コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
結局、保健所への申請の関係から、例年ほどは飲食店を出店できないこともあり、文化祭の出し物は二組ずつ合同でやることになった。
クラス順で決められるため、3年5組と3年6組も順当に同じグループとなり、両実行委員は手を取り合って喜んでいた。
さっそく多目的室を使った合同会議が計画され、5組と6組は狭いカーペット張りの部屋で、膝を抱えて座った。
「女装カフェ、会長以外にやりたい人を9人選出したいと思いまーす!」
実行委員が元気よく言う。
「イケメンカフェも、永月君と蜂谷君以外に8人、選出して、5人ずつ交代でやりたいと思いまーす!」
当事者であるはずなのに、何の了解も求められていない代わりに拒否権も認められていない右京は、欠伸を堪えて膝の間に顔を埋めた。
「ーーねえ」
同じく当事者なのに蚊帳のそとに追い出された永月が顔を寄せてくる。
「あの封筒のこと、本当に誰にも言わなくていいの?」
右京はふっと6組の列で退屈そうに膝を抱えている諏訪を見つめた。
「いいよ。実際に何かされたわけでもないし」
「でも」
「無駄に怒られるだけだって、あんなん」
事実諏訪は決起式で右京が女装したり、故意ではないとはいえ、キスをしてしまったことに対して、いまだに小言を言っていた。
これで男から変な手紙までもらったことをバラしては、「あんな|格好《女装》で、あんな|恥《キス》を晒すからだ!」と怒られて終わりだ。
「それに―――」
言いかけた言葉を慌てて飲み込む。
「………それに?」
永月が心配そうにのぞき込む。
「あ、いや……」
永月には言えない。
自分の本性を知らずに、
“かわいい”と思ってくれて、
“守ってあげたい”と感じてくれて、
好きになってくれたであろう永月に―――。
――どんな奴が何人束になって襲ってこようが、負ける気がしない、なんて―――。
視線をずらし、一番後ろでロッカーに寄りかかりながらだるそうに座っている蜂谷を振り返る。
彼はつまらなそうに眼を細めていたが、やがてその線のようになった目を完全に閉じると、夢の世界に入っていった。
◆◆◆◆◆
放課後、視聴覚室に呼び出された蜂谷は、靴を脱ぎ最前列の長デスクに座っていた右京の脇に立った。
「映画でも観ようってか?」
笑いながら隣に腰掛けると、右京は振り返りにやりと笑った。
「ああ。ドキュメンタリー映画をな」
彼がプロジェクターのリモコンを操作すると、照明が消え、スクリーンに何かの映像が流れ出した。
「これ―――うちの高校じゃん」
蜂谷が言うと、ギーッと暗幕が閉まる。
『……ええー、2023年度、宮丘学園文化祭に来ておりまーす』
カメラマンの笑い声が入り、画面が揺れる。
『おっとすごい数のお店ですね。チョコバナナにお好み焼き、ポテトモチに、んん?おお、つきたてのお餅なんてありますよ!これは他高の生徒も近所のお子さんも楽しそうだ!』
「なんだよ。これは」
言うと右京はきょとんとこちらを見た。
「去年の文化祭のデータだよ」
「わかるわ、それは」
ガリガリと額を掻く。
―――こっちはそれどころじゃないのに、当事者のこの男はのほほんとビデオ鑑賞かよ…。
いや、待てよ。
闇雲にこいつの周りを当たるより、こいつに聞いた方が一番早いんじゃ…。
「ねぇ、会長」
「……んー?」
よっぽど文化祭が楽しそうに見えるのか、彼はニヤニヤしながら映像を見つめていた。
「俺以外に知ってるやついんの?お前の秘密…」
言うと、彼はやっとスクリーンから目を離し蜂谷を見つめた。
「秘密って?」
「――――」
―――なんでぴんと来ないんだよ…。
「だから狂犬だったってこと…!」
言うと、気が抜けたような顔で、
「あー、そっちか。……お前しかいないけど?」
サラリと言うとまた視線を戻してしまった。
この男の出身校を調べてくれたのは響子だが、それ以上の情報について調べたのは蜂谷だ。
響子もこいつの正体までは知らない。
東京から遠く離れた山形での恨みを、ここにきて晴らそうとしている奴が近くにいるとも思えないし。
第一、闇討ちしたとてこいつじゃ……。
『―――舐めて?』
響子のことを考えたからか、唐突に女の陰部が蘇った。
「う……」
吐き気を覚え口を抑える。
――くっそ。思い出さないようにしてたのに…。
「おい……?」
映像を停止した右京が覗き込んでくる。
「ごめん、酔ったか?」
「……………?」
「大画面の方が見やすいと思ったんだけど」
蜂谷はちらりとスクリーンを見た。
―――ああ、この映像で酔ったと思ったのか。
心配そうにこちらを覗き込む顔が、暗闇の中スクリーンに反射して、白く浮かび上がる。
―――のんきなもんだな。
異常者につけ狙われてるかもしれないって言うのに。
本来こんなことしてないで、犯人を捜すか、警察に言うべき案件なのに。
俺のためにこんな教室まで準備して。
俺のために……?
