コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日、凜が起床してご飯を済ませてから竜之介くん共に、このアパートから引っ越して別の場所で暮らす事、新しい家では竜之介くんも一緒に暮らす事を話してみると、
「おにーちゃんもいっしょのおうちで!? バイバイしなくていいの!?」
「うん、そうよ」
「わーい!! ぼく、うれしい!」
予想以上の喜びように私は勿論、竜之介くんも驚いていた。
「おにーちゃんといっしょにいられる! いつでもあそべる! いっしょにねれるのうれしい! ママとおにーちゃん、いっしょにえほんよんでね!」
「あ、あのね、凜、同じお家に住むけど、寝る時は別々なの」
「なんで? おともだちのおうちはいっしょにすんでるといっしょのおへやでねるって……」
「え? えっと、それは……」
ただ、凜にはまだ理解出来ない事もあるようで、一緒の家に住んだら寝る時も一緒だと思ったのか、別々になる事を告げると不思議そうな顔で『何で?』と問い掛けてくる。
そんな凜の疑問にどう答えればいいのか悩んでいると、
「あのな、凜。友達が一緒に寝てるのはその子のパパとママだろ?」
「うん」
「残念だけど、俺は凜のパパじゃ無いから、みんな一緒の部屋で寝る事は出来ないんだ」
「なんで?」
「一緒の部屋で寝れるのはパパとママだけなんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
まだ幼い凜に難しい事は分からないだろうと、簡単になるべく分かり易いよう説明してくれる竜之介くん。
そんな彼の説明に納得したらしい凜は『そうなんだ』と言った後、少し黙って何かを考える素振りをしてから、
「それじゃあ、おにーちゃんがぼくのパパになればいいんだ! そしたらママとぼくといっしょにねれるね!」
ぱあっと明るく無邪気な笑顔を浮かべてそんな事を言うものだから、
「…………」
私も竜之介くんは思わず顔を見合せ、気まずい空気が流れていく。
凜は子供で考え方が単純だから、そういう結論になるのは仕方ない。
でもきっと、凜は竜之介くんの事が好きだから『パパ』になったら嬉しいと本気で思っているのかもしれない。そう思ったら、何も言えなくなってしまった。
「凜がそう思ってくれてるのは嬉しいよ。ありがとう。けど、パパになるのはそう簡単じゃ無いんだ」
「なんで?」
「うーん、それはまあ、凜に理解するのはまだ難しいと思う。けど、俺としては、いつか凜のパパになれたらいいなって思ってる。だから、そうなった時は、みんなで一緒に寝ような」
「うん、やくそくね!」
「ああ」
何も言えない私に代わって竜之介くんが話をしてくれたのだけど、何の迷いも無く『いつか凜のパパになれたらいいなって思ってる』だなんて口にするから、私の鼓動はそれだけで速くなってしまい、一人頬を赤く染めていた。
元から物が少ない事や、竜之介くんや田所さんを初め、助っ人として手伝いに来てくれた人たちのおかげで引っ越し作業はあっという間に進み、陽が落ちかけた夕方にはほぼ荷造りを終える事が出来た。
アパートの引き払いの手続きなどは後回しにして、明日の午前中にマンションへ荷物を運ぶという事に話は纏まり、今夜はどうするかという話になった時、竜之介くんの提案でとあるホテルに泊まる事に決まった。
「ママみて! ひろいね! おふとんおっきい!」
私たちが泊まる事になったのは市街地にある結構名の知れた高級ホテルで、しかも、そこの客室最上階にあるスイートルームだった。
「竜之介くん……こんな立派なところなんて、私……」
「いいんだよ、気にしなくて。兄貴が来れなくて部屋が余ってるんだから」
「でも……何だか、申し訳なくて……」
何故ここに泊まる事になったのかというと、現在、海外に住んでいるという彼のお兄さん――名雪 |慎之介《しんのすけ》さんが日本に予定があって今日から数日滞在するつもりだったらしいのだけど、会社でトラブルがあったらしく、どうしても今日は帰国する事が出来なくなり、予め滞在期間中はこのスイートルームに泊まる為に予約していた事から、来れなかった今日だけ部屋が余っているという話を知った竜之介くんの提案で今夜だけ私たちがこの部屋に泊まる事に。
ホテルに泊まるという話になった時、同じ部屋に泊まるなんてと戸惑いもあったのだけど、よくよく考えてみたら明日から一緒に住む訳だし、このスイートルームはリビング部分とベッドの部分を扉で仕切る事が出来る事から、寝る時は私と凜がベッドを使って竜之介くんがソファーで寝るという話になった。