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深い深い海、
海底に浮かぶ家、
艶のある赤髪を靡かす少女。
─────── “ 陸 ” と “ 海 ” 。
「 ねぇ、陸の世界って素敵だと思わない? 」
透き通る様な声でそう口にしては羨ましそうに上を眺める赤髪の人魚。
「 アリエルはさ、陸に行ったらなにするの? 」
少し身体を傾けてそう問う魚。
「 陸なんて怖い事がいっぱいさ~♪ 」
ミュージカルの様に声を張り上げる海老も居る。
「 この暮らしもいいだろう。 」
「 お父様…でもやっぱり陸には憧れるわ 」
そんな生活にも飽き飽きし始めた1人の人魚が居た。
「 陸なんて…危ないよ、 」
困った様に眉を下げるフランダーと、
「 アリエル!俺達が居るだろう~♪ 」
胸に手を当てて歌うセバスチャンと、
「 何度も言っているだろう。 」
呆れた様に目を瞑るトリトン王。
「 あの桟橋から見る家は綺麗だったわ 」
暇を持て余す様に年季の入ったバレリーナのオルゴールを回す。
「 …アリエル、何度言ったら分かるんだ? 」
眉間に皺を寄せるトリトン王の後ろには、幻覚だろうか、青い竜巻が見える。
「 おっとぉ…アリエル… 」
やっちゃったな、とでも言う様に汗を拭う仕草をするセバスチャンを横目に、
「 フランダー!逃げましょっ! 」
と、明るい声で手を引く。
「 あの桟橋に行きましょうっ! 」
心做しか少し切なそうな笑顔を浮かべるフランダーと、希望に満ち溢れた笑顔を浮かべる人魚。
一体誰が想像出来るのだろうか。
この表情の意味に。
「 ねぇ、知ってる? 」
ふと口を開いたと思うと、目の前には奥の見えない深い洞窟があった。
「 アースラの事? 」
そう、この深い洞窟の奥にはアースラが居る。
宮廷から追放された、トリトン王の姉が ── …
「 えぇ、何でも叶えてくれるらしいの。 」
「 !まさか、あの王子様の事… 」
「 ふふ、幸せだと思わない? 」
この赤髪の人魚は恋に落ちていた。
陸の上にある、大きなお城の王子様に。
「 …アースラ、居るー、? 」
何回も繰り返されるフランダーの声。
「 なんだい? 」
“ 悪役 ” 、と言う言葉が似合う深く暗い声が聞こえる。
「 あのね、頼み事があるのだけれど… 」
「 へぇ…陸の事かい? 」
全てを察して居る様ににやりと右口角を上げて不気味に微笑む。
「 陸に行きたいの、叶えてくれないかしら 」
「 …この薬を飲めば足が生えるさ。 」
「 本当!? 」
「 但し声を貰う。それに3日で恋に落ち無ければ奴隷になって貰うよ 」
「 …えぇ、ありがとう、アースラっ! 」
危機感を覚えろ、と散々言われているのにも関わらず危機感のひとつも無い笑顔。
家に帰ると散々怒られた僕達。
これで懲りたかと思ったら ───── …
「 私、陸に行くわ 」
「 まだ懲りないのか、アリエル 」
「 えぇッ!? 」
小瓶を揺らし、周囲の反対を横目に呑み始める。
「 ちょッ、アリエル、ッ 」
そう声を掛けたのも束の間、あっと言う間に呑み込んでしまった。
「 おいアリエルッ、誰に貰った?何故呑んだ!! 」
声を荒らげるトリトン王に歯向かうように、
人魚は静かに眠りに着いた ──────── 。