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すっかり朝も寒い日が増えた。
僕は冬が好きだ。
頬は冷たいけれど、ふわふわサラサラした肌触りの良い洋服を身に付けると自分を守れている気持ちになる。
吐く息が白くなると心が冬を実感する。
12月に入ると保育園の行事や、子供達の話題もクリスマス一色に染まる。
「サンタさんにお手紙かいたよー!」
「何届くかはお楽しみなんだー。」
「お菓子頼んだよー。」
口々にクリスマスプレゼントを楽しみにしている子ども達の会話が本当に可愛い。
クリスマスの発表会も近付く中、子ども達の体調の変化や様子に気を付けながら発表会の練習の補助を行っていく。
子ども達が頑張る姿は保育のやりがいの一つでもある。
遅番専門の僕の仕事は本番の全体のサポートや舞台転換、音響など、実は色々と裏方のお仕事がある。
クリスマス発表会当日。
「がんばろうね。ちゃんと見てるからね。たくさん練習したから大丈夫だよ。楽しもうね。」
中には緊張してしまう子もいるので、出番待ちの子ども達一人ひとりへ笑顔で声を掛けていく。
会場を暗幕の陰から覗くと保護者の方も楽しみに発表を待ってくれている。
発表会が始まる。
トップバッターは年長の5歳児。
ピアニカを吹いている子ども達を見て、出しから舞台袖で僕が泣いてしまった。
「都希先生、今年もですか?(笑)」
他の職員に笑われた。
僕は親になった事も無いし、兄弟もいるわけじゃないけれど、赤ちゃんの時から見守っていた子ども達の成長を目の当たりにすると涙が出てしまう。
『やっぱり我慢出来なかった…。』
少し恥ずかしいので子ども達にはバレない様にしているつもりだが、無事に終わった発表会の後日、
「ツキせんせい泣いてたよー!」と、子ども達に言われてしまった。
「みんなが上手で嬉しくて泣いちゃったよ。」
と言うと、一人の女の子が僕の頭をヨシヨシと撫でてくれた。
「ツキせんせい泣き虫だね!」
「ふふ、そうかも。」
・・・・
年内最後の大きな行事も終わり、クリスマスまであと少し。
僕は保育園のイベント以外には興味が無い。
ジュリは毎年お店のイベントなので「よぉーし、今年もサンタコスで稼ぐぞぉー!!」と、気合いが入っていたし、去年のクリスマス、バーの後は壮一と過ごした。
出勤のタイミングで壮一から連絡が来た。
『クリスマスはバーにいる?』
『いるよ。』
『悪い。今年は仕事が立て込んでて顔出せない。』
『わかった。』
今年のクリスマスにはマスターの甥っ子も手伝いに入ってくれるらしく、少し賑やかになる。
バーに出勤し、店内へ入るとマスターから声を掛けられた。
「おはよ。ツキ、これ甥っ子の彰。」
「彰です!宜しくお願いします!」
「ツキです。宜しくお願いします。」
小さく頭を下げる。
「ツキさん、俺の方が年下なんだからそんなに丁寧に俺の事を扱わないで下さい!ご迷惑をおかけしない様に頑張るので、とにかく力仕事は俺に任せて下さいね!」
あわあわしたリアクションが少しオーバーで元気な彰は、身内という事もあってかどことなくマスターに似ている。
「今年はこの3人で年内を乗り切るから宜しく!」
「はいっ!」
「はい。」
彰は元気いっぱいだ。
師走は勝手に忙しくなる。
あっという間にクリスマスイブになった。イブが金曜日という事もあって、遅い時間まで外を沢山の人達が歩いている。
ここ最近は昼夜問わず忙しく、身体もだいぶ疲れているので他の人とは過ごしていない。
バーでの勤務が終わる間際に千景が店に入って来た。
「いらっしゃいませ!」
