校舎裏、人影のない場所に学校に似つかわしくない煙がたちこめていた。
京志にやられたことで更に一本歯が欠けた坊主の江藤が、マスクをずらして唇の端で笑った。
「……なぁ、春也、最近ぬるなってへん?」
ポツリと落ちたその一言に、周りがザワッと反応する。
うなずくやつもいれば、目をそらすやつも。
「自分の取り巻きがやられてんのに、何もせぇへんねんで?
舐められてんの、俺らやんけ」
「どこがチャンピオンや。もう、黙ってられへんわ」
江藤がゆっくり立ち上がって、誰とも目を合わせずに言った。
「……このまま春也に任せとって、ええんか?」
言葉が重たく落ちる。
誰かが「竜ってさ…」と口にしかけて、すぐに黙った。
数秒の沈黙。
その空気に耐えられんように、別のやつが急に言う。
「竜は関係ない。あの人に頼るとか、もう話が違うわ」
「せや……竜に話通すとか、死にたいんかお前」
全員が無言でうなずく。
“竜の名前は出すな”――ルールでも掟でもないのに、それが染みついてる。
江藤がマスク越しに鼻で笑って、
「ほな、春也には春也なりの“ケジメ”つけてもらわなな」
ほんのわずかな口元の動きだけで、
周りの数人が無言でうなずいた。
春也を囲む算段が、静かに――けれど確かに、動き始めた。
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