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⚠このランドトは終始不穏です!キタニさんのずぅっといっしょ!のインスピレーションで書きました。いつもチャットノベルなので描写がきっと拙い……それでもいいよっていう心優しい方はどうぞ!
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イーストンを卒業してから数年後、指輪を外し今でも消えない左手、薬指の噛み跡をふと見てドットはあの頃を思い出す。
「やっぱり、まだ消えてくれねぇな。」
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あれは数年前、まだドットたちが学生で卒業の頃も迫ってきている頃だった。いつものように二人で喧嘩して、紅茶を飲んで、たわいもない話をしていた。前となんら変わらない日々、と言いたいところだが、ドットは少し変わったと言っていいところがある。
それは彼の周りに見知らぬ女生徒が居るになったのだ。彼を知るものは信じられないと思うが、本人に直接聞いたところ、ガラの悪い不良に絡まれているところを助けてくれたから、 らしい。級友はついに、ドットくんの良さが分かってくれる子が現れてよかった、ドットくんにもついに春が、と優しい眼差しで二人を見守っていた。
ただ、一人を除いては。
ドットとその女生徒が日に日に仲良くなるにつれ、ランスの機嫌は悪くなっていった。普段から表情や態度に出さないから、気づかれにくかったがやっと周りが気づき始めた。そう、ランスはドットのことが好きなのだ。ドットとランスの二人のいつもの時間が日に日に減っていくのを感じた。
そうしてなかなか言い出せなかった思いを秘めたまま、卒業式の日を迎えてしまった。
「これで、俺らも一緒に会える日少なくなってくのかぁ。」
ドットは身支度をしながらランスに話しかけた。
「まぁ、そうなるだろうな。」
相変わらずぶっきらぼうな返事だな、とランスは我ながらに思う。
「ちぇっ、相変わらずスカシやがって。そういえば俺、あの子に卒業式のあと呼ばれてんだよな、なぁなんの用だと思う?」
はっ、とした。卒業式のあと呼ばれるなんてそんなの、告白しかないだろ、と思いつつ、ドットが他のやつの物になってしまうと焦りを覚えた。
「ランス?どうした?」
ランスは困惑しながらもそれを知られないよう必死に言葉を紡いだ。
「さぁ?今までのお前への鬱憤を晴らすんじゃないか?」
「はぁー?あの子に限ってそんなこと……
もしそうだったらどうしよ……」
そんなことだったらどれだけよかったか。
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卒業式も無事終わり、卒業生代表としての言葉も難無くこなしたランスだったが、内心それどころではなかった。頭の中は
ドットとあの女生徒のことばかり。
もし、ドットと女生徒が付き合うようになったら……そう考えるだけで女生徒に理不尽な憎しみを向けた目で見てしまう。
各々友達と名残惜しそうに喋っていたり、お世話になった先生と記念撮影をしていたり、ドットはソワソワと落ち着かない様子で時間ばかり気にしていた。あの子との待ち合わせの時間まであと三十分と行ったところだろうか。場所は人気のない校舎裏、と言ってもすぐ向かえるしまだいいかな。
というかなんの用かな?ランスの言っていた通り何か言われたらどうしよう、まさか告白?!いやでも俺は、と思っていた矢先、
「おいドット、こっちに来い」
「はぁっ?!なんだよ急に!」
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手を引かれて着いたのは見晴らしのいいバルコニーだった。沈んでいく夕日が綺麗だな、なんて呑気なことをドットは思っていた。
「ドット、お前が好きだ」
「……は?」
ドットは自分に向けられている好意を、よくわからずにいた。それもそのはず、いつも喧嘩ばかりで、傍から見れば仲はいいはずがない。級友から見ても喧嘩するほど仲がいいとは言うけど、それにしたって喧嘩しすぎ、との言われよう。
そんな相手から好きだ、なんて言われても理解するのはドットには難しい。
「聞こえなかったか?お前が好きだと、」
