注意書き!
・東西ドイツのお話です。
・旧国注意。
・R-18は無いです。てか書けません。ムズい。
・語彙力のかけらもありません。スランプktkr。
あとは…そうですねぇ…
(今回のお話はサカナさんのお誕生日をお祝いしようという目的で書かせていただきました)
では本編Go。
第二次世界大戦後。
大韓民国は北朝鮮と韓国に分かれた。
しかし、第二次世界大戦の終結が原因で分断され引きはがされた国は、アジアだけではなかった。
父上は偉大な方だったように覚えている。
世間からはナチズムを否定され困難に幾度となく立たされた父上でも、最終的には全員を統率することのできた…思考も実力も、全てにおいて優れていた方。
勿論ユダヤ人に対してはびっくりするほど厳しいお方だったけれど、それでもユダヤ人のとある少女とは仲良くしていたそうだからこれまた驚きだった。
そんな父上は、死んだ。
拳銃自殺、と呼ばれる類のもの。
銃口から煙が立ち、地面に広がる赤い海。
まるで、幼い頃に父上に連れて行ってもらい…3人で見た、バルト海の恐ろしいほど赤い夕焼けのような、紅。
弟は、恐怖で僕の腕にしがみついていた。
僕は、血を流して眠ったように背もたれに体を倒れこませて死んで居る父上を、じっと見ていた。
まだ幼かった自分たちは、父上から受け継いだ賢い頭でよく理解した。
…ナチス・ドイツの時代は、今ここで終わったのだと。
「おはようございます、アメリカさん」
ある朝。
アメリカさんの執務室のドアをノックしてから開けると、笑顔で挨拶をしてくれるアメリカさんが居た。
「…ああ、西ドイツか。おはよう、今日の体調はどうだ?」
「おかげさまで大変良いですよ」
「HaHa、なら良かった」
第二次世界大戦後、ナチス・ドイツ…私たちの親が死んだとき、私を引き取ってくれた方。
私は新しく西ドイツと名付けられ…戦争終結から数年後に民主化と自由を目指してアメリカさんやイギリスさん…フランスさんなどと出会ってからはずっとアメリカさんたちの指示に従い、日々資本主義国として経験を積んでいます。
「そういえば、最近…ソ連の動きが怪しくてな。俺とソ連とで睨み合いが始まるかもしれない」
「ってことは…米ソで戦争、ですか?」
「Mmm…多分戦闘状態にまではならんと思うがな。一応、国連があるし」
多少驚きを隠せない私を横目にアメリカさんが思い切り背伸びをすると、椅子はギィと音を鳴らしました。
「Could War…ですか。もしそうなれば私たちも巻き込まれる形になるんでしょうか」
「ドイツが東西に分かれ続ける限り、米ソ同士が対立すれば必然的に東西ドイツも対立するだろうな。一応お前も戦争の準備をしておいてくれ。今までの動向上、おそらく戦闘状態には持ち込まれないはずだが…念のため、な」
「…わかりました」
どことなくぎこちない返事を返すと、アメリカさんは無理した様に笑顔を作った。
「ま、朝からこんな話しても気分下がるよな!朝食は下に用意してるから、食べてきたらどうだ?」
「…そう、ですね。では、お言葉に甘えて…」
礼儀正しくお辞儀をしてから部屋を退出しました。
自分のつま先を見つめ、ため息を一つ。
(…冷戦、か)
階段を下りる途中、手すりを持って私は壁に寄りかかりました。
『ドイツが東西に分かれ続ける限り、米ソ同士が対立すれば必然的に東西ドイツも対立するだろうな』
アメリカさんのあの言葉が私の脳内でぐわんぐわんと反響しています。
…嗚呼、
「戦争なんか、したくないな…」
それも、東ドイツと…だなんて。
元は、同じ国だというのに…なぜ、統治している国同士が睨み合いを始めるだけで私たちの関係も悪くなるんですか?
