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同時刻。『深緑に染まりし火山』では。
「今日も平和だなー。暇《ひま》だなー。つまんないなー。誰か遊んでくれないかなー。でも誰かを呼びに行くのは、ダルいなー。というか、しゃべるのも疲《つか》れてきたなー。はぁ、つまんないなー」
彼女は悪魔型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 一。モンスターチルドレン育成所にいた頃は『ベルモス』と呼ばれていた。(名前の由来は『ベルフェゴール』と『ベヒモス』を合わせたものである)
彼女は今、赤々と煮えたぎる火山の近くにある石で周りを囲まれた温泉に入っていた。
紫色の長髪と金色の瞳《ひとみ》(ジト目)が特徴的な彼女は『怠惰《たいだ》の姫君』である。
「ひーまーすーぎーるー。なんか面白いことないかなー」
「ベルモス様、お暇《ひま》なのでしたら、この近くに来ている者《もの》たちの元に行きませんか?」
彼女の背後から現れた『|巨大灰色熊《グリズリー》』は(『く○みこ』や『武○少女マ○ャヴェリズム』に登場するクマとは違う)頭にタオルを乗せていた。
『ベルモス』は気怠《けだる》そうに、こう答えた。
「そいつらって、どんな感じのやつらなのー?」
「はい。間違いなく、この世界の者《もの》ではない人間が二人と、複数のモンスターチルドレン。そして、私の目に狂いがなければ、『白魔女』と『四聖獣《しせいじゅう》』の一体と『聖獣王《イリュウ》』がいました」
注:『四聖獣《しせいじゅう》』の一体『玄武《げんぶ》』はミサキである。イリュウは、カリンの旧名である。
「……へえー、この近くに複数のモンスターチルドレンと契約してる人間が来てるんだー。それは興味深いねー。それでー? どっちがそのマスターなのー?」
「黒い服と長めの水色のズボンを身に纏《まと》っていた方かと思われます」
「そっかー。じゃあ、久々に遊ぼうかなー」
「珍しいですね。ベルモス様が他人に興味をお抱《いだ》きになるのは」
「そりゃそうだよー。だって、私は私と同等以上の人としか遊べないんだもん」
「なるほど。では、今回で私は用済みですね」
「ううん、そんなことないよー。それより、入らないのー?」
「いえ、私はベルモス様が入った後《あと》で……」
「早く入れ」
「は、はい、かしこまりました。ベルモス様」
その声を聞いた『巨大灰色熊《グリズリー》』は急いで湯船に浸《つ》かると『ベルモス』のとなりに移動した。
「いやあ、久しぶりに楽しめそうだねー。でも、ここから動きたくないから、早く来てほしいなー」
二人……いや、一人と一匹は、そのまま温泉に浸《つ》かりながら、一行《いっこう》が山頂に着くのを待つことにした。
*
名取《なとり》が落ち着いたので俺は部屋の中に入った。
その後、俺は山に登るための準備をあぐらをかいて座った状態でし始めた。
その時、何の前触れもなく、くしゃみをした。風邪かな? それとも誰かが俺の噂《うわさ》でもしてるのかな?
