コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
日が暮れる頃、春也はいつものように自転車を引きながら、無言でジムを出ようとしていた。
京志と出会ってからというもの眠っていた何かが目覚めたように春也は学校帰りにジムに通うことが日課になっていた。
街灯のない道を歩いているとふと気配を感じる。人気のない細道に5、6人の影がうごめいていた。
その中にいたのは――江藤。
マスクを少しズラして、口元を見せたまま近づいてくる。
「よぉ、チャンピオン」
春也は眉ひとつ動かさんかった。
が、その足は止まっていた。
「俺らのケツ拭く気ないんやろ? ま、そういうとこや」
「……なんやねん、いきなり」
「俺らはずっと見とったで。すっかり加賀谷にとりこまれちゃって。チャンピオン気取っても、所詮はスポーツマンや。
“本物の喧嘩”知らんやろ?」
その言葉と同時に、後ろから金属が擦れる音がした。
――ギィィィ……カチャン。
振り向くと、川上が鉄バットを構えていた。
「お前には失望したわ。せやから、落とさせてもらうわ。ここで」
ドンッ!
背後から来たバットの一撃を、ギリギリでかわす春也。
次の瞬間、振り向きざまにカウンターのワンツー!
ズドン! バキィ!
2人が一瞬で崩れ落ちる。
「……まだ、終わってへんぞ」
拳を握りしめる春也。
ボクシング仕込みのフットワークで、間合いを取りながら攻防を続ける。
が、数が違う。
殴り、蹴り、またバット。
最初の数人を倒した後、ついに一人が後ろから足を払って倒す。
ドサッ!
そこに乗るように、鉄バットの横殴りが襲う。
バキャッ!
春也の肩が悲鳴を上げる。
地面にうずくまりながらも、顔を上げて睨む。
「……お前ら、もう……人やないな……」
江藤が笑う。
「言うたやん。ここはリングちゃう。これは――“街”の喧嘩や」
その言葉が落ちた瞬間――
「おい」
誰かの声が、その場を貫いた。
夕暮れに背を向けて立つシルエット。
一歩ずつ、ゆっくりとこっちに歩いてくる。
――加賀谷京志。