──それから数年、レイス・ワイルは姿を消した。
彼が身を隠したのは、〈赤霧の森〉。
王国の北端、かつて魔族が支配していた呪われた地。
この森に足を踏み入れた者は、二度と戻らないと言われている。
だが、彼にとっては都合が良かった。
“あの刻印”が生まれて以来、彼の体は何かが変わり始めていた。
傷を負っても、すぐに治る。
血が傷口を塞ぎ、まるで意思を持つように流れる。
「……どういう仕組みだ?」
彼は森の中で独り、繰り返し実験をした。
掌を刃で裂く。血が滴る。
しかし、血は流れるだけではなく、空中で渦を巻くように動いた。
「まるで……生きているみたいだな。」
試しに意識を向けると、血は形を変えた。
槍のように尖り、刃のように鋭く、そして──
「なるほどな……これは“武器”になる。」
──そうして彼は、血を操る術を独自に編み出していった。
森の奥深く、彼はただひたすらに戦い続けた。
魔獣を狩り、技を磨き、力を制御する術を求めた。
だが、その裏で──
彼の血は、ゆっくりと“何か”に侵され始めていた。
それは、呪いか。
それとも、新たな力の兆しか。
レイス・ワイルはまだ、その答えを知らなかった。
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