…なぜ、戦争はあれほどの死者を出すとわかっていながら、また戦争まがいの事を始めるんでしょうか。
私には、到底理解が出来ません。
今日も僕は軍服に袖を通す。
アイロンをきっちりとかけ、しわ一つない軍服をまとい終えれば実感するのは自分が社会主義国の統治下におかれているという事のみ。
溜息が零れる。
「………西ドイツ、元気かな……」
ふと脳裏によぎる、自身の片割れの姿。
西ドイツ。
第二次世界大戦で負けてから、僕たち二人は分割統治されることになった。
僕はソ連さんに、西ドイツはアメリカやイギリス、フランスに。
そして、冷戦が米ソの間で始まってから…僕たち二人は、何をしようとも決して会えない関係に陥った。
まるで、高い高い壁に阻まれるように、どんな手を尽くしても、だ。
西ドイツは僕の憧れだった。
荒っぽく不器用な僕と違って、西ドイツはどこまでも優しく、誰にでも平等に接した。
人格者でもあり、僕の憧れで…一番の自慢の弟。
そんなやつと、もう数年は会えていない。心配にならない方が無理がある。
(こんな時…父上なら…)
父上なら、どうしていただろう?
なんて考えが浮かぶ。
天性の精神の掌握術、頭脳、戦いの才能を持ち合わせていた、時の軍人であり政治家、ナチス・ドイツ。
世界恐慌に陥ったときはその頭脳を使ってドイツの財政を立て直して見せた、自慢の父上。
そんな父上なら、今の分断されたドイツを見てどういう行動をとるのだろう?
悶々と考えを巡らせていた、その時。
「…東ドイツ、お早う。朝飯出来てるぞ」
ソ連さんが部屋のドアから顔を出した。
僕よりも何十センチも高い位置にある黄色い目が、まっすぐに僕を見ている。
慌てて軍帽を被り、表情を繕った。
「ソ連さん、お早うございますッ!」
「おー、お早う。もう降りてこれるか?」
「はい、すみません遅れちゃって…すぐ行きます!」
「まぁ良いけどな、そのくらい。色々作ってあるから食えよ」
「朝からありがとうございます…」
ん、と短く返事をしてソ連さんは去って行った。
緊張で力の入っていた体から一気に力が抜け、へたをすればそのまま座り込んでしまいそうな程の疲れに襲われる。
ソ連さんと話すときはいつもこうだ。すごく優しいことはわかっているのに、まだどこか信用できずにいて…怖い。
あの長身で、もしも僕のただでさえ少ない領土がもし攻められてしまえば…
そう考えるだけで鳥肌が立つ。
「…朝ごはん、食べないと」
力が抜けた体でふるふると頭を横に振って思考を取り去り、そのせいで視界がくらりとしつつも立ち上がって、慌ててダイニングへと急いだ。
「…戦争の準備って言ったって…何をどうすれば…」
アメリカさんに言われた通り、少しずつ戦争の準備を進めることにした。
けれど、何を準備したらいいのかわからない。
兵器とかはアメリカさんに取り上げられてしまっているし、今は拳銃の一つすら握らせてもらえていない。
勿論、拳銃は厳しい厳しい父上の指導のおかげで完璧に扱える。だからこそ持たせてもらえないのだろうけど…
(アメリカさんにほぼ全部禁止されてるせいで、戦う術がないんですよね…)
深いため息が出る。
「…こんな時、父上ならどうしたんだろう」
戦いの天才、ナチス・ドイツ。
偉大なる父上ならば、どうしていただろう?
