### **「溺愛なんかいりません!」**
**第2話:取引成立(?)**
「はぁ……どうしよ……」
琉翔の部屋の隅っこで、私は体育座りをしながらスマホをいじっていた。
家出したのはいいけど、お金がない。バイトもしてないし、持ってきたお小遣いは数千円。これで何日もやっていくのは無理がある。
そんなとき、ふと母からのLINEを思い出した。
**『1週間に1回はハグか甘えること!!』**
「……これ、写真送ればいいんじゃね?」
私は小声でつぶやいた。
そうすれば、母も満足するし、お小遣いももらえるかも……?
パシャッ。
とりあえず、適当に自撮りを撮ってみる。でも、これだけじゃダメだ。明らかに “甘えてる” 感がない。
私は、ゆっくりと視線を横に向けた。
ベッドの上でスマホをいじっている琉翔。
「ねえ、琉翔」
「ん?」
「ハグしてる写真撮って、親に送ったらお小遣いもらえるんだけど」
「……は?」
琉翔の手が止まり、じっと私を見つめる。
「だから、一緒に撮ろ?」
「……」
彼は一瞬、考えるように眉をひそめた後、苦笑いした。
「それって俺にメリットある?」
「……お小遣い半分あげる」
「へぇー。乗り気じゃん」
琉翔は私をじっと見つめ、なんかニヤッと笑う。いや、別に乗り気ってわけじゃない。ただ、生きていくための知恵というか……!
「で、どう撮る?」
「……普通に肩組むとか?」
「ハグじゃなくて?」
「……」
じわじわと恥ずかしさが込み上げる。いや、これはただの取引、ビジネスなんだから!
琉翔は少し考えたあと、のそのそと起き上がり、私の前に座る。
「ほら」
「……ほらって?」
「さっさと撮れよ。お前の親のために」
私はスマホを構えた。琉翔は気だるそうに片腕を伸ばし、私の肩を軽く引き寄せる。
「ほら、ハグしてます感出せよ」
「……無理!!」
顔が熱い。距離が近すぎる。こんなのただのビジネスのはずなのに、なんで心臓がうるさいの!?
「何ビビってんだよ。やるって言い出したの、お前だろ?」
琉翔はクスクス笑いながら、もう少しだけ私を引き寄せた。
「……っ!!」
パシャッ!!
私は反射的にシャッターを切った。スマホの画面には、思いのほか自然な “甘え” シーンが写っている。琉翔が少し笑いながら、私を抱き寄せている図。
「……これでいい?」
「……」
「……おい、なんで固まってんの?」
「……なんでもない!」
私は急いで母に写真を送信した。
**『ええええええ!!?かわいすぎる!!お小遣い2倍あげる!!!』**
ピロン、とスマホに届いたメッセージ。
「よし、お小遣いゲット!」
私は安堵の息を吐いたが、琉翔はどこか微妙な顔をしていた。
「……なんか、複雑」
「は? なんで?」
「いや……お前、そういうの、俺相手で普通にやっちゃうんだなって」
「?」
琉翔が何を言いたいのか分からなくて、私は首をかしげた。
でも、なんとなく胸の奥がモヤモヤするような気がした。
**――これは、ただの取引のはずなのに。**
とりあえずドキドキドキドキが止まんなくて私はそっと手を頬にあてた
(第2話・完)
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