「とぉじろ、ほれ、目ぇさませ」
「け”ぇく…ぼく、ちから、はいんな…」
「ぼく、かはん…しん、ある…?」
「おん、ちゃーんとあるぞ!がんばりすぎて感覚ねぇんだろ、大丈夫だからな」
嘘だ。真っ赤な嘘。彼は魔に下半身よりちょっと上ぐらいからぱっくり喰われてしまって下半身がない。喰われた場所からは紅い液がだらだらと流れている。普通のやつなら大量出血で瀕死か死んでいるのに、彼は意識があり喋れる。さすが俺の同期だ。
「はぅくん、は…?」
「ハルなら救急隊員呼びにいったぞ」
「ぼくの、ために?もったいないよ…」
「そんなことないぞ。とーじろーは大人しくされるがままにされてろー?」
ネガティブな方向にすぐ考えてしまう彼の思いを断ち切り、すぐさま背中を押す言葉をかけてやる。辛いのだろう。呼吸をするのが早くなっており、口からは朱い花を咲かせている。
咳き込みながらもこちらの心配をしてくれる。そんな彼の前世はきっと天使なのだろう。
「まぇ、みえなぃよ…こぇ、ききた、」
「安心しろ〜?大丈夫だから」
「かぉ、みたい”、いっぱい、こぇ”、ききたぃ…」
「いくらでも覗け。いくらでも喋ってやる」
「…ねぇ、けぇく、」
彼から名前を呼ばれすぐに返事をする。なんのお願いだろうと考えていると、彼の生暖かい手のひらが頬にあたった。
彼の見慣れている手。触りなれている手。可愛らしい手。そんな手を上から覆い被さるように自分の手で包み込んでやる。
「…あいしてる」
その言葉で彼の人生が幕を閉じた。信じられなかった。否、信じたくなかった。彼が亡くなったことを。しかも、俺が今まで彼に求めていた言葉を最後の最後で言いやがった。なんて酷い人だ。両想いならばすぐ”愛してる”を言えばよかった。
色々考えながらも、ただ一言。いつの間にか口にしていた。
「言い逃げとかズルいだろ」
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え泣きそう