これで何回目だろうか。父が銀行に働いている以上、引越しは恒例行事だ。2年同じところにいればいい方で、まともに友達も出来なかった。そんなわたしが、唯一ずっとここにいたいと思えた場所がこの”さいごの”転校で来た場所だった。中2の春、大きくもなく小さくもないいかにも普通の中学校という感じの所に行った。全部で3クラスあり、私は2年B組になったと言われた。朝の全校朝会。校
長先生の長ったるい話を右から左へと流して、私の名前が呼ばれるのを待った。やっと話が終わり、会場設営に入る。と同時に、喧騒が体育館を包む。すると、生活指導の先生か、ゔっゔんと咳払いをして沈める。この中で1人ステージに立つのは気が重いなぁと思ってた矢先、後方からガラガラとドアの開ける音が聞こえた。一斉に注目を浴びて登場する姿はまるで、どこかの主人公のようだった。低身長だが、鼻立ちがスッキリとしていて、目も大きく、一瞬で心を奪われてしまうような顔立ちだった。そして、きっと私とは無縁なんだろうなあ、と心の中で溜息をつきながらどこに座るのかなとみていると、先生と一言交わして、こちらに向かってきた。え、なになに?と思って見ながらひとつの仮説を立てる。あーきっとなんかの役職に着いている人だな。だからこっちに来ているんだ、納得。とひとりで自己完結していると。彼が横に座った。え、んん?困惑が顔に出ていたのだろう。不思議そうな顔をして、「僕、転校生なんです…。」と遠慮がちにいってきた。おいおいまじか。え、わんちゃんいける?話せる??こんなイケメンと??えー幸せ〜♡と思いながら小声で「あ〜一緒ですね〜、」感情を押し殺して言うと、パァっと笑顔になって「これからもよろしくですっ!」と言ってきた。これを一目惚れというのだろうか。恋というものは、下民のやることだと思ってたけれど、こんな顔されたら答えは自ずとひとつになった。私と彼の名前が呼ばれる。これが唯一ずっとここにいたいと思えたはじまりだった。
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