「聞こえた!聞こえたっての!二回も言わなくていい!」
ランスは返事に我慢できなくなり、ドットに詰め寄った。
ドットは少し照れた嬉しそうな、でもどこか悲しそうな顔をした。
「……ごめんランス」
ランスはその答えを聞いて自分がどう応えればいいか分からなかった。ただ一つわかったのは、この恋は実らなかったということだけ。
「……理由を、聞いてもいいか」
ドットは目線を逸らし、何か考えた後、ランスに手を置きそっと自分の体から離した。
「お前、俺らがどういう立ち位置かわかってる?お前は神覚者で、俺は忌まわしい自戒人。全然釣り合ってねぇよ。」
その答えにランスは納得出来るはずがなかった。自分たちの地位なんて気にも止めていなかった。
「神覚者と自戒人、何が釣り合ってないだ。そんなことどうでもいい、」
「良くないから言ってるんだろ!!!」
ドットの怒鳴り声が辺りに響いた。幸い、近くには誰もいなかった。近くの木にとまっていた鳥が羽ばたく音だけが聞こえた。
「俺は、俺のせいでランスに悪い噂がたったなんてことになったらきっと、後悔する。そんなこと後から思うより、初めからなかったことにする方がいいだろ。」
「そんなこと言われて俺が納得するとでも思ってるのか」
ランスはムスッとした、子供が駄々をこねるような顔をしてドットを見つめた。ドットはそのほかの人にはしないような顔を愛おしそうに見つめながら
「でも俺は納得出来ちゃったし」
じゃあ、と言いバルコニーからローブを翻し去っていくドットを見つめランスは咄嗟に、ドットの裾をぐい、と引いていた。
「うわっ」
結構な力で引いたのかドットの体が傾くが、ランスによって受け止められた。
ドットは泣きそうな気持ちを抑えるために代わりに声を張り上げた。
「なんだよ!あぶねぇだろ!」
ランスはぐるりとドットの体の向きを変え、無症状な顔をドットに向けしばらくドットの瞳を見つめた。
美人の真顔は怖いって確かにそうだな、なんてまた呑気なことを考えていると、いつの間にか自分の左手薬指がランスの口元にあることに気づいた。
その瞬間、ガリッ
と、ランスはドットの薬指を勢いよく強く噛んでいた。
「っ、!いって……」
ドットはよく状況が分からなかったが、ランスから指を離そうとした。だが、それも叶わず、犬歯に引っかかり血がツプ、と滲み出していた。
構わずただ無表情でこちらを見続けるランスにゾッとし、ようやく恐怖心が現れたのか、痛みを堪え指をようやく引き抜いた。ドットはわけも分からず混乱するばかりだった。
ランスの口元からはドットの血が伝っていた。ランスはそれを舐め取り、今度は自分の唇を噛み切っていた。
「……お前、さっきから何して、」
ドットの言葉はそこで遮られた。ランスに口で塞がれていた。
ランスの急な行動に驚きと困惑を隠せず、目を見開いていると、何秒かして唇が離れた。お互いの血が滲んだ口元を見ていた。
しばらく沈黙が続いた。先に口を開いたのはランスだった。
「……これでずっと、いっしょだな」
「っ、意味わかんね……」
ドットは足早にバルコニーから部屋へ続く道を通り抜けて行った。
ランスの今まで見たことの無い、それを引き起こすのは独占欲か何か、ドットには見当もつかないが、あのこちらを見つめてくる少し怖い笑顔のランスが頭から離れなかった。
お互いまだ血が滲む傷が痛かった。
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「ドットくん付き合ってください!」
やはり、女生徒の用件はランスの想像通り告白だった。ドットは正直先刻あったことが頭から離れず
「ごめん、その気持ちは受け取れない」
と、女生徒の告白を断ったのだった。
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それからというもの、ランスとドットは結局疎遠になり、ドットは新聞でランスのことを見るくらいだった。
あれから数年がたったが、あのときの噛み跡の古傷はまだ残ったままだった。古傷を見る度に彼の、あのことを思い出す。
犬歯が引っかかったこともあり、目立つ傷となってしまった。ドットはランスの瞳の色と同じ、綺麗な彼の青い瞳の色に似ている、アクアマリンの宝石が着いた指輪をいつもしている。
指輪を時折外してはその古傷に優しく
キスを落とす。
「俺の気持ちは墓場まで持ってくつもりだから」