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……これが『深緑に染まりし火山』か……。

俺たちがアパートの二階の通路から見たものは火山とは思えないほどの緑で覆《おお》い尽《つ》くされた『深緑に染まりし火山』であった。

あー、でも、これからあの山に登らないといけないんだよな……。テンション下がるわー。


「なあ、ミノリ。これからあの山に登るんだよな?」


俺の右隣にいるミノリ(吸血鬼)に訊《き》くと、彼女はこう言った。


「ええ、そうよ! そして今からあの山のてっぺんにしか生えない植物を採《と》りに行くのよ!」


「なるほどな。それで、一緒に行くメンバーは、どうす」


俺が最後まで言い終わる前に、みんなは円になって睨《にら》み合っていた。


「今回は、あたしの出番よ!」


ミノリ(吸血鬼)。


「わ、私もナオトさんと一緒にあの山に登りたいです!」


マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)。


「ナオ兄と一緒に行くのは私」


シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)。


「兄さんと一緒にあの山に登りたいという気持ちは誰にも負けません!」


ツキネ(変身型スライム)。


「マスターと一緒にあの山に登るのは私です」


コユリ(本物の天使)。


「いいえ! 私です!」


チエミ(体長十五センチほどの妖精)。


「いいや、僕だよ」


ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体。一人称は『僕』だが、女の子である)。


「いや、あたしだな!」


カオリ(ゾンビ)。


「ううん! 今回も私の一人勝ちだよ!」


シズク(ドッペルゲンガー)。


「私はナオトと二人っきりで山登りがしたいなー」


ルル(白魔女)。


「いいえ! お兄様と一緒にあの山に登るのは私です!」


コハル(湖の主であり、ミサキの妹)。


「いいや! 妾《わらわ》じゃ!」


キミコ(『狐《きつね》の巫女《みこ》』)。


先ほどまで寝ていたはずのキミコがなぜか参加していたが、彼女たちは全《まった》く気にしていなかった。


「いいえ! この私よ!」


カリン(『黄竜《こうりゅう》』と『麒麟《きりん》』と『陰《いん》』と『陽《よう》』の力が合わさって誕生した存在)。


見た目はツキネ(変身型スライム)以外、全員ロリッ娘《こ》だが、それぞれが凄《すさ》まじい力を持っている。

ちなみにミノリ(吸血鬼)がリーダー(?)である。

彼女たちが自分の拳《こぶし》に祈りを込めると、名取《なとり》は名刀【銀狼《ぎんろう》】を鞘《さや》から少し出した。

(名取《なとり》 一樹《いつき》。名取式剣術の使い手でナオトの高校時代の同級生。いつも前髪で両目を隠している)。

その直後、名取がカチャンと刀《かたな》を鞘《さや》に収《おさ》めると、彼女たちの戦いが始まった。

それは勝者は俺とあの山に登ることができ、敗者は家で留守番になるというものである。

どういう形式で決めるのかって? それはもちろん!


『ジャーン! ケーン! ポオオオオオオオン!!』


『|公平な勝負《ジャンケン》』である……。

数秒間、俺と名取《なとり》以外、目を閉じていた。勝者は天国、敗者は地獄を味わうことになるのが彼女たちのジャンケンの最大の特徴である。

俺と一緒にあの山を登りたい……。ただその一心で彼女らは一日分の運を使い果たしたのである。

そんな感じの空気がその場を埋め尽くしていたが、今、その勝負が決着しようとしていた。

全員がほぼ同時に恐る恐る目を開けると、勝負の結果が目の前にあった。


『…………………………………………………………』


____全員がグーであった。さて、この場合どうなるのか? では、それを今から説明しよう。

____この『|公平な勝負《ジャンケン》』において、あいこになった場合は引き分けではなく【勝ち】扱いになる。

つまり、全員が『あいこ』の場合、全員が【勝ち】になるのである。


「……えー、全員あいこなので、今回はここにいる全員であの山の山頂を目指すことにする! 各自、準備が済み次第、速《すみ》やかに集合すること! 以上! 一時解散!!」


