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僕と琥珀さんは再び歩く。
『あの子を剣士に入れるのかい?』
!
暗闇から、声が聞こえた。
その声は知っている。
『レインか、』
草地を歩く音。
そして、
闇から人影が見えて、
『覚えててくれたんだね、嬉しいよ。』
僕の前に、立った。
『今日は何のようだ?』
するとレインは笑顔を見せて、
『まずは、君の言う通りだったところもあったってことについて謝罪しよう。』
レインはそう言って、頭を下げた。
『今日の、あの包丁を持った男とのやり取りを見て思ったんだ。』
今日のも見ていたのか。
『銃を撃てば、もっと速く終わっただろう。でも、あの男は本当に悪い人というわけではなかった。君の選択は間違っていなかったと思う。』
僕の勇気は無駄ではなかった。
少し、安心できた。
『でも、今回は運が良かっただけ。世の中には、命の重さがわかっていない人が多くいる。今日のは少し、無理やりだったんじゃないか?最悪、君が現れたことで人質も君も、殺されていたかもしれない。』
それは、
僕も思ったこと。
だけど、他に良い方法は思いつかなかった。
『君も、少しわかったんじゃないか?』
僕は頷く。
色々と、わかったこともある。
助けたいというだけで行動することの危険性。
もっと、慎重に考えて行動しないと、
『まあ、わかっているのならこの話はこれくらいにしよう。次は、僕の予想だけど、琥珀ちゃんについて僕が考えたことを話そうか。』
琥珀さんのこと?
『君は、琥珀さんが人狼だと思うかい?』
人狼だと言われて、酷い扱いを受けたんだ。
人狼なんだと僕は思っている。
『琥珀さんは、人狼だと思います…』
髪は銅色、目は琥珀色。
なら、人狼…
?
『僕の予想では、琥珀さんは人狼ではないと思うね。人狼なら、嫌なことがあっても立ち向かえる力がある。そして、人狼は孤独に生きようとする者ばかりだ。でも琥珀さんは、戦うことが苦手みたいだし、君と一緒にいたがるみたいだ。』
人狼ではないなら何だ?
『琥珀さんは人狼ではなく、「負け犬」だ。』
は?
悪口?
何だよそれ。
僕は、レインを睨む。
『僕のことを睨んでも意味はないよ。僕がつけたわけじゃないからね。可哀想だけど、一部の理解している人はそう呼んでいるんだ。』
負け犬。
酷い名だ。
『負け犬と呼ばれている人は、髪や目の色が黒や茶色ではない人。だけど人狼とは違い、能力や筋力は普通の人間と同じなんだ。だから人狼のような力がないのに人狼だと思われて酷い扱いを受ける、可哀想な人なんだよ。』
それは…
『つまり、髪や目の色が違うだけの普通の人ってことだよ。』
そんな…
琥珀さんがあれほど辛い思いをしていたのは全て、
勘違いだったと?
無駄だったと?
『人狼って言葉は、人間に化けた狼ってことで嘘をついている、という意味があるそうだ。だから、こっちも酷い意味なのさ。』
何もかもが酷い。
『他には、髪を他の色に染めたり、カラコンをつけたりして人狼を装ったり、逆に普通の人間のように振る舞うような人もいる。そんな奴らを「化け狐」と呼んでいるよ。』
『・・・』
僕と琥珀さんも化け狐として生きれば、もっと楽に生きれるだろうか。
『化け狐になれば、楽になれると思ってないか?頭を染めたり、カラコンを手に入れることは、かなり難しいんだ。化け狐は、犯罪を犯すような人から人気なんだよ。だから、化け狐が現れないように、美容師で頭を染めることは禁止されているし、お店でカラコンを売ることも禁止されている。』
犯罪、
人狼が、普通の人間のフリをして…
そんなこともあるだろう。
『でも、裏でこっそりと製造、販売をしている人がいる。そして、それを高値で売り、それを買う人がいるのさ。』
と、
レインが、琥珀さんを見た。
そして、歩み寄ると、
『琥珀ちゃん。君は、甘くんを殺そうとする化け狐スパイじゃないよね?』
琥珀さんに、冷たい声で言った。
そうか、
人狼のように振る舞って、信じ込んだ人狼を殺す。
そんな使い方もできるのか…
琥珀さんは、身体を震わせて怯えていた。
でも、
僕は、何もできなかった。
今までのは演技で、騙すためだったら?
そんなことは信じたくない。
僕は、琥珀さんを信じると決めたんだ。
だから、
『琥珀さんは悪い人ではありません。夢で昔、琥珀さんが辛い思いをしていたことも知っている。それが、騙すための演技だったとは思えない。』
しかし、
レインは納得していなさそうだった。
『夢が、本当に正しいものなのかはわからないだろう?君が眠っている間に、細工をされたのかもしれない。人狼は知能が高いから、それなりの演技をしてきたのかもしれない。多くの人狼は、簡単に人を信じたりはしないんだ。だからいつも孤独なのさ。』
でも、僕の周りには僕を信じてくれる人狼がいる。
『それでも、僕は信じる。信じるときめたから、孤独でいたくないから。』
僕は、それだけを言って琥珀さんの手を握る。
そして、歩く。
『騙されてはいけない。人は平等ではないのに、命の数は平等に、一つだけですから。』
何を言われようとも、もういい。
孤独は自由だが、寂しい。
誰かと笑い合える方が幸せだ。
たとえ、裏切られても、
信じてみたいんだ。
希望を、自ら捨てたくない。
-はぁ、
やはり、簡単にはうまくいきませんね。
彼らの後ろ姿を見る。
もう、暗闇に消えてしまった。
『信じることで何が変わるのかを、僕に見せてくださいね。』
別の生き方をする人狼の、
その結末が、楽しみだ。
強い風が、被っていたフードを脱がす。
月の、眩しく感じるその光が、
僕の、
赤い髪と青い目を照らした。-