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「アンタ、最低っちゃ!!」
声のトーンの割には少し控えめな ぺち と言う音が静寂を貫く廊下に響く。そして駆け出す細い足、立ち止まったまま呆然とするワイシャツ姿の陽キャ男子。我々陰キャ界隈でネタにするには少し盛り上がりすぎな程珍しい光景だった。ビンタしたのが陽キャ女子ならまだしも、我々陰キャと何ら変わりないカーストにいる芋系女子がカースト最上位にいるようなイケメンを殴って行ったのだ。静寂もつかの間、勿論周りにいた陽キャ共は爆笑し、一気に煩雑な空間と変わり果てた。そして私は走った。その場にはいても立ってもいられず、あの子が向かった屋上へ走った。特に仲良くもないが、どうしても知りたかった。
「ストレスでも溜まってたんですか」
つい声をかけてしまった。陰キャでもあろう私が自ら声をかけるだなんて所業があってよいのだろうか、と実行してから気付き、逃げ出したい一心の最中、彼女は陽キャのような眩しい笑みを見せて答えた。
「すっっっっげぇ 腹立ったんだわ 、せやから ぶん殴っちまったわ !」
少し癖の強い話し方、別に方言という訳ではなくアニメなどに影響されたような訛りで笑ってきた。
「えっと…どうして?」
「そげん、決まっとるやろ!あのあほ面男子、うちが転校してきた初日から ブスだのけーれだの、うるっさいねん!せやから、天罰っちゅうやつが必要やったかなって。」
ああ… この子強すぎる。私達とは少し違う世界に住んでいるみたい。でも私は憧れてしまった。同じような立場に居た芋女がにっこりと笑って陽キャに立ち向かう姿があまりにも滑稽で、あまりにも輝いてみえたから。
「あああ、あの、お名前は、いや、お名前より、師匠と呼んでも、あの、良い…ですかね?いや別に嫌なら断ってくれて構いませんし…!」
こんな子相手でも私はどこまでも陰の世界の住人だった。上手く話せないし上手く伝えられない。ヒロインになれたらどれだけ良かっただろうか。
「え!うちが師匠!? よっしゃ、ゴリゴリ使ってやるから覚悟しときぃや!!ふふ〜ん弟子第一号爆誕!」
私は決めた。彼女と一緒に可愛くなって美しくなって、高嶺の花として2人で相棒になって、いつか私を見下した奴ら全員に札束でビンタしてやると… 。