俺は、そんなことを考えながら、リュックの中に荷物を詰めていた。すると、後ろから何者かに抱きしめられた。
「ねえ……ナオト」
「その声は……ミノリか? 急にどうしたんだ?」
「ナオトは、あたしのことどう思ってるの?」
「またその質問か。悪いが答えは変わらないぞ。今はみんなが大事だから、お前一人のために何か特別なことをすることはないし、する気もない。だから……」
ミノリ(吸血鬼)は俺の左耳に顔を近づけると、こう言った。
「お願い……答えて」
「……くっ! お、お前、なんか変だぞ? 変なものでも食べたのか?」
俺は左耳を手で覆い隠しながら、ミノリ(吸血鬼)の方を向こうとした。しかし……。
「ナオト……あたしね、体がとっても熱いの。だから、なんとかして……」
さらに強く抱きしめられてしまったせいで身動きが取れなくなってしまった。
ミノリ(吸血鬼)の様子がおかしいのは明らかだが、あまりにも急すぎる。
みんなに黙って抜け駆けをするようなやつじゃないし、こんな色っぽい声を出したことなんて一度もなかった。
その時、この状況を作り出した張本人が誰なのかが分かった。
しかし、今はミノリ(吸血鬼)をなんとかする方が先決だと思った。
「ミノリ。お前の好きなようにしていいから、この体勢をどうにかしてくれないか?」
「本当? なんでもしてくれる?」
「ああ、俺にできる範囲でならな」
「じゃあ、そうする」
「おう、サンキューな」
や、やっと、解放された。あー、苦しかったー。
よし、じゃあ、ミノリ(吸血鬼)のことに集中するとしよう。
俺がミノリ(吸血鬼)を方に体を向けると、ミノリ(吸血鬼)は女の子座りで座った。(なぜか頬を赤く染めながら、俺の顔をチラ見している)
俺が咳払《せきばら》いをすると、ミノリ(吸血鬼)は、ようやくこちらに視線を合わせた。
「じゃあ、私とナオトの……こ、子どもを……」
「無理」
「じゃあ、ドッキング……」
「無理だ」
「じゃあ、交わりましょう」
「おい、ミノリ。お前、さっきから同じことしか言ってないの知ってるか?」
「だ、だってー」
「だってー、じゃない」
「うー、ナオトの意気地《いくじ》なしー」
「なんとでも言え」
「バーカ! バーカ! バーカ! バーカ!」
誰だよ、こいつ……。というか、こんな風にしたのって絶対あいつの仕業《しわざ》だよな。
あー、なんか、めんどくさくなってきたな。
いや、ここで諦《あきら》めたら今までやってきたことが全て水の泡《あわ》だ。慎重にいこう。
「で? 他には何かないのか? ミノリ」
俺がそう訊《たず》ねると、ミノリ(吸血鬼)はこう言った。
「じゃあ……キス……して……」
「……ミノリ。俺は今のお前と何をしたって、お前のものにはならないし、なる気もないぞ?」
「なら、この体の奥から込み上げてくる感情は何なのよ! 体の中からあんたに対する思いがどんどん溢《あふ》れてくるのよ? こんなのどうしろっていうのよ! ねえ! どうすればいいのよ! 私はいったいどうすればい……」
「少し落ち着け。ミノリ」
「……う、うん」
俺は、ミノリ(吸血鬼)を優しく抱きしめると、頭をポンポンと軽く叩いた。
その後、俺はミノリの頭を優しく撫で始めた。
あいつがどうしてこんなことをしたのかは分からないが、今はこうするしかない。
今回の事件の犯人は、ほぼあいつで間違いない。
まあ、念のため、後で『あいつ』に訊《き》いてみよう。
ミノリが徐々に落ち着いてきたため、俺はミノリを抱きしめるのをやめようとした。しかし……。
「もう少しだけ……お願い」
かなりドキッとする声でそう言われたので続けることにした。計画変更、今すぐあいつに訊《き》こう。
「さて、お仕置きは何がいいかな? ミノリをこんな風にしたやつには、ここで留守番してもらおうかなー」
俺が部屋全体に聞こえるような声でそう言うと、キミコ(『狐《きつね》の巫女《みこ》』)がスライディング土下座をしながら、謝罪した。
「申し訳ありませんでしたー!」
さて、どうしてくれようか? 俺がどうしようか考えていると、ミノリ(吸血鬼)が顔を真っ赤にしながら、こちらを見ているのに気づいた。
俺が抱きしめるのをやめると、ミノリはその顔のままスタスタと去っていった。
俺がミノリ(吸血鬼)の後ろ姿を見ている隙(すき)にキミコはその場から逃げようとした。
「どこへ行くんだ?」
俺はキミコの両脇《りょうわき》を持って宙に浮かせると、この場から逃げ出せないようにした。
キミコは手足をばたつかせていたが、次第に体力がなくなっていった。
「わ、妾《わらわ》は悪くないのじゃ! あのアホ吸血鬼が悪いのじゃ!」
「ほう、なら、この体勢のまま話してもらおうか?」
「い、致し方ないか。では手短に言うぞ」
