まずい、スランプが来ました。
書いても書いても書けません。
書きたいのに、うまく書けないんです。
それでも良い方は、どうぞ。
注意
・韓国視点です。
・北朝鮮が出てきます。
・日韓要素有り。
・旧国注意。
・話の流れがめちゃくちゃなところが多い気が…全然上手く進まずで…()
地雷さんはご自衛ください。
ではGo。
元々、僕らは仲の良い兄弟だったように思う。
大韓帝国という、一つの国として一緒に手を取り合って発展していこうと思っていた。
大日本帝国に占領された後でも、僕らは日帝の機嫌を損ねない様に必死で頑張りながら国を運営していた。
でも、日帝は第二次世界大戦で敗戦した。
僕たち兄弟はその敗戦に伴って、引きはがされた。
僕の片割れ━━━…今の名は朝鮮民主主義共和国こと、北朝鮮。
アイツは、ソ連に連れ去られた。すぐに追おうとしたけど、それはかなわなかった。
僕が、アメリカの統治下に置かれたからだった。
あとで聞いたけど、裏でソ連とアメリカが話し合って…僕たちを分割統治することになったんだとか。
そのせいで、僕は兄弟に一目会う事すら…できなくなった。
まるで昨日の事の様に思い出せる、最後に会った時の片割れの表情。
ソ連に引きずられるように手を引かれて、僕に必死に手を伸ばしていた。
『韓国!!!!』
最後まで、あいつは僕の名を呼んでいた。
何度も何度も、叫んでいた。
感情表現が普段は乏しいくせに、ぼろぼろと涙を流して必死に叫んでいた。
僕はアメリカに引き止められて、あいつに駆け寄ることが出来なかった。
手を伸ばしても、届かない距離。
ソ連に引きずられるあいつと、その場に繋ぎ留められ続ける僕。
僕たちの距離は、開き続けるばかりだった。
“もしも、あの時アメリカの手を力づくで振り払ってあいつの手を握れていたならば”
そのことは未だに、僕の胸の中で『後悔』という重い塊と成って存在している。
最近人気のK-POP音楽で目が覚める。
携帯のアラームを止め、僕は起き上がってから思い切り背伸びをした。
「…眠」
あくびをしながらカーテンを一気に開けると、一瞬だけ光の洪水に飲まれる。
真っ白な視界が戻るときにはもう既に頭はすっきりしている。
そのまま見下ろせば、社会が動き出している韓国の街並みが見える。
この光景を見るのが、僕は好きだった。
「…懐かしい夢を見たな」
ふと脳裏によぎる、あいつの顔。
胸がぎゅっと苦しくなるのは、決して僕の気のせいではない。
…あの日、北朝鮮と引きはがされてから今年でもう76年目。
『国の化身』という僕らは、ニンゲンが赤子として生まれてから老人になるまでの長い長い年月を、一切年を取らず過ごすことが出来る。国の化身は、生まれてから死ぬまで多少身長などは成長すれどほぼ何も変わらない。
それが、消滅するまでの永遠の時を生き続ける国の化身が背負った業だった。
だからなのかな。
毎朝鏡で見る自分の顔が、一瞬だけあいつの顔に見えてしまうのは。
「…早く顔、変わってくんねぇかな」
鏡に映る自分の顔を見て、無意識に言葉が零れる。
国という立場上美容整形は出来ないので一生この顔のまま。
元は同じ国だったので、嫌でもあいつに顔が似ているのだ。
鏡を見たら思い出すんだから、本当に勘弁してほしい。
顔を洗い、トースターに食パンを入れて焼いている間にクローゼットからパーカーとズボンを取り出す。
今日は淡い水色と白のグラデーションのパーカー。特にお気に入りのパーカー。
ズボンを履いてベルトを締めて、姿見を見つつ何となく服の形を整えていつもの僕の完成。
「…よし、今日も頑張るか」
否が応でも、僕がこれから先韓国として生活するのは変わらない。
大丈夫、今は日本もアメリカも居る。
中国とかロシアとかは怖いけど、何とか今までやれてきた。
…でも、やっぱり不安なのは北朝鮮の事で。