…死人に聞く術はないと、わかっているのだけど。
ならば、私が聞ける戦いに強そうな人物はあと一人。
「東ドイツなら、どうするのかな」
今は社会主義国・ソ連に統治されている、私の双子の片割れ。
幼い頃、戦いがすごく苦手でよくいじめられていた私を、彼は見事な戦いっぷりでよく助けてくれた。
きっと今は、その戦いのセンスが大幅に伸びている筈。
考える事しか取り柄の無かった私と違って、東ドイツは永遠の憧れで自慢の兄だった。
壁さえ無かったら、と突如頭に浮かぶ。
きっと、壁が無かったら…気軽に悩みなんて相談出来たはずなのに。
分割統治されている今を恨めしく思う。
「…私たちは、一体どこで…どこで、道を間違えたんだろう…?」
でも、そんな答えわかりきっている。
私の父上が間違えたんだって事くらい、ちゃんと…わかってるんだよ。
でも、そう問わずにはいられない。
父上は、私の永遠の誇りだから。
その日の夕刻。
「アメリカさん、少し散歩に出てきます」
「ん?嗚呼、わかった。もうじき陽が落ちるから、早めに帰るんだぞ」
「はい、わかりました!」
しっかりと笑顔を作り、アメリカさんの了承を得る。
息が詰まるほど気を張り続ける私の最近の息抜きは、夕方の涼しくなってきた頃合にする散歩だった。
今日は、どこへ行こうか。
玄関を出てから私は考える。
この間はお店がたくさん並んでいる道を歩いた。
その前は、確か…山の方へと歩いた気がする。
「だったら今日は、海にしましょう」
時間は現在4時30分。
今から海へと向かえば、夕焼けが見れるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて、私はバルト海へとつながる道に一歩、足を踏み出しました。
机の上で目覚まし時計がアラーム代わりに鳴った。
すぐに時計を止め、思い切り背伸びをすると体に鋭い痛みが走る。
「痛ッ…」
どうやら、軍服を着て公務をこなしていたら随分と体が凝り固まってしまったみたいだ。
「…そろそろ、行かないと」
長時間座っていたせいで痛む腰を押さえて立ち上がって廊下に出て、すぐそばにあるソ連さんの部屋のドアをノックする。
「失礼します、東ドイツです」
「良いぞ、入っても」
「…失礼します」
たったそれだけの会話で、体が強張るのを感じる。
目の前に居る大国に、ほんの少しの畏怖を覚える。
黒い眼帯で見えないはずの目も、じっと僕を見据えている気がした。
長身の所為で、やけに威圧感が強い。
負けじと声を絞り出した。
「あの…少し、外出してきてもよろしいでしょうか?」
「外出?どこにだ?」
「それは……」
バルト海、と答えそうになり、言葉を必死に飲み込む。
「特に、決めておりません。少々散歩してこようかなと…その程度です」
少し違和感があるかもしれない言葉を必死につなぎ合わせて声に出す。
ソ連さんはウシャンカ帽の耳あての部分をいじりつつ、考えるような素振りを見せていた。
そして、数秒後。
「…まぁ、良いけど」
ぶっきらぼうにソ連さんが言った。
「本当ですかッ!?」
…と、思わず体を乗り出すと、ソ連さんは反対に珍しくびっくりしたように体をのけぞらせていた。
「いや…別に、嘘は言わないが…」
「ありがとうございます!!では、さ、早速行って参ります!!」
「…おー、気を付けてな…」
流石のソ連さんも呆気に取られているのか、まるで子供の返事のような言葉しか出ていなかった。
僕は靴紐を結び直し、急いで玄関を出た。
空は、すでに夕焼け空。
あと1時間もすれば完全に日が沈むだろう。
「━━━…間に合う、かな」
大きく息を吸う。
そして、東ドイツの街を駆け出した。
今日は、夕日がとても綺麗に見える日。
夕日は、せっかくならば━━━…
