転校初日。うちは大阪の中学校の校門の前で立ち尽くしていた。制服のスカートは少しだけ長めだけど、周りを見るとみんな違うデザインだし、なにこれ、って正直ちょっと怯んだ。東京におった頃は、そんなに自分が目立つタイプやないと思ってたけど、この空気の中では、うち、完全に「余所もん」。
うち、大丈夫なんかな…。ちゃんとやってけるんかな…。
心の中では、もう何回もその問いを繰り返してた。でも、「やるしかないやん!」って自分に言い聞かせて、ぎゅっとカバンの紐を握りしめた。
学校の中に入ると、もう朝の挨拶があちこちから聞こえてくる。みんな楽しそうに話してて、うちのことなんか誰も気にしてへんみたいやった。でも、教室のドアを開ける瞬間だけは、胸がドキドキしてしゃーなかった。
「おはようございますー!」
うちが元気よく挨拶したら、教室の中が一瞬静かになった。え、なんでなん?みんな、うちのことを見てるぅ。
しまった!うち、声大きすぎた!?完全に目立ってもうた…。
そのとき、担任の先生が入ってきて、うちのことをみんなに紹介してくれた。
「今日からこのクラスに来た、転校生の小夏さんや。よろしくなー。」
「よろしくお願いします!」
さっきより控えめに挨拶したら、みんな「よろしくー」とか「転校生やー!」とか言いながら、なんとなくざわつきだした。うちは緊張しすぎて、どうリアクションしていいのかも分からへんかった。
先生が続けて言った。
「んで、小夏さんの『お世話係』を佐野くん、頼むわな。」
「えー、また俺っすか?」
少し面倒くさそうな声で返事をしたのが、クラスの隅に座ってた男の子やった。髪は無造作に跳ねてて、姿勢もだらっとしてて、一見やる気なさそうな感じ。でも、周りの子がみんな「またかよー佐野、人気やな!」って笑いながら冷やかしてたから、きっとみんなに信頼されてるんやろなと思った。
佐野くんは椅子を引いて立ち上がると、のっそり歩いてきて、軽く手を上げて言った。
「小夏ちゃんやんな?俺、佐野。まぁ、なんか困ったことあったら言うてな。」
「う、うん。よろしくお願いします!」
ぎこちなく返事をしたけど、佐野くんは気にしてないみたい。それどころか、めっちゃ自然に「ここが小夏の席な」って指差してくれて、気まずい空気を消してくれた。
案外優しい。この子、ちょっと頼りになりそうかも…。
授業が始まると、先生は関西弁混じりで授業を進めていく。うちもノートを取りながら頑張ってついていこうとしたけど、途中で先生が言った。
「そんなん、ちゃうやんか!」
えっ、ちゃうやんか?え、何が違うん?
東京におったときは、こんな言葉、先生から聞いたことあらへんかった。しかも、クラスのみんながその一言で大爆笑してるのを見て、うちは完全に置いてけぼり。何がそんなにおもろいのか、全然分からへん。
そのあとも授業中に、関西ならではのツッコミとか、冗談とかが飛び交って、うちは頭の中が混乱しまくり。ノートを取るどころじゃない。
お昼休みになって、佐野くんがうちに声をかけてきた。
「なぁ、小夏ちゃん、弁当やな?一緒に食べるか?」
「えっ…あ、うん。」
うちは驚きつつも、誘われたことが嬉しくて素直に頷いた。
「ほな、こっちおいでや。」
佐野くんに連れられて行ったのは、教室の隅っこの窓際の席。そこには佐野くんの友達らしき男の子が2人と、女の子が1人いた。みんなニコニコしながら、「転校生の小夏ちゃん、よろしくなー!」って挨拶してくれた。
「小夏ちゃん、どっから来たん?」
佐野くんが聞いてきたから、「東京」って答えると、みんなが一斉に「ええなー!」とか「東京行ってみたいわー!」とか言い出した。
「でもな、うち、こっちのノリについていくん大変かもしれへん…。」
正直な気持ちを言うと、佐野くんは笑いながらこう言った。
「そんなん、気にせんでええねん。小夏ちゃんは小夏ちゃんのペースでええやろ?」
その一言が、なんだかすごく心強かった。
その日の帰り道、うちは一人で考えた。
うち、この学校でやってけるんかな。でも、佐野くんは優しいし、みんなも良い人そう…。うん、ちょっとずつ慣れていけばいい。うち、頑張らないと。
次の日、うちは少しだけ早めに学校に行こうと思った。みんなについていくためには、まず自分が動かないとって気づいたから。
でも、関西弁…覚えられるかな?まあまあマスターしてきたつもりだけど…。やっぱ現場は違うっ!
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