あいつとは引きはがされて以来、書面でしか会話出来ていない。
朝鮮戦争の時も、あいつは僕と直接会っていない。手紙で会話して、休戦協定を結んだだけ。
今、あいつが何をしていて、何を考えているのか。
僕は、あいつの今の本質を知らないままで居る。
ヘッドフォンを首にかけ、スマホはパーカーのポケットに。
財布をズボンのポケットに突っ込み、僕は家を出た。
9月中旬。
日差しはまだまだ強く、暑い日々が続いている。
「…あっづ…何この気温、バグってんじゃないの…?」
この気温に恨めしさを感じつつ、僕はさっさとアメリカのコーヒーショップへと入った。
エアコンが良い具合に効いていて、汗が一気に引いていく。
「…あ、キャラメルフラペチーノのトールサイズ一つで。カスタマイズは、エクストラソース、エクストラクリーム、エクストラシロップで…あ、チョコスコーンも一緒にお願いします」
店員さんに注文し、席を確保してスマホを取り出す。
Xを見たり、インスタを見たり色々だ。
呼ばれたので注文の品を受け取り、席へと戻ったところでトントンと肩を叩かれた。
「…誰?」
知らない奴だったら面倒だな。
何となくそう思いつつ振り返ると、そこに居たのは━━━…
「お久しぶりです、韓国さん」
長年会っていなかった、日本の姿だった。
「…あれっ、日本!?な、なんでこっちに居るの!?」
「私だって一応生き物なんですから、旅行くらいはしたくなりますよ。…それとも、何か不服だったり…しました?」
「えぁ!?い、いや、全くそんなことない!!てか座って、なんか申し訳ない!!」
「おや、構いませんのに…ですが、お言葉に甘えて失礼させていただきます」
日本が僕の真向かいに座った。
訪問が唐突過ぎて、まだ目の前に日本が居るのが信じられなかった。
「…それにしても、韓国旅行は久しぶりなもので…
また沢山建物が増えて発展したんですね」
「そりゃあねぇ。僕だって日本に負けない様に頑張らないといけないから必死に今頑張ってるんだよ~」
「ふふ、なら私も負けない様に発展させ続けなければなりませんね」
上品に日本が笑った。
今日の日本は着流し姿なので、この国では異様に目立つ。
現に、韓国の人々からちらちらと見られ続けている具合だ。
「…そうだ、韓国さん。最近ですね、K-POPが日本でも流行ってまして。にゃぽんもハマってるので、よければおすすめの曲とかあれば教えてもらえませんか?」
「K-POP?あ、そっちでも流行ってるんだ…嬉しいな、それは。
えっとねぇ、最近流行ってるのはこの辺の曲で…試し聴きした方が早いかも」
「そうなんですね、ありがとうございます…あ、この曲にゃぽんが聴いてたやつだ」
…そんな風に、他愛も無い会話を交わす。
僕らは政治面ではかなり仲が悪い。
でも、こうして文化という面で見るならば…アメリカにも負けないくらい強いって思ってる。
(…このまま、平和な関係が続けば良いんだけどな)
笑顔で話す日本の顔を見ながら、僕はふぅと溜息を吐いた。
「…あ、ごめんなさい韓国さん。
私、そろそろ行かないと…」
何となくの話の区切れの時、日本が不意にそう言った。
「あれ、もう行っちゃうの?もうちょっと話してようよ…」
「ごめんなさい韓国さん…これから予定が入っちゃってて…」
「…そう、ならしょうがないなあ…じゃ、次は一緒にゲームやろゲーム!今度こそ日本に勝つからね!!」
「ふふ、受けて立ちますよ」
日本は花が開くように、ふわりと笑った。
「では私はこれでお暇させていただきます。
今日はありがとうございました」
「うん、ありがとうね日本。じゃ、またね!」
背中を向ける日本に数秒間手を振り、日本が店を出ていく。
その背中を視線が数瞬だけ追いかけ、再び視線は机の上へと落ちる。
膝の上に置かれた自分の真っ白な手を見て、ため息が零れる。
