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続きです。
好き、なんだ。先生」
ハッとする。まるで今まで寝ていて目を覚ましたような心地だ。
しかし、同時に今自分が言ったことに呆然とした。
―――え、先生?それに好きって…。いや、好きだけど。でも今はそんなことしてる場合じゃなくて、魔神が…。
「そうか、俺も公子殿を好ましく思っている。俺と付き合ってくれないか」
「…え?」
「ん?」
あまりに予想外な事態にぽかん、としてしまう。思考が固まる。
どうしたんだ、と穏やかに笑う鍾離はよく知る彼だ。けれど、少し見覚えのないタイプの笑みを浮かべている。
…まるで、愛しいものを見ているかのような。
「…先生が、俺を…好き…?」
「もちろんだ。なんだ、伝わっていなかったのか?」
おかしい、と思う。これは夢じゃないか、なんて頬をつねったが、痛い。現実だ。
けれどそれでも、やっぱりおかしい。
だってあの時、あんたは俺を振ったじゃないか。
それに、さっきまでいた魔神はどうしたのか。自分は、ちゃんと倒せただろうか。確か半殺しにしたあたりまでは記憶があるのだが、自らも満身創痍だったせいでそれ以降の記憶がおぼろげだ。
「…どうした公子殿、まさか夢でも見ていたのでは?」
「…夢…だったのかな…でも…」
あんなのが夢で在ってたまるか。
失恋の苦しみも、悲しみも確かに現実で本当だった。
魔神との戦いの高揚も、傷ついていく身体的苦痛も確かにそこに在った。
それなのに、先生はあれを夢だという。
「何を疑問に思う。お前はずっと、ここにいただろう?」
「……………そう、かな」
「ああ、そうだ。さて、公子殿。せっかく思いが通じ合ったんだ…このまま、夜を共にしないか?」
「えっ」
するりと、鍾離の武人の手がタルタリヤの手に覆いかぶさり、絡めてくる。
「…お前を、抱きたい」
「っ…!」
おかしい、と思う。
けれどそれ以上に、この人に求められたことがうれしくて、涙が出る。鍾離は席を立ち、それを優しく拭うと顔を近づけてきた。
応えるように目を閉じて、その感触を待ちわびる。
その、時だった。
『………すまない、間違えた』
あの時の声が、彼の表情が、よみがえって。
「っ…やめて!!」
「くっ…」
気づけば鍾離を押しのけ、タルタリヤは立ち上がっていた。
「………公子殿?すまない、急すぎただろうか」
「…ごめん、帰る…ね…」
しゅん、と落ち込む鍾離を慰めたいけれど、それ以上に違和感がひどくて。タルタリヤは何とかそれだけ言い置き、逃げ出すようにそこを出た。
自室に駆け込み、へたりと座り込む。
「…どうなってるの…」
タルタリヤの声が、むなしく響いた。
その後も日々は続いていく。
眠れば夢から覚めないかと思ったのに、無意味だったらしい。
「公子殿、おはよう」
「…おはよう、先生」
そして、先生との関係も相変わらず。あんな風に逃げ出したのに一切怒っていない様子の鍾離は、未だに肩や腰を抱いたり頬にキスしたり、時に口にもして来ようとしたり。
…本当に、恋人のようなそんな扱いをしてくる。
けれど、タルタリヤはそれらに答えられなかった。特に、唇へのキスはまだ受け入れていない。
「…あ…」
ふと、視界の端に見覚えのある令嬢を見かけた。あれはかつての時に先生と恋仲とささやかれていた名家の娘ではないだろうか。
もしかしたらあの子に聞けば何かわかるのでは、と思ったが、鍾離に腕をつかまれ引き留められる。
「…妬けるな。俺といるのに、俺以外のものに目移りするとは」
「えっ…で、でも、その」
「―――公子殿は、焦らすのが上手だ」
「んっ…!やめっ…ひゃっ…んんっ!…くぅ…」
有無を言わさず、唇を奪われる。必死に抵抗したが、やめてくれ、と言おうと口を開けたところでさらにキスを深いものに変えられてしまい、離れようにもがっちり腰と後頭部を固定されて動けない。最初こそ押し返そうとしていた腕にはとっくに力が入らなくなってしまい、まるで縋りつくように鍾離の服をつかんでいた。
それでも何とか動く瞳を必死に動かし、生理的な涙でにじむ視界の中周囲を見回せば、はやし立てる市井の者たちに交じってこちらを射殺しそうな嫉妬の目でにらむ娘がいた。
「んっ…はふっ…はぁ…はぁ…」
「ふふ、ファーストキス、だな?」
「え…いや、俺は…」
「む、もしやそうではなかったのか?では…俺の記憶で上書きしなければ」
「ええっ!?…も、やめっ…ンんっ!!ん~~~~~~~っ!!!」
息が上がってしまって鍾離に縋り付く様にもたれかかるタルタリヤは、再び与えられるディープなキスに翻弄されることしかできず、結局完全に腰が砕けて歩けなくなるまで延々とその行為は繰り返されたのだった。
「…キス、しちゃった…」
今度は間違えた、とは言われなかった。
それがうれしいと思ってしまう自分が滑稽で、ため息が出る。
「…やっぱり、おかしいよね」
あれが夢だとはとてもじゃないが思えない。けれど、ここが夢だとも思えない。
うーん、と悩んだタルタリヤは、ふとあの魔神のことを思い出す。
アビスは数か月にまたがってあの魔神復活を目論見、準備していた様子だったはず。ならば、今いけば何か仕込みをしているところに立ち会えるかもしれない。
「…行ってみる価値はあるな。…夢だとしても、ここが壊されちゃうのは嫌だし」
一度璃月を海に沈めようとした身で言えたことではないが、それでも愛した人のいる国を壊す存在は排除しておきたかった。
ここまでは前垢であげてたやつです
続きはまたいつか…