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水の勇者、サラフェ。彼女は可愛らしい顔立ちに青色のツインテールをしていた。彼女の青い瞳から放たれる眼光は、垂れ目がちなこともあってか、あまり鋭さがないように見える。彼女の褐色の肌は健康的な感じを与え、スタイルもリゥパ以上にスレンダーというよりは身長があまり高くないことも相まって幼女体型に近いものがあり、美人というより美少女といった容姿だ。
彼女の服装は昨夜と全く異なり、まるで中世貴族男性のような出で立ちであった。彼女の髪よりも薄い青を基調としたウエストコートとコートを羽織り、濃い青色の半ズボンを履き、白いタイツと先の尖った革靴が印象的である。華美な装飾はなく、何かしらのマナーに合わせて必要最低限の服装をしているといった感じである。
「くっ! メイリ!」
突如襲ってくる津波のような勢いの水流を見て、コイハはメイリを庇うようにして咄嗟に彼女へと覆いかぶさる。しかし、その必要はなかった。
「はぁ……」
ムツキがナジュミネやリゥパから離れて少し前に出ると、津波がすべてサラフェの方へと戻っていった。彼の魔法反射のパッシブスキルが発動したようだ。
「なっ!」
「は?」
予想外のことだったのだろう。サラフェは為す術もなく、自分の繰り出した水流で野外へと押し出される。コイハもまた予想外のことに目が点になり、思わず素っ頓狂な声が出た。
一方のナジュミネやリゥパは自分たちがしたわけでもないのに、腕組みをして満面のドヤ顔である。
「ムッちゃんはほとんどの攻撃を反射や無効にするのよ!」
「旦那様は最強だぞ!」
「……紹介ありがとう」
ムツキは少し思うところがあったものの、グッと飲み込んでサラフェと話すために自ら家の外へと向かう。
「くっ……ノーモーションで魔法反射を……しかも数倍返しで受けるとは……これが偏屈魔王ですか。しかも、中には奴がいたような……大丈夫か……?」
「さて、自己紹介がまだだったな。俺はここの家主のムツキだ。まあ、その様子だと俺のことを知っているようだけどな。君が水の勇者と言われるサラフェか? ここに来た用件を伺おうか」
ずぶ濡れになったサラフェはムツキを睨み付けつつ立ち上がる。不意打ちのために予め詠唱して時間差で発動させた水魔法【タイダルウェーブ】がいとも簡単に押し返されてしまい、彼相手に魔法だと分が悪いと理解したようだ。
「敵に名乗る名などないと言いたいところですが、名乗られた以上はこちらも名乗らないと失礼というものですね。ご認識の通り、サラフェは水の勇者をしています」
濡れたツインテールを触って整えながら、サラフェは名乗り返す。
「一人称が名前か……」
ムツキは前の世界の経験で一人称が自分の名前の女性にあまり良いイメージがなかった。可愛らしいところもあるが、ワガママで自己主張が強い印象がある。
「……何か? こちらの用件は主に2つです」
サラフェは腰に差していた刀を抜いて、ムツキへと向ける。
「ほう。それが刀か」
銀色の刀身や刃紋が美しい刀は、朝日に照らされて眩しく輝いている。
「よくご存じで。さて、1つ目はそこの獣人と半獣人を亡き者にすることです」
サラフェは悪びれもせずに話し始める。
「……物騒な話だ。理由は聞かせてもらえるのか?」
ムツキはサラフェの出方も窺いながら、話を続ける。
「よいでしょう。人族は獣人および半獣人を敵対勢力と見なしました。よって、勇者が武力をもって排除することになっただけです」
サラフェが刀を振るう。振るった先にあった草は綺麗に切り裂かれる。彼女は刀の切れ味をムツキに示したようだ。
「モフモフを敵対勢力にするだと? 人族は最も愚かな選択をしたようだな……。ってか、ありえないだろ……絶対にありえないだろ……。どうして、そんなことになるんだ……むしろ、友好関係を築いて、モフモフをだな……モフモフする以外の選択肢なんてあり得ないだろ……なぜそこまで人族は愚かなんだ……」
ムツキは愕然とする。サラフェのいる前で膝から崩れ落ち、呪詛を呟いているかのようにぶつぶつと言葉を出す。彼女はこのまま戦い始めてもいいだろうかと考えたが、彼の能力のすべてが分からない以上、無闇に手を出すのは得策ではないと考え直した。
「……話を進めてもいいですか?」
「あ、あぁ……」
「『どうして、そんなことになるのか?』でしたね。あなたが言うのも滑稽だとは思いますが、原因はここですよ」
サラフェは不敵な笑みを零しながら、ムツキにそう告げた。