「千切おにーちゃんと潔おにーちゃんね!俺ちゃんとおぼえられられるよ!」
呂律が回っていないのか、ミスなのか、わからないけれど可愛いと思ってしまう。
そう思ったのと同時に、1つ疑問が浮かんだ。
「ねぇ…一緒にサッカーするお友達は?いないの?」
その疑問をあえて言葉にして伝える。
「うん…俺…気持ち悪いんだって…俺とやってもつまんないって…」
寂しそうに、目をうるませながら答える廻くんに、聞いてしまったことを深く後悔する。
そして、1人の元相棒が頭を過った。
さっきも思った。廻くんは…俺の元相棒に全て似てるんだ。その様子に千切も、何も言わないが気づいているとは思う。
思い切って、俺は聞いてみることにした。
「ねぇ廻くん、『怪物』って見える?」
「…潔?そんなのいるわけ…」
千切の言葉を遮って、廻くんがぱぁっとした顔で答える
「見える!見えるよ!なんでわかるの?!今まで誰も信じてくれなかったのに!」
ああ、当たってしまった。当たってほしくなかった。でも、あいつでは、確定ではないはずなんだ。
「ねぇ廻くん…もう一つ質問してもいいかな?」
「うん!いいよ!」
嬉しそうな顔でずーっと見てくる。その視線が、今は痛い。
「廻くんの名字って…蜂楽?」
喉がキュッってなる感覚を抑えながらたずねた。
千切も少し緊張したような表情で、俺と廻くんを交互に見ている。
そして、返ってきた言葉に、俺はここに来るんじゃなかったと深く後悔することになった。
「すごーいっ!なんでわかるのー?!怪物も俺の名字も…潔おにーちゃんエスパー?!」
「…潔…」
キラキラした目で見つめてくる廻くんとは、真逆の目で見つめてくる千切。
「…!!」
急な吐き気。息ができなくなる。ダメだ。ダメだ。聞かなければよかった。そう後悔しても今更遅い。
ああ、心配させてしまう。廻くんも、千切も。なんとか戻さなきゃ。
「潔!!潔!!クソっ…蜂楽が居たら…ッ」
千切はそんなことを呟く。
「潔おにーちゃんっ、大丈夫…?俺のせい…?」
心配させないようにしたのに、結局ダメだった。
また目をうるませながら、しゃがんで覗き込んでくるその顔は、普通の小さな少年なはずなのに、大きな相棒に見えた。
いや、そうなんだ。こいつは蜂楽の子供の頃の姿だ。なぜ今ここにいるのかはわからない。
けど、こいつは、紛れもなく、一緒にチームZでも、第二セレクションでも、U-20でも戦った蜂楽廻だ。
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