異能魚市場での騒動と、ロシアンブルー暗殺者イワンとの対決を経て、彼女はぐったりしていた。
「もう……異能バトルって、こんなのばっかりなのかよ……。」
隣を歩くアーサー・ベンフィールドは、相変わらず余裕の表情で、シルクハットを軽く直す。
「お嬢さん、これが異能の世界というものです。なにごとも紅茶のように優雅にね。」
「だから、その紅茶推しやめろっつーの!」
突然――
バサッ!
巨大な影が二人を包み込んだ。倉庫の屋根の上から、何者かが姿を現した。
「……おや?」
アーサーが軽く微笑む。そこに立っていたのは、黒いスーツに身を包んだ長身の男。鋭い目つきと、手に持つロシア製のピストルが彼の危険度を物語っていた。
「俺は“シルバーハンド”……イワンの仲間だ。」
三寳は眉をひそめる。
「またロシアかよ……」
男は銃を向けながら、冷たく言った。
「お前ら、異能市場のルールを知らないようだな。強き者のみが生き残る。」
「だったら、アーサー。やっちまいなよ。」
三寳が疲れた様子で促すが――アーサーは微笑みながら、スプーンをそっと取り出した。
「いいえ、お嬢さん。まずはお茶の時間です。」
その瞬間――
「異能発動――『ロイヤル・ティーパーティー』!」
バァンッ!!!
男の手から銃が吹き飛び、気づけば彼の前にはエレガントなティーテーブルが出現していた。
レースのテーブルクロス、陶磁器のティーカップ、英国紳士の流儀に則った完璧なセッティングだ。
「な、なんだこれは……!?」
シルバーハンドは困惑した表情を浮かべた。
「さあ、お座りください。」
アーサーは優雅にティーポットを持ち、紅茶を注ぐ。
「この場は戦いではなく、茶会の場とさせていただきます。」
ドスン。
なぜかシルバーハンドは、抵抗する間もなく椅子に座らされた。
「……くそっ、体が勝手に……!」
「ニャー、またやったな。」
ウラジーミルが呆れ顔で呟く。
三寳はテーブルに肘をつきながらため息をついた。
「で、こいつと何を話せっての?」
アーサーは優雅にティーカップを傾ける。
「交渉です。戦う前にお互いのビジネスを理解し合うのが、紳士のたしなみですからね。」
「……くっ……」
シルバーハンドはしぶしぶティーカップを手に取った。
「ほう……この香り……ダージリンか?」
アーサーが微笑む。
「お分かりになりますか? さすがですね。これは特別なブレンドです。」
「……くそ、悪くねえ……だが、お前らの邪魔は……」
その瞬間、三寳がじわりと手を動かした。
植物のツタが、男の足元から絡みつく。
「ちょっと待てよ、お茶飲んでる場合じゃねぇだろ?」
「ぐっ……!」
シルバーハンドが驚いて立ち上がろうとするが、アーサーが紅茶を一口飲んだだけで、再び椅子に引き戻された。
「まずは、ゆっくりお話を。」
「ちくしょう……異能、ふざけてるのか……!」
三寳は面倒そうに指を鳴らし、テーブルの上に魚を一匹召喚した。
「ねえ、ウラジーミル、こいつ食べる?」
「ニャー、そいつはいただく。」
ウラジーミルがにやりと笑い、魚を丸呑みする。シルバーハンドは青ざめた。
「お前ら……何者だ?」
アーサーは穏やかに微笑む。
「私たちは単なる異能愛好家ですよ。」
シルバーハンドは少し悩んだあと、そっと紅茶を飲み干した。
「……わかった。話をしよう。」
「いいでしょう、紅茶の力は偉大ですからね。」
三寳はため息をつきながら、魚を弄んだ。
「まったく、こんなんで解決していいのかよ……。」
アーサーはにっこり微笑む。