コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
●fsmgkの場合
俺たちの出会いは、奇跡的な偶然だった。彼は、たった1週間しか生きることができない蝉で、俺は2000年以上“生きれてしまう”龍だった。俺は、彼とは出会うべきじゃなかった。
出会った時の事は今でも鮮明に覚えている。たった数日前のことだから。俺はいつも通り家の裏にある向日葵に水をやって、朝食を作っていた。すると、外から物音がした。熊かと思い慌てて外に出た。しかし、そこに居たのは熊なんかではなかった。そこに居たのは1匹の青年の蝉だった。
嗚呼、これが運命か
無意識のうちに俺はそう思った。初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい気がした。
彼は何も反応しない俺を伺うような表情を浮かべていた。彼を逃がしてはならない。本能的にそう感じた。俺は「お客が来るなんて久々っスねぇ」と言い、彼を家の中へと誘った。
俺と彼は相性が良かった。俺達はすぐに打ち解けて、本当に昔馴染みだったかと錯覚する程に話を弾ませた。
そんな会話の1つで、何故こんな所に住むのかと聞かれた。確かに人と共生している彼からしたら、こんな所は珍しいのかもしれない。
俺は「……あー、俺生き物とは、あんまり関わらないように生きてるんっスよ」と言った。嘘をついている訳では無い。その言葉の中に「君だけは、特別」という意味を込めた。少し照れたような顔をする君を見て、今まで動くことの無かった愛しさが心の奥底で渦巻いていた。
それから毎日彼は俺の家へと出向いた。有る日は手土産を持って来て、有る日は遅くなったから、と泊まったり。
彼は街の書物屋から借りてきたという本を見せてくれた。その本の中に、月花という言葉が入った俳句があった。「月花?」「風雅な事を示す言葉です。寵愛の対象にもなるらしいですよー」なるほど、君に似合う言葉だ。
俺の住む林を抜けると、月が綺麗に見える崖がある。俺は月を見た事ないという彼をそこへ連れていった。満月の夜は何度も過ごしてきたけれど、君と見ているだけでいつもより何倍も月が美しく見えた。「綺麗だね」俺は月ではなく彼にそう言った。彼は 「そうだね」と言った。きっと気づいてないのだろう。俺は少し拗ねた顔をした。
他にも沢山のことを体験させた。お菓子、料理、花札……数えだしたらキリがない程だ。生きることはこんなにも楽しいんだと彼は思い出させてくれた。
彼の体に不調が出始めたのは、出会って5日後の事。滅多に遅刻しない彼がいつもより少し遅めに俺の家に来た。
その日は帰るのに必要なの体力が戻らなかったらしく、俺の家に泊まらせた。
出会って6日目。彼は明日で死ぬんだな、と分かってしまった。明らかに昨日よりも身体が動かなくなっている。昨日まで出来ていた事が出来なくなっていた。立ち上がるのすら覚束無い様なので手伝って、月がよく見えるあの場所に座った。もう1人では座れないでしょ、と俺が背もたれになった。
「……明日死ぬんですねぇ…」その口調に恐怖は感じられない。自分が明日死ぬと分かった時の気持ちは、俺には一生かかっても理解できないであろう。
「────tyさん知ってるか?遠い遠い国の蝉は不死の存在なんだぜ。だから、大丈夫っスよ。大丈夫」俺は慰めるようにそう言い、頭を撫でた。
「じゃあ、生まれ変わったら僕は不老不死になるよ。寿命を気にしないで、来世もgっくんと一緒に過ごしたいな」彼は来世を楽しみにしているらしい。俺の名前が出てきた時に、不覚にも手を止めてしまった。彼は不思議そうな顔をして俺の方を見た。
俺は、泣いていた。大粒の涙が留まること無く目から零れ落ちている。
「え、gっく、」「っ、だから、出会いたくなかったのにっ…!…仲間も、友達も、家族もみんな、みんな死んでっ、もう残されるのは嫌だから、っ」
泣くつもりは無かった。最期は笑顔で彼を送りだすつもりだった。でも、今のはずるい。我慢し続けた涙はなかなか止まらなかった。
必死で泣きじゃくる俺を見ながら彼は優しく頭を撫でる。「大丈夫だよ、gっくん。僕は必ず君を見つけるから、ね?」
君の為ならば、罪を背負っても敵わない。そう伝えられた。「じゃあ、来世は俺と一緒に罪を償おう」そう言って彼を抱きしめた。
7日目の朝。俺の布団に彼を寝かせて、ずっと傍にいた。キラキラしていた瞳はもう見えないのだろう。水晶のように透き通ってしまった。俺は彼に優しく口付けをして「────いしてる」そう小さく呟いた。彼に届いているかはもう分からない。俺の事をどう思っているのかを問いただす事も、もう出来ない。 それでも、俺は君のことが──── (続)