(…なんで僕が、国の化身として生まれちゃったんだろ)
それも、この先進国…韓国として。
たまに思うのだ。
もし、もしも大韓民国の化身が…日本のような人物ならばどれほど良かっただろうと。
きっと、中国とは仲は悪くてもそれなりにやっていけていただろうし、隣国…日本との繋がりももっともっと深くなっていた筈。第二次世界大戦中ならば、大韓帝国の宗主国だった彼とも、まぁそれなりにうまくやれていたのかもしれない。
(…なんで、僕が…)
再び溜息が出る。
もう、疲れ切ったのだ。
IT技術が発展し、先進国として数えられるようになってから幾十年。
毎日毎日、必死に新しい技術開発に追われる日々。
韓国としての務めがこれから先も変わらず果たせるのか、もう自信が無くなっていた。
______________
「…さて、一体何の御用でしょう?」
目の前に立つ、着物姿の人物がそう問うた。
首を30度程右に傾け上品に着物の袖で口元を隠しているが、それでも隠せない目元に浮かぶ薄笑い。
この人物は、紛れもない極東の国であり…そして隣国の一つである、日本だった。
「…急に呼び出してすまなかったな」
「全くですよ、本当に。一応、私とあなたは敵対関係。こうして秘密裏に会うのも一苦労ですよ」
国を出るとき、一体どれほど韓国への渡航を止められたことか…と、日本は頭を抱える。
「…さて、要件は手短に聞きましょう。
嗚呼、貴方がこの国境を超えた時点ですぐに韓国側の国境警備隊に射殺命令が出ますからお気をつけて?」
「それは日本、お前も同じだろう?」
「ふふ、そうでしたね」
日本がまた笑った。
こいつのこういう、澄ましたところが大嫌いだ。
「…単刀直入に言う。
これ以上━━━…」
「これ以上、あいつを追い詰めるな」
そう言った途端、日本はその綺麗な目を見開いた。
「…暇だな」
さっきのカフェを出て、再び外へ。
容赦ない日差しが照り付け、歩いているだけだというのに頬を汗が伝う。
「あっつぅー…」
島国である日本の夏とは違って、韓国は大陸の国。
だから気候も大陸性のものになるから、冬は日本より寒さが厳しくて、夏は日本よりもずっと暑い。
(国の務めなんか放棄して日本に移住したいー……)
流石の気候の酷さにうんざりとする。
でもこんなこと言ったら他の国に死ぬほど怒られるから、こんなことを言うのは心の中でだけ。
(…って、だめだ、最近どこまで行っても国を辞める事しか考えてない)
僕が国を辞められるのは崩壊するときか、他の国に殺されるとき。
僕が望んでの自殺は、認められてない。唯一の自死の方法は、国民が内乱を起こして国としてやっていけなくなってしまった時だけだった。
国民が内乱を起こすのはあまり無い事例だから自死するための方法として期待するのは良くない。
かといって、他国に侵略されて滅びるのも…今は国際連合とか、平和条約とかがあるから可能性は0に近い。可能性としては…中国あたりならギリギリありえるかもってだけだし。
まぁなんだ、自分は結局韓国としての務めを果たすしかないのか。
改めて再認識して、やたらと気分が下がった。
夕方。
結局今日は服屋を見て回ったりPCショップを見たりしてぼんやりと過ごした。
公園のベンチに座って遊びまわる韓国の宝を見つつスマホを眺めていた時、唐突に着信音が鳴った。
「…電話?」
着信相手は、国境付近の警備をしている軍隊の隊長から。
そのまま電話に出た。
「…もしもし、僕だけど…何かあった?」
「もっ、もしもし祖国様!!き、北朝鮮が…」
「…北朝鮮ッ!?」
まさか、休戦協定を破って侵攻してきたのか。
嫌な考えがぐるぐると頭の中を巡る。
「ま、まさか…また、侵攻が始まったのか!?」
「いえ、そういうわけでは…そ、その、大変申し上げにくいのですが」
