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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「びっくりした……!」


諏訪は誰もいないと思って入った生徒会室にしゃがみこむ右京を見つけ、後ろに仰け反った。


「よっ!」


「……よっ!じゃねぇ!お前なぁ!遅くなるなら、ちゃんと祖母ちゃんにメールしろよ!」


「いや、したんだけどな」


右京は苦笑いしながら手を合わせた。


「ごめんごめん、なんか大騒ぎになっちゃって」


「いや、俺は良いけどさ……」


―――友達って誰の家にいたんだよ……。


つい聞きそうになる質問を飲み込む。

クラスで右京が話す奴や、生徒会のメンバーには一通り電話した。


永月に電話した時の慌てようから、彼も違う。


残るは―――。


「ところでお前――――」


とっくに本棚に視線を戻してしまった右京に向けて口を開く。


「夏期講習も出ないくせに、なんでいるんだよ」

本当に聞きたい質問はできず、わき道に逃げる。


「あー。ちょっとな」

言いながら右京はしゃがみながら、本棚を見つめている。


「―――何してんだ?」


隣に並びしゃがみこむと、そこには国公立大学の赤本が並んでいた。


「そういえば、ここにも過去の赤本があったなーと思って」


言いながらそれをどんどん持ってきたリュックに詰め込んでいく。


「―――」


やけに大きいリュックを覗き込む。


『子供を難関大学に合格させるための親の参考書』

『受験直前!センター試験はこう乗り切れ!』

『難関大学に絶対合格!必要なのは捨てること!』

『勉強は時間じゃない。質に尽きる!』


「なんだこりゃ。―――痛っ!」

「あ、わり!」

リュックに頭を突っ込むように覗き込んでいた諏訪の頭に、右京が投げ入れた赤本の角がヒットする。


頭皮を触り血が出ていないことを確かめながら、再度右京の横顔を見つめる。


「お前、予備校の講師にでもなるの……?」


「は?」

右京は赤本を見ながら口だけで答える。


「だってこれ……お前に必要のない参考書ばっかりだろ?」


しかも真新しいものばかりだ。


「んー」

右京にはこちらの声も言葉も届かないらしく、赤本を真剣に捲っては、次々にリュックに放り込んでいく。


「おいって!」

その肩を掴むと、右京はやっと諏訪と目を合わせた。


「お前、夏期講習、予約入れてただろ?なんで全部キャンセルしたんだよ」


「ああ。そんなことか……」

言いながらまた視線を戻す。


「別にいいかなって思ったんだよ。今さら講習なんて」


諏訪は首を捻った。


―――こいつの考えていることがわからない。


彼が夏期講習をすべてキャンセルしたというのは、右京の担任の教師から聞いた。

その時は、やはり進学するつもりはないのかと思ったが、今度は一転、自分に必要のない参考書を手にいれ、片っ端から赤本を持ち帰ろうとしている。


「もしかして……初日だっつうのに夏期講習サボってる蜂谷と何か関係ある?」


今までろくに反応もしなかった右京が振り返った。


「いや全然!」


―――こいつ……なんとわかりやすい……。


「じゃあな!諏訪!って、重っ!あはは!」


右京はわざとらしくおどけながらリュックを背負うと、逃げるように生徒会室を後にした。


諏訪は目を細めため息をついた。



蜂谷と右京ーーー。


昨日までは確かに距離を取っていたのに、また近づき始めた。

何かがあったとしたら、昨夜しかない。


自分が電話した時、蜂谷は本当に何も知らない様子だったのに――。


もしかして右京に何かピンチが訪れたのを、また蜂谷が助けたのか?


それとも彼を心配して電話をかけてくるだろう諏訪の行動を、初めから読んでいたから余裕で演技をしたのか?


そうだとしたら―――。


あんな遅くに、2人で何をしていたんだ………。



「ああ。イライラする……」


諏訪は歴代の生徒会メンバーの写真が並んでいる本棚を見上げた。


「右京……。お前が永月のために生徒会長になったように……」


2024年度の生徒会。中心で拳を握り座っている右京を見つめる。


「俺がお前のために副会長になったって言ったら、どうする?」


諏訪はそう言うと、その大きい瞳を睨み、自嘲的に笑った。



◆◆◆◆◆


夏期講習が終わった3年生でごった返す校門から、一人の生徒が駆け出してきた。


妙に大きなリュックを抱えた彼は、坂道をすごい勢いで下っていく。


男はその姿を確認すると、携帯電話を耳に当てた。


「……いました。右京です。間違いありません」


『そうか。なんだ、転校したかと焦ったぜ』


電話口の相手は下卑た笑いを響かせた。


「炎天下で待たされるこっちの身にもなってくださいよ。さっさと攫えばいいのに。こんなこといつまで続けるんすか?」


男は咥えていた煙草を、近所のブロック塀に押し付けると、軽く舌打ちをした。


『まあ焦るなよ。昨日、客人が事務所に来ただろ』


「ええ」


『誰だと思う?』


男はだるそうに考えながら、台風一過で容赦なく照り付ける太陽を睨んだ。


『奈良崎さんの弟だよ』


「――――!」


奈良崎の弟。


表向きは真面目なサラリーマンを演じているが、裏ではその甘いマスクで女子高生をつり、合法ドラックと騙して覚醒剤を打ちまくり、ジャンキーになった彼女たちに裏の仕事を紹介しているというーーー。


『先日、奈良崎さん、本面を受けたらしい』


―――本面。


それはすなわち、刑務所内で地方更生保護委員会が行う、「委員面接」のことだ。


つまり―――。



『………もうすぐ出てこれるぞ。奈良崎さん』


その言葉に全身に鳥肌が立つ。



『特別なプレゼントは、渡す演出が重要なんだよ。死んで動かなくなったアワビより、新鮮で暴れ狂うアワビの方が、食いごたえがあるだろ?』


電話口の相手はそう言うと、楽しくて堪らないと言うように高らかに笑った。



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