「いるよ。」
「……って言ったらどうする?」
「は、へ…」
その一言を聞いた瞬間硬直してしまっていた体が解れ、体制を軽く崩してしまった。反射的に近くの壁に手をつきバランスをとる。
「そんな大袈裟な…」
先生はそう言って笑っているけどこっちからしたら今後の学校生活にめちゃくちゃ影響がある事だから笑えない。後ろから友人の安堵のため息が聞こえた。
こっちの気も知らないで……。ほんの少しの怒りが湧いてきて先生を睨む。
「ごめんごめん」
わしゃっと頭を触りながら先生は謝った。
なんてこともあったっけ。句点を打つ度に先生との思い出が鮮明に思い出される。
「…書けた」
高校3年生冬の朝。こんなに朝早く学校に来たのは多分初めて。外の厳しい寒さから暖房の効いた教室に入り急な温度差で頭がぼーっとする。当然教室には誰もいなかった。
「…もう少しで卒業か」
「その前に受験な」
今にも消えそうな独り言にさらっと答えてくれたのはずっと片思いしていた俺のだいすきな人だった。
「せんせ…」
「おはよー、今日はやいな。」
なんか用事?と優しく微笑みかけてくれる先生に胸が締め付けられた。気づかないうちにこんなにも好きになってたんだ。いや、もう依存しちゃってるんだ。
「用事…です。緑先生に」
「先生に?」
教卓で書類を整理していた先生の手先がその場で止まる。俺が教卓に近づくと先生が前に出てきてくれた。こういうさり気ない優しさがすごくすき。
「あの、緑先生…。」
昨日の夜何度も何度も書き直した手紙を手に持ち先生に突き出す。
「う、緑先生!!!!好きです…っ!!」
少しの沈黙の後、優しく両手を上から包み込まれた。
手紙は受け取ってもらえなかった。
「ありがとな、でも赤さんは学生だろ?」
「…っ、そうですね」
「受け取れないわ、先生捕まっちゃう。」
「ごめんなさい、困ら、せて…」
「大丈夫だよ、気にすんな」
涙で霞む視界の中、先生の手が俺の頭に触れようとする瞬間が見えた。今優しくされたら、先生に触れられてしまったら、諦めきれなくなってしまう。震える手で先生の腕を掴み逃げるようにその場を後にした。教室を出て屋上に向かって歩き出した。我慢してた分涙が止まらなかった。
「……あれ、しまってる」
こんな時間に来たことがなかったから屋上がこの時間に閉まっている事なんて知りもしなかった。下に降りようとした時、目の前に知らない先生が立っていた。驚いてびくっと体を震わせた。
「こんな早くにどうしたの?屋上に忘れ物でもし…」
「…大丈夫?」
「あ、えっと…」
初めて見る先生だった。首にかかった名札を見ると1年生担当の先生という事がわかった。
「…ちょっと色々あって」
「そっか、びっくりさせてごめんね」
そういいその先生は俺にハンカチを貸してくれた。
「涙ふいて、落ち着いたら教室いこっか。」
「…え…ありがとうございます…。」
「いやー落ち着いてよかった、無理しないようにね。受験も控えてるんだし」
先生と並んで廊下を歩く。
結局教室まで送ってもらっちゃったな…
「わざわざありがとうございました」
「いいえー、授業頑張ってね」
今更だけどこの学校って良い先生多いよな。……緑先生も含めて。
「……」
卒業まで俺頑張れるかな…。
なんて不安もあったけど、無事卒業することができた。前までの寒さが嘘のように今は暖かく、枯れ果てていた木も桜を咲かせていた。緑先生のことは、もう忘れよう。そう言い聞かせ卒業証書を眺めた。
「赤くん卒業おめでとう」
「黄さんもおめでとうー、てかめっちゃ泣いてるじゃん」
「赤くんもね」
2人で泣きながら笑って、また後で会う約束をして解散した。
クラスのやつらと写真を撮ってお世話になった先生たちに挨拶をして、少し落ち着いてから辺りを見るとほとんどの人がもう帰っていた。
「…俺もそろそろ帰るか」
荷物を手に取った時、「赤」と忘れたくてもずっと忘れられなかったあの声がした。
「よっ、卒業おめでとう。」
「緑せんせ…なんで……」
勝手に避けて、迷惑かけて、今日だって挨拶すら行かずにこのまま帰ろうとしたのに。なんで先生はこんな俺に話しかけてくれるの…
「…言いたいことあってさ」
やめてよ、期待しちゃうじゃん。もう、忘れたいんだよ。もう……
「っ…せんせ…」
「ごめん赤。俺赤が好きだよ。」
「…っ」
ほんとにずるい 。
ずるいよ、先生。
「せんせ…」
「色々背負わさちゃったよなぁ、ごめんな」
自分から避けてしまったあの手が伸びてくる。抵抗せずに俯いていると優しく撫でられる感覚がした。あの時も抵抗していなかったら…なんて考えてしまう。
もう卒業だからなのか先生のせいなのか分からない涙が止まらず頬を伝う。
「ちが、ちがうんです…俺が…悪いから…」
嗚咽混じりの声で必死に否定する。
「そんな事ない。赤は何も悪くないんだよ」
「ねぇ、返事教えてよ」
「…そ、んなのっ……」
……そんなの決まってるじゃん…。
「俺も好きです…ずっと好きだったぁ……」
羞恥心なんてその時はなく、もう大学生だというのに沢山泣いた。
「涙脆いところは変わってないね、ほんと」
そういい優しく抱きしめられ俺は先生に体を委ねた。泣き疲れて頭がぼーっとする。
「赤、こっち向いて」
先生の手が頬に触れ驚いたのも束の間、唇が触れた。嗚咽で呼吸が整っていない中必死に先生の服の裾を掴む。
「…はぁっ…!けほっ…」
「せんせ、長い……」
「先生やめて、緑な」
再度さきほどの体制をとろうとする先生を両手で止める。
「も、もうむりですって…。んっ…」
「は、…次他の先生と仲良くしてる所俺に見せたら怒るから。」
「え、それどうい……ん、んっ…」
話そうとするもすぐに口を塞がれ阻止される。ずっと見てきた優しい緑先生とのギャップに頭が痛い。
嫉妬してたのかな、緑先生とあんなことがあった後ほかの先生と仲良くすることが多かったから。そんなことを考えていると唇が離された。
「はーっ、はー……ん、ぁ」
「…赤かわいい。だいスキだよ。」
散々俺のこと弄んだ彼の心に依存してしまった俺は抵抗なんて出来ずただただ受け入れた。多分この先もずーっとこうなんだろうな…。
考えるのも束の間頭の中はすぐに緑でいっぱいになった
コメント
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うあ〜〜〜!!!台詞が…!!!😭本当に書いてくださりありがとうございます……🥰🥰