隊長の声音はやけに焦っているようだった。
「…は?」
そこから、僕はほとんど無意識だった。
走って家に帰り、今まで着ていたパーカーを脱いで慌てて洗濯機に放り込み、クローゼットの奥からずっと使っていなかった軍服と軍帽を取り出す。
「…70年ぶり、か。この軍服も」
かつて、朝鮮戦争で北朝鮮と戦火を交えていた時。
僕の片割れともう一度会えるかもしれないと淡い期待を抱いて、僕はこの軍服を着て最前線で戦っていた。
その時に着ていた軍服。
袖を通す。
裾の長さも、袖の長さもピッタリ。
あの日から、僕の体は全く成長していない。
軍帽を被ると、姿見の中には70年前の虚ろな目をしていた時代の僕と全く同じ姿をした人物が映る。
「…早く、行かないと」
「…北、僕の、愛しい片割れ」
「どうか、会えますように」
まじないの様に呟いてから、僕は家を飛び出した。
走り続けて、約数十分。
国である僕は、人と比べて尋常じゃない体力を持ってるから国境付近まで走るだなんて余裕だった。
息一つ乱さず、僕は国境警備隊の本部テントへと入った。
「っ、お疲れ様です祖国様ッ!!」
一斉に敬礼を向けられる。
「嗚呼、お疲れ。
…で、今の状況は」
自分でもびっくりするほど冷静で無感情の声が出た。
先程電話をかけてきた隊長が、一歩僕の方へと近づく。
「では、説明させていただきます。
先程国境警備隊より連絡があり、『こちら国境警備隊1軍、国境付近にて北朝鮮の国の化身の姿を発見せり』との内容でした。そのため私含め本部テントに居た数人の兵士と共に国境付近の確認にあたったところ、軍服を着用した北朝鮮の国の化身と思しき人物を発見した次第です」
「…そう。確認ご苦労、あとは僕がやるよ」
そう言って立ち上がると、テント内がざわめいた。
「ま、まさか直接国境付近に出向かれるおつもりですか!?」
「それ以外に何があるってのさ」
「で、ですが、今はまだ国際法上北朝鮮と韓国は戦争状態にあります!!いくら休戦協定を結んでいるからとて、決して攻撃されない訳では…!!」
「…あのねぇ………」
深い溜息を吐いた。
そして、隊長の肩に手をポンと置いた。
「国の化身は、国の化身でしか殺せない。人間に僕は殺せない。そんなのとっくに知ってることでしょ?」
「は、はい、朝鮮戦争中…どんな人物に撃たれようと決して祖国様だけは後ろに退かなかったと…聞いております…」
「そういうことだよ。大丈夫だって、今の北朝鮮に僕は撃てない。大丈夫」
「なっ、なぜそう言い切れるのですか!?」
僕はテントを出ようとしていた足を止めた。
そして、半身だけ振り返る。
微笑みを浮かべた。
「血を分けた双子の片割れと、76年ぶりの再会だ。今日くらいはあっちも許してくれるだろ」
今度は、誰も僕を止めなかった。
砂利の感覚が軍用ブーツを通して伝わってくる。
ざくざくと砂利を踏み、次第に国境付近へと近づく。
「おっ、お疲れ様です、祖国様」
「嗚呼、今日も警備お疲れ様。いつもありがとう」
僕が一歩進むごとに、国境警備隊たちはさっと横へと避けていく。
堂々とその中心を進み、僕は国境の目の前へとやってきた。
大きく息を吸い込んだ。
「…ねぇ、北。そこに居るんでしょ?」
「…やっぱり、来たか」
国境の、その先。
朝鮮民主主義人民共和国領。
一人の人物が姿を見せた。
「…久しいな、『南朝鮮』。76年ぶりか」
白い布で顔を隠し、軍服をきっちりと着用する姿。
昔から几帳面だった、北朝鮮の姿。
昔は高かった声も声変わりしたのか、すっかり落ち着いた声になっていた。
「…北………」
「…ずっと、会いたかった」
涙が零れそうになるのを、必死にこらえる。
こんなところで泣いては、国境警備隊の皆に迷惑しかかけないだろうから。
下を向いて、軍服の裾を握り締めていたところを北はじっと見ていた。