『やったああああああああああああああああああ!』


彼女たちは歓喜の声を上げながら、猛スピードで俺の部屋に入っていった。

まったく、どれだけ俺のことが好きなんだよ。

俺がそう思った束《つか》の間《ま》、名取《なとり》は俺の背後から俺の肩に手を置いた。


「ん? どうしたんだ? 名取《なとり》。俺に何か用……」


「……すまない」


「な、なんだよ、急に。お前は別に何も……」


「名取式剣術……壱の型二番『意識断絶斬《いしきだんぜつざん》』……」


名取《なとり》は目にも留まらぬ速さで鞘《さや》から刀《かたな》を抜くと、そのまま俺の背中に斬撃をくらわせた。

名取式剣術は、あらゆる効果を打ち消すことが可能な剣術。

つまり使い方によっては、相手の意識を断絶することもできるのだ。

俺は消えゆく意識をなんとか保《たも》ちながら、最後の力を振り絞ると、ミノリ(吸血鬼)に俺の心の声を伝えた。

すると、それから三秒も経《た》たないうちにミノリ(吸血鬼)が名取《なとり》に攻撃を仕掛けるのが見えた。

俺は、その光景を見て安心すると、その場に倒れた。



「あんた! ナオトの高校時代の同級生なんでしょう! どうしてこんなことするのよ!」


ミノリ(吸血鬼)は自分の血液で作った立派な【日本刀】で名取《なとり》に攻撃しながら、そう言った。

すると、名取《なとり》はミノリの攻撃をしっかり受け止めた後、こう言った。


「お前は……こいつのことを何も知らないから……そんなことが言えるんだ」


「あたしは無茶するのが得意なバカナオトの未来のお嫁さん候補なのよ? 今さら何を知ろうと、あたしは決して動じないし、ナオトの全てを受け入れられる覚悟があるわ! だから、あたしほどの覚悟もない、あんたの気持ちなんて知ったこっちゃ……ないのよ!」


ミノリ(吸血鬼)は名取《なとり》の刀を押しきると、こう言った。


「あんたの好きにはさせないわ! けど、どうしてもナオトを連れていきたいのなら、あたしを……ううん、あたしたちを倒してから行きなさい!」


その直後、先ほど部屋の中に入っていったはずのミノリ以外のメンバーが名取《なとり》に怒りの眼差《まなざ》しを向けた。


「戦力差は一目瞭然《いちもくりょうぜん》だけど、これからどうするのかは、あんた自身が決めなさい。ただし、あんたが戦うと決めたのなら、あたしたちは絶対にあんたを止めるわよ!」


「ふん……望む……ところだ!」


相対《あいたい》する名取《なとり》とミノリ(吸血鬼)たち。今にも殺し合いが始まってしまいそうな雰囲気《ふんいき》の中……彼はそれを止めた。


「やめろ! お前ら!!」


彼は名取《なとり》の方を向いたまま、両手を広げると、殺し合いが始まる直前に割って入った。

ほんの数分前まで意識を失っていた者《もの》の動きとは思えないものだったが、それでも満身創痍《まんしんそうい》なのは確かだった。

ナオトは息を切らしながら、名取《なとり》に問うた。


「なあ、名取《なとり》。どうして、こんなことをしたんだ?」


「…………」


「答えろ! 名取《なとり》! いや、一樹《いつき》!!」


「…………次のターゲットが、お前だったから……言えなかったんだ。すまない」


「依頼主は……誰だ?」


「お前は……俺に……殺されかけたんだぞ? そんなこと訊《き》いて……何になる?」


「知らねえよ、そんなこと。それより俺を殺すだと? 笑わせるな。わざわざ意識を司《つかさど》る神経を攻撃したお前は暗殺者失格だ!」


一樹《いつき》は刀《かたな》を手放した後、両手で両目を覆《おお》い隠《かく》しながら、両膝《りょうひざ》をつくと、静かに泣き始めた。


「たとえ命令だとしても……俺は、お前を殺せない。だから、殺すふりをしようとした……けど……!」


俺は、一樹《いつき》の方に歩み寄ると、静かに屈《かが》んだ。


「お前は悪くない。悪いのは無茶な命令を出したお前の依頼主だ。……だから、もう泣くな」


一樹《いつき》はこちらを見るなり、大声で泣き始めた。


「うう……ごめん……なさい。ごめんなさああああああああああい!!」


「おいおい、大声で泣く癖《くせ》は、どうにかしろって高校時代に言っただろ? まったく、お前ってやつは」


俺は、一樹《いつき》をそっと抱きしめると、そのまま頭をポンポンと優しく撫《な》でた。


「……ナオト。あんた、もしかして、ホ……」


「違う」


俺は、ミノリ(吸血鬼)が言いかけた言葉を遮《さえぎ》るように即答《そくとう》した。

確かに今のこの体勢は、そっち方面にしか見えない。しかし、それは、ぱっと見の印象である。

さてと、一樹《いつき》が泣き止むまで待つとしようか。

俺は、一樹《いつき》が泣き止むまで、彼を優しく抱きしめていた。

ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件 〜ダン件〜

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