『もし、彼を恨む人間がいるとすれば―――』
響子の声が聞こえる。
『彼が転校してきたことで、人生が変わっちゃった人、かもね?』
そんなの………。
「一番は俺だろ……」
「え?」
蜂谷は右京の小さな顔を両手で包み込むと、大きな目を見つめた。
……こいつに人生狂わされてんのは、
「なんだよ…」
右京がこちらを見つめる。
……生徒会メンバーでも、永月でもなく、
「蜂谷?」
……俺だ……!
「……会長。俺、文化祭出てもいいよ」
「えっ!ホントか!?」
大きな目がさらに見開かれる。
「でも―――」
角度をつける。
「会長も俺のお願い、1個聞いてくれたらね?」
言うと蜂谷はそのまま右京の唇に吸い付いた。
「これが他人にものを頼む態度かよ…」
力を入れれば難なく振りほどけるだろうに、右京は長椅子に大人しく押し倒された。
「えー、だって―――」
軽口を叩こうとした唇を思わず閉じた。
「…………?」
右京が見つめ返してくる。
「―――会長。なんでそんなに顔真っ赤なの?」
「は?」
「赤いよ。顔」
「………」
右京が慌てて目を逸らす。
「あれだろ。スクリーンが赤いからだろ…!」
「今囲碁部の展示だから白と黒しか映ってないけど?」
「――――」
意味が分からず、蜂谷はきょとんと理解不能な生き物を見下ろした。
「―――お前が……!」
やっと口を開いた右京が手で顔を覆いながら言う。
「俺が?何?」
「お前が、最近、ずっと……」
「うん」
「キスしてこなかったから……!」
「―――は?」
右京はこちらをキッと睨むと言い放った。
「久しぶりだなって思っただけだよ!!」
―――何だそれ。
だって本命とキスできたんだから、“練習”いらなくね?
え。
何、こいつ、俺とキスしたかったの?
んで今、キス出来て嬉しいの?
顔が赤くなるくらい?
どういうこと?
だって永月が好きなんじゃないのかよ。
「ごめん。俺、ちょっとわかんない……」
「いーよ!わかんなくて!!」
ますます顔を赤く染めた右京が叫ぶ。
―――真っ赤。
蜂谷は顔と同じく真っ赤に染まった首に吸い付いた。
「……ちょ……、お前……んッ」
僅かに塩辛い首元を嘗め上げると、血管がトクトク言っているのを感じた。
筋に沿って舌を這わせ、ネクタイを緩める。
「おい……お前のお願いってこのこと…?」
「そーだよ」
ネクタイを解くとボタンに手を書ける。
「黒魔術なんか使ってないけどさー、永月といい関係になれたのは、練習あってこそのものだったと思うんだよね?」
本当はそんなことあるわけないのだが、右京は頑なに練習の成果だと信じているらしく、戸惑いながらも頷いた。
「ここまで練習しておいて、最後の本番で台無しにされちゃ、師匠としては不完全燃焼なわけですよ」
「……台無しになるってなんでわかるんだよ」
右京が口を尖らせる。
「だって、会長、童貞でしょ?」
「……………」
―――え。マジ?
『童貞じゃないわアホ!』
と食いついてきたところに、
『キスも下手だし、反応も慣れてなさそうだったから童貞だと思った』
と返す予定だったのに。
本当に童貞?
蜂谷は少し体を起こし、改めて右京を見下ろした。
白い首。
覗いた鎖骨。
上下する薄い胸。
赤い顔。
少しだけ開いた唇。
潤みながらも睨み上げる大きな目。
こいつ、本当に―――ハツモノなわけ?
「…………」
今すぐむしゃぶりつきたい欲望を必死で堪える
「だから、ね?最後の最後は永月に譲るから。それまでの練習を続けさせてよ。
あいつと即本番した時にいろいろ下手くそだったり、すぐに射精したりなんかしたら、恥ずかしいだろ?」
「射精って……!お前……」
右京は本能的に拳を握る。
だが殴っては来ない。
蜂谷はそれを一回りも二回りも大きな手で包み込むと、耳元で「ね?」と囁いた。
ボタンを外し、インナーを捲りあげ、胸の突起に口をつける。
舐めて転がし、唇で吸い上げ、軽く歯を立てる。
「永月にはどんなふうに触られたの…?」
舌を動かしながら言うと、右京は眉間に皺を寄せた。
「舐められた?」
言うと、わずかに首を振った。
「ふーん」
別に興味があるわけではないが、今の彼には永月の名前を言った方が、より刺激が強い気がした。
永月以外の男にこんなことをされているのを、自覚できるからーーー。
片方の突起を吸いながら、もう一つの突起は優しく潰す様に指で揉むと、蜂谷の身体の下で、右京の腰が右へ左へくねった。
―――すげえ勃ってる……。
今まで練習中は直接確認してこなかった股間が、互いの制服越しでもわかるほど反り返り、熱く熱を持っている。
突起を口に含んだまま、強めに舌を押し付け、弾く。
「んんッ」
甘い声が漏れ、腰が動き、太腿が痙攣する。
繰り返すと、
「蜂谷―――」
右京が薄く目を開けた。
「……それヤバい。気持ちいい……」
目の奥が……熱い。
何かが燃えてる。
目の奥にあるのって何だ?
脳みそ?
何それ、怖。
でも、そうか。俺。
今、脳みそ燃えてんだ―――。
蜂谷は右京のベルトを緩めると、ズボンの中に一気に手を挿し入れた。