ピアノが音を奏でる。その瞬間、まるで幻想的な何処かへと迷い込んだみたいだ。
ピアノは自分で動くことも、音を出すこともない。
でもピアノにはたくさんの種類があって、それぞれ得意とする音や曲がある。
だからピアノにだって好きな曲や音があると思っている。
今日もまた、僕はピアノを弾く。 その隣で君は歌っている。
僕の心がもっと、もっと君に飲み込まれていく。
夕焼けの音楽室、雰囲気の良いこの場所でただ二人の音が重なり合う。
ある日の放課後、いつもと変わらない音楽室。
僕は隅のピアノに手をそっと置く。
優しく流れるあの音は僕の心を包み込む。
僕一人しかいなくても、88の音が孤独なんてものを打ち消してくれる。
突然扉が開いた。でもゆっくりとピアノの音を邪魔しないようにしているのか、とても静かに開いた。
扉の方向を向くとそこには一人の女子生徒がいた。
ピアノの横に座り、 目を輝かせながら音に合わせて揺れている。
ピアノを弾き終わり、彼女に聞いた。
「どうしたの?」
彼女は少し照れくさそうに言った。 「とても綺麗な音色が聞こえた 」と、僕は嬉しかった。
ずっと誰にも認めてもらえなかったピアノを初めて認められた気がした。
この日、初めて誰かの音と重なった気がした。
「いつも弾いてるの?」
「うん、放課後のここが好きだから」
彼女は少し黙ったあと、不安そうに聞いてきた。
「これからも来ていい…?君の奏でるピアノの音がとても綺麗だったから…」
嬉しかった。
「ピアノの音が」ではなく「僕の奏でるピアノの音が」と言ってもらえた事がこの上なく嬉しかった。
「もちろん!そう言ってもらえたの初めて…!」
「よかった、ねえ君、名前はなんていうの?」
ホッとした顔の後スッとこちらを見つめ、名前を聞いてきた。
「僕の名前は怜央。君は?」
「私は雨舘雫。よろしくね!」
雫さん、か… とても綺麗な人だな。 それに名前も…
「雨の日に何処かの館で滴り光る雫って感じがして綺麗…!」
「ふふ、想像力豊かだね、怜央くんは」
彼女は柔らかく笑いながら僕をそっと見つめていた。
「さっき弾いてたのって自分の曲?とても綺麗だった!」
気づいてもらえた嬉しさと褒めてもらえた嬉しさ、そして彼女のキラキラと輝いた目に言葉にできないほど心が満たされた。
「うん、作曲とか好きだから」
「凄いなぁ…!あの曲って歌詞とかある?」
歌詞、考えたことが無かった。というより多分苦手だから無意識のうちに避けていたんだろう。
「無いかな」
「そ、それならさ!私が歌、つけてみたいな」
自分の曲に歌を付けたいだなんて言ってもらえる日が来るとは思っていなかった。
「本当!お願い、したい…!」
「任せて!明日も来ていい?」
「来てほしい!」
今まで人とこんなに明るく話せたことが無かったから、そして彼女の声や話し方がとても可愛らしくて、ますます彼女と話したいと思った。
次の日の同時刻。
僕はまた音楽室に来ていた。
でも今日はいつもとは少し違う、雫さんが来てくれる。
だからか僕の気分はとても上がっていて、楽しみな気持ちでいっぱいになっていた。
待っている時間は、昨日弾いていた曲を弾いた。
「失礼します…あ!怜央くん!」
「雫さん!」
ピアノの演奏を止め、彼女に近寄った。
「今日のピアノも上手だね」
「ありがとう…!」
「昨日言った歌詞なんだけどね、こういうのどうかな?」
彼女は歌詞が書いてあるノートを見せてくれた。
そのノートは使い古されていて、チラッと見えた前のページには、たくさんの歌詞や歌のコツが書かれていた。
「曲の雰囲気に合っていてとても素敵な歌詞だと思う!」
「よかった…!そうだ!合わせてみない?」
ピアノと歌、1回合わせた。
ピアノの繊細な音色と、彼女の透き通った声が重なり合ってとても美しい音が音楽室に響き渡った。
「いい感じじゃない?」
「とってもいい感じ!」
そして、何度も合わせては2人で続きの歌詞を考えた。
そうしているうちに気づけば時間は18時20分。
「そろそろ帰らなきゃ…」
「そうだね、今日は帰ろっか」
「外薄暗いし、送るよ」
季節は夏で外は少しだけ明るい。
でもこの時間帯は不審者がうろついているかもしれない。
「そんなの悪いしいいよ」
「女の子1人は危ないからさ」
「そ、そこまで言ってくれるなら…一緒に帰ろっか」
なんとか彼女を説得し、一緒に帰った。
家が特別近いというわけではなく、少し残念だった。
でも最後に彼女が言った「また明日」という些細な言葉に少し、嬉しくなった。
コメント
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わぁぁぁぁぁぁぁぁ😭😭😭😭 通知来た瞬間腰抜かすと同時に何故か 知らないけど涙が出てきた(??? わかる!!また明日って嬉しいよね! また明日も会う気があるんだもん! 投稿ありがとうございます!!
あら...今回も最高👍🥺 続きが楽しみすぎて昼寝しかできない😭 投稿お疲れ様〜👍🏻 続き楽しみにしとくね〜🎶 てか最近よく絵文字使っちゃう...🥺