父上と、西ドイツと見た…最初で最後のお出かけ。
バルト海で、見たかったのだ。
(急がないと、陽が沈んでしまうな)
痛む体に鞭を打ち、足が棒の様になることを覚悟して海岸まで全力で走った。
「……着きました、か」
辺りに響き渡る、波の音。
私はバルト海の砂浜に着いたことを確認し、砂の上に座り込む。
足を抱え、小さくなり、ただぼーっと波を見つめる。
何もしない時間が、今はただ切実に欲しかった。
「…綺麗だな」
今は夕方。
昔ほど綺麗ではないが、それでも十分美しい夕暮れ。
太陽を直接見ない様に気を付けながら、水平線をただ眺めていた。
その時。
「…え?」
突然、自分以外の声が聞こえる。
聞き覚えのある…けれど、ほんの少し低くなった声。
振り返ると、そこに居たのは━━━…
「…東、ドイツ………?」
見間違えるわけが無い。
軍服を身に纏った、僕の兄の姿だった。
「…西ドイツ…?」
私の声で、あちらも気づいたらしい。
おそるおそる、といった様子で、こちらに歩いてくる。
どうにもその時間がまどろっこしくて、私は思い切り走って━━━…
東ドイツに抱き着いた。
「に、西ッ!?きゅ、急に何を…ッ」
ぎゅぅ、と抱きしめれば、東の心臓の音が聞こえる。
トクトクと規則正しく動いている心臓の音を聞いていたら、なぜか、なぜか
涙が一粒、零れた。
バルト海の砂浜に来れば、人影が見えた。
先客でもいたのだろうと思った程度だったけど、なぜかその人物が気になった。
バレない様に見ていたら、ふと視線が合った。
澄んだ青い目。
ドイツの国の化身だと証明する、顔の模様。
記憶の中でしか会えないと思っていた、すぐに消えてしまいそうな程に儚い雰囲気を纏った人物。
「…東、ドイツ…?」
そう問われたとき、すぐに僕は理解した。
…目の前に居る、こいつは
僕の片割れなんだと。
「西、ドイツ…?」
声が震える。
腕も足も、鳥肌が立っている。
目の前に居るのがどうにも信じられなくて、僕は近づこうと一歩、歩を進めた。
「っ!?」
そんなことをしているうちに、いつの間にか走ってきていた西ドイツが急に抱き着いてきたかと思えば…僕の左胸に耳を当てた。
じっと止まって、僕の心臓の音を聞いているらしかった。
昔よりも小さくなったように思える体躯。
きっと、僕が成長した証拠なんだろう。
「……ちゃんと、居る………」
ポツリと、西ドイツが言った。
「東が、ここに居る…!!!」
そう言うと同時に、ボロリと大粒の涙が綺麗な頬を伝って地面に落ちる。
絶え間なく流し続けている、涙。
片割れが泣いているのを見ると、ぎゅっと胸が苦しくなる。
だから、それを紛らわすように僕は西の頭に手を置いて父上が西にしていたように頭を撫でた。
(………嗚呼、そうか)
笑顔で涙を流し続ける西ドイツを見て、ぼんやりと感じた。
(僕と西ドイツが再会したのって、数十年ぶりだもんな)
(…そんなに会えてなかったのに、思い出の場所で会えたなら…涙くらい、出るよな)
冷静に物事を思っていた自分の視界が、ぼやける。
熱いものが、頬を伝っていく。
自分も、いつの間にか涙を流していた。
さんざん泣いて泣き疲れたのか、西は海岸に座り込んだ。
僕もその隣に座り、何をするでもなくただ海を見つめた。
「…どうして、東はここに居るんですか?」
どこかたどたどしく、西が尋ねた。
僕は前を見たまま、少し考えた。
「…今日は、夕日がきれいに見えるらしいから。
折角なら、バルト海で見たいなぁって。…そう言う西は、どうしてここに?」
「えっ、わ、私!?……そう、ですね……私は………」
西ドイツは、ふわりと笑った。
昔と変わらない、目を細める笑い方。
「ただの散歩です。懐かしい海を、また見たくなりましてね」
