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扉が開いて室内の様子が露わになる。最初に目に入ったのは、中央に設置してあるゆったりとした2人がけソファが2脚にセンターテーブルだ。しかし、ソファには誰も座ってはいなかった。続いて部屋の奥に視線を向けると、窓際に人が立っているのに気付いた。
「こんにちは。突然呼び出して申し訳ない。どうしても君と直接話をしたかったんだ」
整った顔立ちの美しい少年がこちらに向かって笑いかける。明るい金色の髪に紫色の瞳……クレハ様の青色の瞳も珍しいけれど、紫の瞳なんて初めて見た。失礼だとは思ったが、つい凝視してしまう。彼がセドリックさんのご主人でこのカフェのオーナーなのだろうか。
目の前にいるのは私とそう変わらない子供だ。どうしても信じられなくて、不信感からだんだん眉間に皺が寄ってきた。すると、私の隣にいたセドリックさんが口を開く。
「リズさん。この方が私の主であり、我が国の王太子『レオン・メーアレクト・ディセンシア』様ですよ」
セドリックさんの言葉が理解できなかった。はっきりと聞こえたのに……いや、言葉の意味が分からなかったのではない。その内容があまりにも自分の想像の範疇を越えていて頭の中が真っ白になってしまったのだ。
「セドリック……事前に説明したんじゃなかったのか?」
「一応レオン様がどういう方か最低限お伝えしたつもりなのですが……いきなり全てをお話しするのも混乱されるかと思いまして」
金髪の少年は困ったような表情で私を見ている。私は呆然と立ち尽くしたまま、何の反応も返す事ができない。
「リズさーん、大丈夫ですか?」
セドリックさんに耳元で名前を呼ばれた。そこでやっと私の脳が正常に動きだす。
「はっ、はい!」
「まるでネジの切れた人形みたいだったな。驚くとは思っていたが、クレハも君も過剰過ぎやしないか」
金髪の少年……セドリックさんが言っていた通りならこの方は……。こんな所にいらっしゃるなんて信じられないけれど。私は唾を飲み込み、意を決して言葉を発した。
「レオン殿下……ほ、本物の……?」
「うん。この国の王子兼、とまり木のオーナーのレオンです」
『どうぞよろしく』と殿下は事も無げに言い放った。確かに身分の高い方ですが高過ぎですよ! 最高位じゃないですか。王族の方が出てこられるなんて想定外です!!
言葉にならない疑問符が頭の中をぐるぐると回っている。つまり、クレハ様の助けた鳥は殿下のペットだったということだ。どうして殿下がカフェのオーナーに? 色々気になるけど、考え事は後回しにしてご挨拶しなければ。さっきから失礼な態度を取りっぱなしだ。
「リズ・ラサーニュです。見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありません。まさか殿下がいらっしゃるなんて思いもよらず……」
「いや、こちらも言葉足らずだった事を詫びよう。驚かせてしまいすまなかったな。早る気持ちが前に出過ぎて、配慮が疎かになってしまったようだ」
見れば見るほど綺麗な方だ。レオン殿下……この方がクレハ様の未来の旦那様になられるのかぁ。
「私にお話があるとの事ですが……それもクレハ様に関する内容だと聞いております。クレハ様はお元気でいらっしゃいますか? 体調を崩したと聞いて、心配していたのです」
「大丈夫、クレハは元気にしているよ。とりあえず、こちらに座って話そうか」
殿下は私にソファに座るよう促した。セドリックさんには飲み物と何か摘める物を持ってくるよう指示を出す。殿下と向かい合わせで席に着くなんて……とんでもない事になってしまった。まだ意識がふわふわしている。白昼夢でも見ているのではないだろうか。
「君も当然知っている事だと思うが、俺とクレハは先月婚約を結んだ。内輪だがお披露目も終わり、彼女は正式に俺の婚約者として定められている」
「お披露目と言っても王妃殿下が主催のお茶会の延長みたいな物で、そんなに堅苦しいものではなかったのですけどね。どうもレオン様がクレハ様に会えると張り切ってしまい、その結果クレハ様に負担をかけてしまう事になりました」
「セドリック……その件については反省してるから、あまり蒸し返さないでくれ」
クレハ様が王宮で体調を崩されたのは緊張と疲労によるものだったそうだ。しかも『とまり木』のオーナーが殿下だったという事も、その時に知らされたらしい。
クレハ様……大変だったのですね、お労しい。しかし、今はもうすっかり元気になって走り回っているとの事で安心した。王宮でもトレーニングなさってるんですね……
飲み物の入ったグラスとカップが殿下と私の目の前に置かれた。グラスの中身はオレンジジュースだ。殿下の方に置かれたカップには普通の紅茶が入っている。私は食後に紅茶はたくさん頂いたから、ジュースの方が嬉しい。
「柑橘系の飲み物には緊張を和らげる効果があるんですよ。こちらのクッキーもどうぞ。リラックスして下さいね」
「ありがとうございます」
グラスの隣にクッキーが入った小皿も置かれた。花の形をした一口サイズの可愛いクッキーだ。食べるのがもったいないな。
殿下もセドリックさんも、私が萎縮してしまわないようにかなり気を使って下さっているのが分かる。本当になぜ私と話をしたいなどと思われたのだろうか。それも殿下自ら出向いてまで……
「さて、それじゃあ本題に入ろうか。セドリックも言うように、肩の力を抜いて楽にしてくれ。どうしても答えたくない事は無理に言う必要はないからな」
「はい……」
そうは言われても、やはり緊張してしまう。でもクレハ様に関するお話しなのだ……しっかりちゃんとお答えしなくては。私は姿勢を正して殿下の次のお言葉を待った。