「で、リリス。お前の ‘作戦’ ってのは?」
ヴァルドは腕を組み、期待と不安を入り混ぜた目でリリスを見つめた。
「うん、シンプルよ。」
「おう。」
「 ‘変装して潜入する’ の。」
「……は?」
ヴァルドはしばし沈黙した後、大きく息を吸い込んだ。
「いやいやいやいや!! 俺、吸血鬼だぞ!? ‘変装’ でバレないわけないだろ!」
「大丈夫よ。今の時代、吸血鬼は ‘絶滅危惧種’ だから、まさか ‘生きてる’ なんて思われないわ。」
「それ ‘逆に目立つ’ パターンじゃね?」
「だから 目立たないようにする のよ。」
「……いや、お前の言ってること、論理破綻してね?」
「論理より勢いが大事よ。」
「オイ待て、その ‘勢い理論’ で俺が何回痛い目見たと思ってんだ!?」
「えーと、5回?」
「もっとだわ!!」
リリスはヴァルドの怒りをスルーしつつ、スッと袋を取り出した。
「ほら、これ着て。」
「……なんだこれ?」
ヴァルドが袋の中を見ると、そこには――
メイド服。
「おい、なんでこれなんだ?」
「 ‘監獄塔’ は王直属の ‘城’ みたいなものなの。だからメイドとして潜入するのが一番バレにくいのよ。」
「ちょっと待て!! 俺男だぞ!!」
「……ヴァルド、あなた ‘美形’ よね?」
「うん、まぁ ‘吸血鬼’ だからな……って、おい!!」
「だから女装すればバレないわ。」
「バレるわ!!!」
ヴァルドの絶叫が、夜の街に響き渡る。
「なぁ、リリス……俺が ‘男’ ってバレたらどうするつもりだ?」
「そしたら なんとかするわ。」
「いや、ノリで済む話じゃないからな!?」
「まぁまぁ、ヴァルド。これも吸血鬼の誇りよ。」
「どこに 誇りの要素があるんだ!!?」
「それに、エゼルを助けるためなら ‘何でもできる’ でしょ?」
「……くっ、エゼルのやつ、 ‘恩’ を感じてくれるよな?」
「たぶん ‘笑って済ませる’ と思うけど?」
「救出されたことより ‘俺のメイド姿’ に爆笑する可能性が高いのかよ!?」
「まぁ、 ‘それはそれで面白い’ からいいじゃない。」
「よくねぇぇぇ!!」
しかし、ヴァルドには逃げる選択肢はなかった。
結局、彼はメイド服に袖を通すことになったのである――。
翌日。
ヴァルド(メイド服着用)は、リリスに連れられて監獄塔の正門へと向かっていた。
「くっ…… ‘スースーする’……」
「やっぱり似合うわね。」
「褒めるな!!!」
「ほら、 ‘メイド’ になりきって。ここで ‘吸血鬼’ ってバレたらおしまいよ?」
「……ぐぬぬ……」
門の前には、衛兵が二人立っていた。
「なんだお前たちは?」
リリスはすかさず一礼し、優雅な笑みを浮かべる。
「私たちは新しく ‘採用’ されたメイドですわ。」
「メイド?」
衛兵の一人がヴァルドをジロジロと見る。
「こっちのメイド、なんか ‘ゴツくねぇ’ か?」
ヴァルドの背筋に冷や汗が流れる。
「そ、そうかしら?」
「腕とか ‘妙に筋肉質’ だし……」
「えっと、最近まで ‘農作業’ を……」
「農作業?」
「ええ、 ‘メイド畑’ を耕しておりましたの!」
「 ‘メイド畑’ !? どこだそれ!!?」
「き、貴族専用の ‘秘密の庭園’ です!」
衛兵たちは顔を見合わせた。
「貴族専用……つまり ‘俺たち庶民には知らされない領域’ ってことか?」
「……なるほど、納得だ。」
――バカで助かった。
ヴァルドは安堵の息をつく。
「よし、通れ!」
こうして、ヴァルドとリリスは ‘監獄塔’ に潜入することに成功したのであった――。
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