彰が元気に出迎えた。
新しい顔ぶれに千景は一瞬驚いていたが、すぐにいつものカウンター席へ座った。
注文をすると千景が話しかけて来た。
「ツキ…サンタコスなの?」
「うん。まぁ、クリスマスだから?」
実はサンタの帽子を被っている。
「そっか。あ、この後って……。」
「普通に帰るよ。」
そう言った途端に千景の目が輝いていた。
「空いてんの?!」
「うん。」
「行って良い?!」
「………。うん。」
急に飛び込んで来た大型犬はとても喜んでいた。
バーが終わると千景と一緒に僕の部屋へ帰る。
「なぁ、ちょっとコンビニ寄りたいんだけど良い?」
「いいよ。」
帰り道にもキラキラと青や白に輝くイルミネーションが目に入ってくる。
夜空が好きだけど、人工的な輝きも嫌いじゃ無い。キラキラしたイルミネーションの様に何時になってもクリスマスで浮き足立つ周囲の雰囲気を感じる。
「お待たせ!」
「うん。」
特に話す事も無いので僕から話しかける事はほぼ無い。
でも相変わらず千景はにこにこ話しかけてくる。
「マジでクッソ忙しくて、今日も帰れないかと思った!」
「そっか。お疲れ。」
「ツキは何してた?保育園は忙しいのか?」
「うん。行事とかあるから。」
「そっかそっか、じゃあ、お互いお疲れ様だな。」
「そうだね。」
千景は僕の態度を気にする様子も無く、こんな事があって、こんなに大変で…的な話しを帰るまでずっと隣で話していた。
・・・・
「おじゃましまーす。」
「どーぞ。」
冷え切った部屋へ入る。
「千景、先にお風呂入って良いよ。僕、荷物片付けるから。」
「わかった。」
そう言って先にお風呂へ行った。
千景が部屋に来るのには慣れたが、お互い最近忙しかった事もあって3週間ぶりに会う。
千景がお風呂から出て来たので次は僕が行く。
この後はヤルつもりだろうと思い、準備をしてから出た。
・・・・
部屋へ戻ると…
千景は寝ていた。
『ま、いいか。』と思い、眠くなって来たタイミングで千景の隣へ潜り込みそのまま眠った。
・・・・
翌朝目が覚めた。
??……ここ、どこだ……。?
!!!!
思い出した衝撃と共に一気に覚醒し、布団を捲ると都希が胸にくっついて眠っていた。
『やっっちまった……。』
ショックで涙目になりながらも眠っている都希の可愛い寝顔を見つめてから抱きしめる。
「ちかげ…?また?いたいぃ…。」
「ごめん…。俺、寝てた…?」
「うん。…寝てた。」
抱きしめている都希の頭にぐりぐり自分の顔を押し付ける。
「だから痛いって…。何?」
「何にもしなかった。クリスマスだったのに…。」
「コンビニで買ったケーキは冷蔵庫に入れといたよ。」
「都希はいつ寝たんだ?」
「うーん…。眠くなるまでゲームしてたからいつ寝たかわかんない。むしろまだ眠い…。」
千景はガバッと起きた上がると、置いてある自分の鞄から何か出し始めた。
「俺、コレ渡したくて…。」
千景から手渡された小さなプレゼントの箱には、細身のタグが付いたネックレスが入っていた。
「僕に?」
「そうだよ!本当に忙しくて。ケーキはコンビニだけど、なんとかプレゼントは買えて。なのに…。」
「僕、何にも用意してない。」
「俺が勝手に用意しただけだから!」
ずっと俯きながらしょんぼりしている。
「付けて。」
そう言うとやっと千景と目が合った。
後ろを向くと千景の腕が僕の顔の前から首の後ろへ動いていく。
「ありがとね。」
ネックレスを付けてもらい、お礼を伝えると後ろから抱きしめられた。
「ふふ、なんか首輪みたい。」
「…一生飼う。」
僕の肩に顔を埋めながら千景がそう言った。