セミサノ
380×230
380→230 未満です。
長生きしてたら、別の未来があったかもね
セミは自分のベッドで配られたパンを食べながら、こんな状況にも関わらず何やら笑顔で話しているチームをぼーっと眺めていた。
あのおっさん…もしかして2周目のおっさんか?
なんて、なんでもない事を考えていると、視界が影に覆われ暗くなる。
「hi,Senorita」
こんな呼び方をしてくるのは彼しかいない。
「げ、あんたかよ。薬臭い。あんま近寄んないで」
サノスは結構ガチで嫌がるセミを他所に、なにも迷うことなく隣に座る。
「まぁそう言うなよ。もうほとんど抜けてる」
全く分からなかった。言われてみれば、なんだかゲーム中より雰囲気が落ち着いている…ような気がする。
「…あんたシラフでセニョリータとか言ってんの?」
「いいセンスだろ?」
セミはナンセンスな男にわざわざそれを伝えるのも面倒で鼻で笑った。
馬鹿にされていることに気づいていないのか、はたまた無視しているのか、サノスは気にしない素振りで話を振る。
「ナムスのこと嫌いなのか?」
「は?なに急に」
セミは嫌な名前を聞き、パンを食べ進めていた手を止める。
「お前らはすぐ喧嘩する。No good.俺たち仲間だろ」
「…向こうに言ってよ。あいつが女見下してんのが鼻につくだけ。敬うなら別に_」
嫌いじゃない。と続けるつもりだったが、そんな1ミリも思っていない事を言うのは流石のセミも躊躇した。
セミはここへ来てから嘘をつく頻度が増えた。
しかし、そんな自分が嫌だった。
セミはサノスのことも好きでは無いが、大嫌いという訳でも無い。
サノスは周りの評価ではなく自身の判断基準で物事見る。セミを誘った時も、ミンスを迎え入れた時もそうであった。周りがどれだけやめておけと言っても自分がいいと思ったらやるし、周りがどれだけ良い奴だと言っても自分が嫌いだと思えばとことん嫌う。嫌がらせさえする。自分がどう見られるかをあまり気にしない。
そういった、”自分基準の価値観を持っている”という点では私たちは似ている。とセミは不本意ながらも感じていた。
しかしナムギュはとことんセミとは合わなかった。彼は基本周りの評価から物事を判断し、自分に有利に立回る。はじめにサノスに近づいたのもそうだ。もし周りがサノスを全く評価しなかったら彼はサノスに近寄ることすらなかっただろう。
周りの評価を素早く見極め、自分の盾となれる人間を探し目敏く生き残る。
実に生きるのが上手く、本来尊敬すべきなのかもしれないが、セミはそういったずる賢い人間が最も嫌いだった。
グレーゾーンを上手く歩く人間が嫌いだった。
ナムギュもナムギュで、セミやサノスのような、自分を貫き通して生きる人間を見下していたし、嫌いであった。特に、セミのように明らかに自分より力の弱い人間がそれだとその嫌悪感は激化した。
セミとナムギュはとにかく相性が悪かった。
「ふーん」
何となく察したのか、サノスは適当な相槌で話を終わらせた。
「お前、体調でも悪いのか?」
「……今度は何」
セミがパンを食べようと口に運んだ瞬間話しかけてくるサノスを無視しようかとも思ったが、身に覚えのある話題だったので聞き返す。
「Senoritaの考えてる事はなんでも分かるぜ」
「じゃあ今何考えてると思う?」
「んー……”サノスかっこいい”」
「……」
アホらしい。こいつの言う事をアテにするんじゃなかった。なんて軽く後悔しながら今度こそパンを口に含む。
「…サノスはやくどっか行ってくれないかな」
「ん?」
「私の考えてること。」
「oh! What a shame!」(惜しい!)
サノスは大袈裟に反応する。
「どこが惜しいんだよ…」
「No problem!追いかける恋も嫌いじゃない」
「……」
こいつはこの世に生を受けてから真剣な話をできたことがあるのか?
セミはいい加減疲れてきたのでベッドを離れようかと考えたが、わざわざ隣の男のために自分が移動すること自体が癪なのでやめた。
話題を変えよう。こちらが会話の主導権を握ればいい。
「薬飲んでないって言ってたけど、震えとかないの?」
「あー、」
初めてサノスの反応が濁る。
目線を下に落とすサノスに釣られて、セミも下を見る。
「まぁ、あんまねぇかな。その代わり、不安とか恐怖とか、そういうのを感じると酷く震えて動けなくなる」
先程の覇気はどこへ行ったのか、落ち着いたテンションで淡々と話す姿はサノスが歳上であったことをセミに思い出させた。
「じゃあ、アンタはゲームまでの時間が怖くないの?」
セミは純粋に興味が湧いた。
自分が思っていたよりも、この男は奥が深そうだったので。
知りたくなった。
セミは自然と体の重心が前に傾く。
サノスが言葉を選んでいるうちに残っていたパンは口に詰め込んでしまった。
「……怖ぇよ。だからいつもすぐ飲んでる」
「今は?飲んでないけど震えてないじゃん」
「今は、」
サノスは落としていた視線をセミに向けて目を細めた。セミが持っている支給された牛乳パックを、人差し指でとんっと軽く弾く。覗き込むような、様子を伺うような姿勢は、彼の大人な1面を感じさせた。
「お前と話してる」
セミは驚いた。
口説かれているのか?
今までも口説かれていた気はするが、セミはあれらを本気で受け取ったことは無い。彼女が受け取らなかったのだから、今までの彼の口説きは無かったことになっているも同然なのだ。
「…あっそ、」
セミは動揺する自分を隠すようにずずっと音を鳴らして牛乳を飲み干すと立ち上がりゴミを捨てに行く。
サノスはベッドに座ったままセミが戻ってくるのを待つことにしたようで、動く気配はなかった。
セミはゴミ袋の前で、パンの入っていた袋をクシャクシャにしながら思った。
あいつ、薬飲まない方がいいのに。
ベッドに向かうセミの足取りは軽かった。
突然のアナウンスが室内に響く。
『脱落した番号を発表します。』
『230番、』
この数日で、何度も見た数字だった。
「…。」
「_はは、いい気味。」
セミはここへ来てから嘘をつく頻度が増えた。
そして、そんな自分が嫌だった。
コメント
13件
やばい、…文才すぎますね????? 切ないぃ…
え、え、なんでだこれだけ見てなかったこんな最高で素敵な作品を、でも気づけてよかった、でも最後泣けるんだけどやばいまじ切なかった。😿💕💕
セミ姉……😭目から水がァァァ