「ああ、いいぞ」
「妾《わらわ》が準備をしている時、あやつは妾《わらわ》に向かって『あんたはまだ信用ならないから、ここにいなさい!』と言ったのじゃ」
「……ほう」
「あやつは、そのあと『あたしより弱いやつをナオトのそばに置くわけにはいかないわ!』と言ったのじゃ」
「ミノリが言いそうなセリフだな。続けてくれ」
「そして、妾《わらわ》はこう言い返した。『ならば、どちらが強いか試してやろう!』とな」
「挑発に乗るなよ……」
キミコは俺の言葉を聞かなかったことにした。
「こうして固有魔法対決が始まったのじゃ」
「……そうか。それで? 結局、どっちが勝ったんだ?」
「妾《わらわ》が勝利した。しかし……」
「しかし?」
「……どういうわけか妾《わらわ》の固有魔法が違う効果になってしまったじゃ」
「ん? 俺ってお前の固有魔法の名前、考えてないよな? 誰に名付けてもらったんだ?」
「おう、それか。それは例の神社の神様につけてもらったのじゃ」
「ということは、神様に固有魔法の名前を付けてもらったのか。なんかすげえな」
「ほう、今の話を聞いても、全く動じぬとは、なかなかやるのう」
「まあ、この世界で起こることに、いちいち反応してたら切りがないからな」
キミコは俺のその反応に疑問を抱《いだ》いていたが、特に気にせず、固有魔法の名前を言った。
「妾《わらわ》の固有魔法は『|絶対魅了《アブソリュートチャーム》』。その名の通り、妾《わらわ》の魅力で相手を強制的に妾《わらわ》のことを好きにさせる魔法じゃ。じゃが、なぜかあやつは我が主《あるじ》のことを今よりもずっと好きになってしまったのじゃよ」
「どうしてそうなったんだ?」
「分からぬ。じゃが、あやつの固有魔法と何か関係があるかもしれんな」
「そうか。なら、ミノリの前で二度とその魔法を使うな」
「わ、分かった。分かったから、そろそろ離せ! 足が地面につかない状態が続くと……うっ!」
キミコは急に俯《うつむ》いてしまった。
「悪い悪い、今やめるからな」
その時、キミコは俺の首筋に嚙《か》みつこうとした。俺はそれを瞬時に回避《かいひ》した。
「ど、どうしたんだ? 急に。まさかお前も、吸血鬼とのハーフなのか?」
「逃げ、ろ。妾《わらわ》の中のもう一つの人格が目を覚ます前に!」
キミコは頭を抱えながら、そう言った。
「まさか、獣人型モンスターチルドレンは全員、二重人格なのか?」
「そう……じゃ。個体によって人格も覚醒《かくせい》条件も違う」
「ど、どうすれば、お前を楽にしてやれるんだ! 教えてくれ! キミコ!」
「別の人格の妾《わらわ》になったら、その時のことは全部忘れてくれる……か?」
「それで……いいのか?」
「ああ、それで……十分……じゃ」
キミコは、それっきり全く動かなくなってしまった。
しかし、その直後、別のキミコが目を覚ました。
「ねえ、お兄ちゃん。そろそろ私を下《お》ろしてよ。それに、いくらお兄ちゃんが私のことを好きだからって、ずっとこのままの状態にしておくのは、どうかと思うよ?」
「……えっ? お前、誰?」
「いいから早く下《お》ろして」
「お、おう」
キミコは自分の体に異常がないか、両手を開いたり閉じたりしていたが、こちらの視線に気づくと俺を指差した。
「いい? お兄ちゃんは私がもう一人の私だってことがみんなにバレないように努力するのよ! 分かった?」
「お、おう」
「返事はきちんとしなさい!」
「は、はい!」
「よろしい。じゃあ、早く行こう。お兄ちゃん」
「あ、ああ、そうだな」
俺は『先ほどまでとは違う人格になったキミコ』に手を引かれながら、ミノリ(吸血鬼)たちがいる方に行くと、今から出発することをみんなに伝えた。
その後、全員で部屋の外に出た。
ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)がミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)を山のふもとまで動かした後《あと》、俺たちは山の入り口に行き、一列横隊に並ぶと右手を高々と挙《あ》げた。
『宣誓《せんせい》! 私たちは素晴らしい晴天に恵まれ! 心地よい風と豊かな緑を感じながら全員でこの『深緑に染まりし火山』を登りきることを誓《ちか》います! モンスター暦《れき》四月十一日! 今日が『あ○ぐも』先生の進水日だということも忘れずに無茶をしない程度に頑張ります!!』
俺たちは山に向かって、そんなことを言った。
これ、誰がやろうって言い出したんだっけ? 超恥ずかしい。
その直後、一行の顔は真っ赤になった。
一行は、その顔のまま、一列縦隊でトコトコと山を登り始めたのであった。