「…そっか」
そこまで話して、また無言の時間が流れる。
波の音が、辺りに響く。
ふと、辺りが暗くなった。
「っえ、な、何!?急に暗く…!!」
「大丈夫だぞ、西」
急に暗くなった世界にこちらもびっくりするほどうろたえる西を出来るだけ優しい声でなだめる。
(…そろそろ、か)
「…ほら、西。前、見て」
僕は西の肩を叩いた。
そして、顔を上げたタイミングで、僕は水平線に向かって指を指した。
突如、痛いほどに目を刺す光の洪水に一瞬呑まれた。
「わっ…!?」
あまりの光の強さに、西ドイツが悲鳴にも似た声を上げた。
僕は、目をそらさずにじっと見ていた。
そして、数秒後。
「………綺麗」
西が、一言だけそう言った。
それもそのはず。
今日の、夕暮れは
父上が連れてきてくれた時と同じ、海が真っ赤になるくらいに美しい夕焼けの日だったから。
「…父上……」
きっと、西も父上の事を思い出している。
僕は、西の手を握って、ずっと、ずっと。
夕焼けを西の隣で見ていた。
(……願わくば)
(もう少しだけ、西の隣で夕日を見ていたい)
それ以上は、決してなにも望まないから。
今は、ただ
西の隣で、一秒でも長く夕日を眺めることを許してほしい。
「……あいつら止めないのかよ、ソ連」
俺の横に立つ、見ているだけで腹が立ってくるような風貌をしているアメリカの野郎。
あいつが、指を指した先に居るのは━━━…
社会主義国である東ドイツと、資本主義国である西ドイツとが手をつないで夕陽を見ている光景だった。
本当ならば、統治国である俺たちはそれぞれの国を一刻も早く引きはがして隔離すべきなのかもしれない。
けれど、俺はアメリカの言葉に首を振った。
「……誰が止められると思ってんだよ、馬鹿が」
「数十年ぶりに家族と会えたんだ。
今は、あいつらの時間と意思を尊重してやるべきだろう。
…こんなに、綺麗な夕焼けだしな」
そう言うと、アメリカは心底驚いたという風に目を見開いた。
「…なんか、意外だな」
「何がだよ」
「いや…だってお前って、色々結構厳しいじゃねぇか。だからこういう光景見たら、俺が止める間もなくすっ飛んで行って引きはがすもんだとばっかり思ってた」
「…まぁな」
アメリカの言う通りだ。
確かに自分でも思うくらい、俺は何事にも厳しい。
ただ、そんな俺でも人情はある。
今は亡き親父の顔が、脳裏によぎった。
親父と最期に見たのは、夜の間に凍てついた針葉樹林が朝日に照らされ…まるで、水晶の様に輝いていた光景。
視線をアメリカに向けると、アメリカの青く澄んだ目と目が合った。
「…あんな幸せそうなやつらを見て、誰かの勝手な都合だけでそいつらを引きはがそうと普通思うか」
「…誰も、そんな残酷なことは思わんだろう?
「………せめて、この夕日が沈むまで」
「あいつらを、二人にさせてやらないか」
「…っは、こんなとこで意見が合うとはな」
アメリカがニヤリと笑った。
「…俺も、賛成」
俺たちはポケットに手を突っ込み、何を話すでもなくただ沈んでゆく太陽を眺め続けた。
二人で夕日を見てから、数年後。
冷戦は終わり、私たち東西ドイツを阻んでいたベルリンの壁が崩壊した。
壁が崩壊し、行き来が自由になったためにすぐに私は東ドイツの領地へと向かった。
また、共に暮らせると淡い期待を抱いて。
けれど、世界はどこまでも残酷だった。
「……………、東………?」
ベルリンの壁を越え、東ドイツの領土に入ったとき。
私の目の前に居たのは、地に伏す東の姿だった。
軍服は所々裾が破け、軍服から覗く腕には沢山の傷跡。
顔にも、沢山の傷がある。
脈を取らなくてもわかる。
彼は、彼は━━━…
天寿を、全うしたんだ。
「……そっ、か…」
「お疲れ様、東……」