そして、不意に一言。
「…国境警備隊、これから南朝鮮の国の化身と話し合う。一時的に後退せよ。後退しない者は射殺とする」
顔を上げた。
北が、トランシーバーで指示を飛ばしているようだった。
「繰り返す、これより南朝鮮との会談を行うため国境警備隊は一時本部テントに後退せよ。射撃隊に告ぐ、後退しない国境警備隊が現れれば即射殺せよ。そして、国境付近の警備は俺が指示を出すまでしなくても良い。各自、俺が指示を出すまで休息時間とする」
北のその言葉で、あちらの国境警備隊が一気に居なくなった。
その光景が信じられなくて、2,3度、瞬きを繰り返した。
「…俺はお前とここで戦うつもりは無い。そちらも、国境警備隊を後退させてほしい」
「…あっ、えっ、嗚呼、そう、だね…」
僕もあわててトランシーバーを取り出し、無線の電源を入れた。
「あー、あー…マイクテス、マイクテス……
こちら韓国、国境警備隊全部隊に告ぐ。これより先、北朝鮮との会談を行うため一時的に国境警備隊は本部テントへと後退せよ。僕が指示を出すまでは、国境付近の監視は禁止とする。繰り返す━━━…」
…2度指示を飛ばしたところで、僕の周りに居た国境警備隊の人たちも居なくなった。
この国境付近に居るのは、僕たち二人だけ。
「…さて、これで会談の準備は整った。
こうして直接話すのは…大韓帝国から分裂して、初めてか」
「うん。それまではずっと書面でしか会話してない。…休戦協定結ぶ日も、君は来なかったし」
「あの日は出るなって口うるさく言われたんだよ…」
あまりにもうんざりしたように言うものだから、思わずフッと笑いがこみ上げる。
「…笑うなよ、南…」
「笑わせる北が悪い!」
ぷぅ、と頬を膨らませて言うと、今度はあちらがほんの少し笑った。
「北だって笑ってるじゃん!!」
「いや、それはお前が笑かしに来るからだろ…!!」
「僕笑かしてないもん!!さっきの北とおんなじこと言ってるだけ!!」
北はそのあとも、笑っているようだった。
でも、すぐにそんな声も消える。
聞こえるのは、草が風で揺れる音だけ。
何を話すでもなく、ただ…僕たちはずっと、向かい合って立っていた。
僕たちの関係なら、それだけで十分だった。
僕たちは今敵同士。家族なのに、敵。
この関係が邪魔して、世間話も簡単にできない。作戦が全部、バレてしまう可能性があるから。
76年ぶりの再会だというのに、立場に縛られて何も話せない。北に、触れる事すらできない。
「………ねぇ、北」
「…なんだ、南」
無意識のうちに、声が出ていた。
「…もうここで、朝鮮戦争を終わらせようよ。これ以上争ったって、何も生まない。このままずっと、休戦状態で…君に、こうして会うのも一苦労するような関係…僕はもう嫌だ」
「…だから、和平条約を結ぼうと?」
「どう…かな?」
藁にも縋る気持ちだった。
でも、その希望は呆気なく折られた。
「…俺の国の民は、お前との和解を望んでいない。それに、今の俺は社会主義国家。…民主主義のお前とは、決して分かり合えない。ソ連さんに、そう教えてもらった」
「…ッ」
ソ連。その名を聞いて、ぐっと喉が詰まるような感覚に襲われる。
今は崩壊して消え去ったが…あの日、北を連れ去った国。
却下されれば、僕の提案はそれでおしまい。
「…国民が望まないのなら、じゃあ…今回は、引くよ」
「嗚呼、それが助かるな」
北が頷いた。
…また流れる、沈黙。
「これ以上、何もないならば」
北が言った。
「…俺は、平壌に帰らせてもらうが」
その瞬間、冷や汗が流れた。
(━━━…だめだ)
そう思った時には、北は僕に背を向けていた。
(何か、何か言わないと、また━━━…)
(また、会えなくなる)
思わず、叫んでいた。
北は、足を止めた。
「…どうした、南」
北がそう、問うてきた。
「一つだけ、お願いを聞いてくれないかな」
