紫苑くん。
わたしはさいていだね。
紫苑くんの痛みに気づくことができなかった。
それどころか…
わたしが傷つけてたみたいなものだよね。
いまさら後悔しても遅いのかもしれないけど、わたしは紫苑くんのこと忘れないよ。
それがわたしの使命だから。
紫苑くんを傷つけたわたしの。
紫苑くんと出会ったのは、8年前。
─ねえ、どーしたの?―
声をかけてくれたきれいな男の子。
あの場でたった1人だった。
―なんでもない、です。―
せっかく声かけてくれたのに。
またわたしはこんな返事しかできない。
8年前。13歳のとき。
私の家庭は、ものすごく荒れていた。
元父の暴力が原因だった。
母は夫からの暴力に耐えられなかった。
母が離婚しようと切り出したとき。
父はいつも以上に怒鳴り、暴力をふるった。
母は泣いていた。
わたしはなにもできなかった。
なにもできないのがつらい。
わたしも逃げ出したかった。
母を、守りたかった。
父の暴力はエスカレートするばかり。
わたしも母も大号泣。
だれか、止めてくれ。
母をしあわせにしたい、そう思った。
弁護士や警察の方と話し合った。
大人の中で1人、目をまわすわたし。
母のことをいろいろ頼まれたりもした。
13歳のわたしにはとても荷が重く感じた。
なんとか父との離婚ができた母。
やっと解放された。
もう母のつらそうな顔を見なくて済む。
わたしは母にあやまった。
―なにもできなくてごめん。―
今でも覚えている。
あのときの母を。
なんであなたがあやまるの。
そう言いながら抱きついてきた。
2人で泣いた、たくさん泣いた。
最後は笑った。
顔を見合せて。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