ソ連とアメリカが勝手な理由で始めた上に、私たちを巻き込んで行われた…冷戦。
それが終わるということは東西ドイツの対立が無くなるも同意義だった。
ベルリンの壁は崩れ去った。
僕たちの間を阻む壁は、消えた。
けれど
「……東が消えるのは、違うでしょう?」
冷戦が終わって、ようやく世界は平和になった。
けれど、けれど、
冷戦の終わりと共に東の命を持っていくのは、違う。
東の頭を、そっと撫でた。
もう、貴方は目を覚ましてその声で私を呼んでくれることはない。
その澄んだ瞳で、私の姿を映してはくれない。
もう二度と、あの不器用な手つきで私の頭を撫でてくれない。
それが死というもので、国の消失だった。
「……本当に、お疲れ様…」
声が震える。
視界がぼやけて、手も震えていた。
人は二回死ぬ、と言われている。
一つは、肉体が死ぬ事。
もう一つは、自分の存在を誰かに忘れ去られる事だ。
このまま、東が何も遺せないまま消えてゆくのならば━━━…
永遠の時を生きる僕が、ずっとずっと東を生かしておこう。
勿論、東はもう蘇らない。その声で、目で、僕を認識してくれることは絶対に無い。
でも、僕が覚えている限り、東はちゃんと『居た』。
僕の思い出の中で、東はずっと生きるのだ。
随分と長い間頭を撫でていた。
そして、最後に額にキスを落とす。
幼い頃習慣だった行為。
これも最後かと思えば、気恥ずかしさなど無い。
涙が出そうになるのを、ぐっとこらえる。
最期は、笑って見送ってやりたいから。
そうして、東の傍を離れたくなくて座り込んでいた時だった。
「…お前、西ドイツか」
ふと声が聞こえた。
振り返れば、茶色のロングコートが初めに目についた。
ロングコートの下にはきっちりとワイシャツを着て黒いネクタイを締め、特徴的なウシャンカ帽と黒の眼帯を付けた人物。
「ソ連さん…ですか」
「…嗚呼」
ソ連さんはこくりと頷いた。
そして、すぐに視線をそらして東の方を見始めた。
「…逝ったんだな」
「………壁の崩壊と、同時にだったらしいです。私が来た時には、もう…」
「…それ以上無理して話さなくても良い。大体分かった」
ソ連さんが首を横に振った。
私はまた、東の顔を目に焼き付ける様に見始めた。
「…お前、これからどうするつもりだ」
ソ連さんが不意にそう聞いてきた。
「どうするつもり…って…」
「東ドイツは現実じゃ死んでしまった。これからお前ひとりでどうしていくつもりだって聞いた」
「………」
押し黙ってしまった。
今までのドイツは、一人の国の化身が国を導いていた。
けれど、僕たちの代は…二人居てやっと国の化身一人分、といった感じで…
東が居なくなった今、僕一人で国を導いていけるとは到底思えなかった。
「…そりゃ悩むか、片割れ死んだ直後だし」
私は首を縦に振りました。
「西ドイツ。俺、今考えてることがあってよ」
「…?」
ソ連さんの方を見上げる。
ソ連さんはポケットに手を突っ込んだまま、遠くを見ていた。
丁度、西ドイツの領土の方を。
「お前に、東ドイツの全権を譲ろうと思って」
「…え?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「…だから、お前に東ドイツの全権を譲るんだよ。俺は…このあたりを統治するのはもう勘弁だ。ソ連から国を一つ挟んだ位置にあって、行くのも帰るのも面倒だったしな。だったらお前に全権譲ってやるよ」
ソ連さんの言い方はぶっきらぼうだった。
だけど、決して嘘を言っているわけではないと確信した。
「…本当に、良いんですか?」
「……良いも何も」
ソ連さんはフッと微笑んだ。
「ここいら一体の土地は、お前らドイツの物だ。お前らの物を返して、何か変か?」
「…いいえ、何も…」
思わず笑顔が浮かんだ。