「お願い…か。内容にもよるが」
「本当に、本当にちょっとだけで良い」
「君に、触れさせてくれないかな」
北は驚いたように背筋を伸ばした。
「なんだか、まだ北が僕の目の前に居るって信じられなくてさ。
76年も、会えなくて…だから、一度だけで良いから、触れさせてほしいな…って。…だめかな」
もしかしたら、これが北と会う最期の時間かもしれない。
もしもそうならば、もう一度だけ。
北に、触れたかった。
生きて、そこに居ると信じたかった。
北は、数秒の間考えていた。
僕にはその時間が、永遠にも感じられた。
「…一度だけ、なら」
北が、韓国との国境ギリギリまで来ていた。
あと10センチも進めば韓国領へと入るという…本当にギリギリのところまで。
「ここならまだセーフだろう。…一度だけ、だからな」
ふらりと、誘われるように歩みを進める。
そして、僕はそのまま北に抱き着いた。
僕の手と顔が、北朝鮮領に入っているが…まぁ国境警備隊が居ないからセーフ。
「う、わっ!?ちょっ、南ッ、急に何を…!!!」
「…北………」
僕は、北に抱き着いたまま言った。
「やっと、やっと会えたぁ………」
北の体は、暖かかった。
心臓がトクトクと鳴っていて、ちゃんと生きてる。
ちゃんと、息をして、ここに立ってる。
その事実が知れただけで、ただ素直に嬉しかった。
「……南……」
北は、僕が抱き着いて数秒間棒立ちで固まっていた。
でも、すぐに背中に手が回された。
お互いに、お互いの領土へとほんの少しだけ侵入していた。
「…お前に、ちょっとだけ嫌がらせしてやろう」
北の声が聞こえたと同時、僕は北が居る方へと思い切り引っ張られた。
一歩、足を踏み出してしまえば。
「……ッあーっ!!!!!こ、ここ、北朝鮮領じゃんか!!!!思いっきり入っちゃった!!!」
全身丸ごと、北朝鮮領に立っていた。
「ふは、俺なりの今思いつく嫌がらせだ」
「何を生意気な…!!じゃ、北にもやり返してやる!!」
「うわっ!?」
今度は僕が北の腕を思いっきり掴んで、韓国領へと引っ張ってやった。
北も、僕の領土に完全に侵入してしまった。
「あははっ!!!北も同類だ、他国の領土へ無断で侵入しちゃったね!!」
「お、お前なぁ…俺も、何も言えないが…!」
はぁぁ、と呆れたように韓国領で仰向けに倒れこむ北が溜息を吐いた。
きっと、国境警備隊が居たら今北は銃弾でハチの巣にされていただろう。
お互いをよく知る僕たちだからこそ、許される行動だった。
「……」
「…………」
さわ、と草木が揺れる。
「…北、顔見ても良い?」
「…布の意味が全く無くなるだろ」
「10秒で良いからさ」
「それにさっき、1回だけ触れさせろって言ったろ。もう俺に触れるのはダメだ、規約違反だ」
「それはもう今こうして北を韓国領に連れ込むのに2回目触れたから意味ないよ」
「駄々をこねるのが上手いな、相変わらず」
まるで幼い子供を相手にされるようにあしらわれたので、流石にちょっとムカッとした。
「…で、良いの、ダメなの!?」
「…ダメって言ったところで、お前聞かないだろ。見るならさっさとしろ」
北は仰向けのまま動かない。
僕は、そっと北の顔にかかる布に手を掛けた。
「……随分とイメチェンしたね」
青と白を基調とした国旗。
右目には赤い星があしらわれた眼帯をつけて、唯一見えている青い左目でじっと僕を見ていた。
(…綺麗だ)
その目は、やけに澄んでいて。
ミサイル発射を繰り返す、鎖国中の国だなんて思えないほどだった。
「…………み」
どこか思考がふわふわとしていた。
「……なみ」
視界も、なんだか…ふわふわしている。
「……南」
遠くから呼ばれている声がする。
その瞬間、僕は、
視界が真っ暗になった。
目の前で、片割れが倒れた。
(くそ、布が邪魔で…視界が悪い!!)
軍帽から顔隠しようの白い布を取り、南の口元と首元に手を当てる。
「…息、してる…脈もある……」
眠ったか、気絶したか…
何にせよ、南の体には異常はなさそうだった。
「良かった…」
そう思って、息を吐いたその瞬間。
「韓国さんに危害を加える行為はダメですよ、北朝鮮さん」
冷たい金属が、首元に当たる。
一瞬にして、背筋が逆立つ。
死が、真後ろに居た。
「……日本、か」
「韓国さんが国境付近へと出たと聞いて駆けつけてみれば…どうしたんです、北さん。ここは韓国の領土ですよ。あなたが1秒でもその場に留まるということは、不法入国と見なされますが」
つぅ、と刀の先でうなじをなぞられる。
美しい微笑みを浮かべながら刀を向ける軍服を着た日本は、言えば死神そのものだった。
立ち上がって、俺は北朝鮮領内へと戻った。
倒れたままの南を見捨てるようで、心がどこか苦しかった。
「…はい、それで大丈夫です。すぐに戻っていただけましたし、当の韓国さんも意識が無いので今回の事は不問とさせていただきましょうね」
日本が刀を鞘に納め、韓国を軽々と抱き上げた。
そして、ふわりと微笑む。
「…では、私はこれで━━━…」
「待て、日本」
笑顔のまま日本は首を傾げた。
「……南を、どうするつもりだ」
「…どうするつもり、とは?」
とぼけるように言う日本に、流石に苛立ちを覚える。
「南に、また危害を加えるのか」
「そんな人聞きの悪い…。後退させて、看病するだけですよ」
「お前の行動を見ていたら嫌でも人聞きの悪い物言いをするしかないだろう!!!」
静かに話す日本とは対照的に、俺はとうとう声を荒げた。
「お前は大日本帝国時代から何も変わってない!!第二次世界大戦中、お前は誰にでも良い顔をして、まるで誰かを助ける様に振舞いながら…内心は誰かから大切なものを奪い取る事しか考えていなかった!!」
「……ほぉ?」
日本が目を細めた。
「今のお前も変わってない!!!
その、目だ!!!すべてを掌握するような、その、目が…」
「あの頃のお前と一緒だ!!!」
俺はそこまで叫んで、ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返した。
当の日本は、無表情で涼しい顔をしていた。
(でも、流石に何か堪えたはず…)
「…………」
そう思った俺が間違いだった。
「……それが?」
「…え?」
日本は無表情のまま、声を発した。
「利用できるものを利用しようとして、何か悪いですか?」
「…ッ、は」
頭を鈍器で殴られたような、そんな衝撃だった。
「…おま、え………」
「…………これ以上話していても無駄の様ですから、私はここで失礼させていただきます。
…嗚呼、それ以上何か言えばすぐにあなたの頭を消し飛ばしますからね。
では」
日本は軽く礼をして、背を向けた。
そして、南を抱えたまま韓国領の奥へと去って行く。
「待て、日本ッ!!!!日本…!!!!」
その願いも虚しく、“韓国”と日本は夜の闇へと溶けていった。
一人、北朝鮮の国境ギリギリに俺は取り残された。
視界がボヤける。
「…かん、こく…………」
「…神様って、心底残忍な存在だな」
そう呟いた途端、頬を涙が伝った。
______________
「…危ない所でした、韓国さんを北さんに取られては極東の西側陣営がやりづらくなりますから」
私の腕の中で眠り続ける韓国さんの顔を見て、自然とそんな言葉が出る。
あの時韓国さんが倒れたのは、私が麻酔弾を撃ったからなんですけどね。
ふと空を見上げ、立ち止まる。
気持ちの良い風が流れ、軍服の裾が揺れた。
「あれ以上北さんに話させてしまっては、少々都合の悪いことまで話されちゃってたんでしょうね。…良かったです、早めに切り上げてきて」
「………都合の悪いことは、何かって?