「…責任を持って、私が引き継がせていただきます」
「よし、その言葉を待ってた」
ソ連さんがにっと笑う。
無表情だと噂の国がここまで笑うとは、と内心驚いていたのは秘密の話だ。
ソ連さんはすぐに無表情に戻った後、ぽつりと呟いた。
「……これで、ソ連の悩み事も一つ解消だな」
「…悩み事…?」
首を傾げると、ソ連さんは困ったような表情で首を振った。
「…いや、なんでもない。ドイツが統一されて良かったなって思っただけだ」
「そう、ですか」
「…………」
そんなことがあって、僕の片割れは死んだ。
けれど、僕が東ドイツの全権を引き継ぐ形で…世間から見れば、西ドイツが東ドイツ領を統治する形で、ドイツは統一を果たした。
そして、私━━━…いや、“俺”は、ドイツ連邦共和国として社会復帰を果たした。
アメリカさんたちの統治下からも外され、俺は完全に独立国として動けるようになった。
だからこそ、言動にはいつも以上に気を使った。
また、尊敬する父上の様に世間から隔離された状態にならない様に。
ドイツとして独立してから、俺は枢軸国の息子たちにも会いに行った。
イタリア、日本。息子ではないが、フィンランドなどにも。
変わり果てた姿の俺を見て枢軸の奴らは驚いていたが、すぐに受け入れてくれた。
だが、どこを見渡しても、東の姿だけは俺の隣に無い。
でも、ちゃんと東はここに居る。
あの時から一度たりとも東の事を忘れたことはない。
だから、あいつは今でも生きている。
たとえ肉体が朽ち果て、自分の意思で自由に動くことが出来なくなったとしても、俺の思い出の中で東は笑って生きている。
今も目を閉じれば、あの日東と共に見た恐ろしいほど赤い夕焼けの海が見えてくるのが何よりの証拠だ。
「…………」
勿論、父上との景色も決して忘れられない大切な物。
けれど、やっぱり。
俺の片割れと見た景色の方が綺麗だったのは、絶対に気の所為ではない筈だ。
「おーい、ドイツ―!そんなところで何してるんねー!!」
「ドイツさん、行きましょーっ!」
…遠くから、枢軸組の声がする。
大きく息を吸い込み、俺は大声で返事をした。
「っ、すぐ行くぞーっ!!!!」
そして、俺は二人に追いつくために、駆け出した。
『頑張れよ、西ドイツ』
そう笑顔で言ってくれる、東の声が聞こえた気がした。
今の世界はとても不安定だ。
ロシアのウクライナ侵攻。
日本に被害が及ぶかもしれない、北朝鮮のミサイル発射。
そして、欧州の難民たちの問題。
そんなのが毎日のように俺のもとに降りかかる。
けれど、いつ、どうなっても…ずっと、見守っててくれな。
愛しい俺の、唯一の家族。
Fin.
さて、終わりでございます。
いかがでしたでしょうか…!?
サカナ-ウミさんのお誕生日を祝うために書かせていただいたのですが…時間が無さ過ぎて2日も過ぎてしまいました…
すっごく拙い感じになってしまって大変申し訳ございません……
というわけで、お誕生日おめでとうございます!!
これからもよろしくお願いしますー!!!
では!!
コメント
33件
ごめん私同志少女読みまくったからナチスドイツが嫌いになっちゃだ ごめンンンンちんありか照りチリニラに 天才すぎて吐血あはっ
君のとこの兄弟とか家族の物語は泣けるんだよぉほんとに、、!!✨すご、、、✨
尊い東西双子ありがとうございます‼️‼️‼️ ナチとすれ違って仲の悪い場合もありますが、彼らにとっては立派な父親だったんですよね… 可愛がっていた息子と、自らの手で永久の別れをする決断に至ったというところも悲しい… 🇺🇸もソ連もナチが敵対していた分、何をされるか分からなくて怖いだろうし、そもそも大人と子供なんですから緊張するに決まってますよね…あ〜〜好き😭😭😭