それはですね……」
「…詳しく知らない方がご自身の為ですから、深堀りしない方が良いですよ」
「…って、何を一人で話してるんでしょう…流石に日本で働きすぎちゃいましたかね」
不意に自嘲的な笑いがこみあげる。
私は決して自身の思惑を悟られない様に表情を繕いながら、国境警備隊の本部テントへと戻るのだった。
朝。
自然と目が覚めた。
起き上がると同時に、涙が零れる。
「…あれ」
布団に落ちた一粒の涙の跡を指でなぞる。
…なんで、泣いてるんだろう。
そういえば、夢を見ていた気がする。
…でも、いつも見ていた、ソ連に北が引きずられていくんじゃなくて…
僕自身が、誰かに引っ張られて北と離れる夢。
北は誰にも引き止められていなかったのに、その場から動けずに居て…
僕も、必死に手を伸ばすけど、北には届かない夢。
(…僕を引きずっていたのは、誰だったんだろ)
トースターに食パンを入れ、クローゼットからパーカーを取り出す。
(…まぁ、夢だし気にしなくて良いか)
鏡を見ながら身だしなみを整える。
携帯に着信が入っていた。
見ると、日本からのメール。
『おはようございます、韓国さん!
日韓首脳会談についてなのですが、1週間後を予定したいと思っております。
韓国側の予定は大丈夫そうでしょうか?』
「…あ、忘れてた。日韓首脳会議…
『大丈夫だよ!ありがとう』…っと」
メールを送れば、すぐに既読が付いた。
『ありがとうございます!では1週間後の来日を楽しみに待ってます!
ところで、体調はもう大丈夫ですか?』
日本から返信が来た。
体調、っていうのは…この間、北と会った時に僕は倒れてしまっている。
そこからなんだか体がだるくて何をするにも大変だったんだけど、今日はどこもだるくない。
「『もう平気だよ、心配してくれてありがとう』…っと」
またすぐに既読が付く。
今度は『良かった!』とスタンプが送られてきたので、反応を返すボタンを押してからスマホを閉じた。
丁度食パンが焼けたのでお皿に移し、牛乳を注いでテレビをつける。
今日のニュースを見つつ、ぼんやりと食パンを口に運んだ。
(…なんでだろう)
引っかかったのは、さっきのメール。
日本が、僕を心配してくれてた。
すごく、すごく嬉しいこと…なのに…
(なんだか、暖かさが無かったっていうか…むしろ、すごく冷たかった……?)
その言葉に、一切の心配の色が見えなかった。
文字だけだから、当たり前なのかもしれないけど…それでも、どこか冷たい。
(北との公文書の方が、なんだか暖かかったような気もするんだよね。変だな、今は敵…なのに)
また、ため息が出る。
「…まぁ良いか、考えてたって無駄だし」
テレビから視線をずらし、窓の外へと目を向ける。
朝日が昇って、建物の窓ガラスがきらきらと輝く姿はやけに幻想的だ。
(北も、この朝日見てるのかな)
ふと北の事を思い浮かべた。
進む道を違えた、双子の片割れ。
僕はいつかまた、同じ道を堂々と歩ける日を心待ちにしている。
だから、その日が来るまで僕は━━━…
どれだけ国を辞めたくなっても、決して辞めたりしないように。
いつか、北と堂々と隣を歩けるように。
今日も世界を構成する国の歯車として頑張ることを、心に決めた。
Fin.
いやわけわからなさすぎて萎えました。
スランプ…来るな…
でも字数だけはご立派で…1万3578文字…
わけわからないと思いますがまぁ何となく日本が裏でヤバイことを考えていたって思っていただければいいかなと。
…ではこれで今回は終わります。
また次回!
コメント
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日本さんこわ、、、 朝鮮兄弟切ないというか、、、 なんか、辛いお話ですね、、、
え”画面の前の私たちを認識してる…怖…我が祖国ながら怖いわ
悪役の日本さんも良すぎて泣ける、、、北韓の圧倒的主人公感がすげぇ、、、✨