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「―ち」
…ん?
「し――ち」
僕は、寝ていたのか…
そうか、そういえば赤松さんが…
「終一!!!」
「うわっ!?」
びっくりした…!
上を見上げるとそこには百田くんの顔があった。
でも、いつもと雰囲気が違う。
その日の百田くんはとてもキラキラしていた。
「おー、やっと起きた!」
そう言ってにかっと笑った。
いつもの笑顔なはずなのに、僕にはどうしようもなく眩しく見えた。
まるで太陽のような笑顔だった。
「百田くん…?」
「おう、どうした?ていうかなんでこんな所で寝てんだ?風邪ひくぞ」
「うん、確かに…」
「そういえばさっき赤松が走って行くのを見たんだが、どうしたんだろうな?」
「…」
あれ?
百田くんが僕以外の人の事を考えていると、胸が苦しいような…なんというか、すごく圧がかかったような感じがする。
僕が考える前に、言葉は出ていた。
「…なんで僕以外の人の名前を出すの…?」
「は?出しちゃ悪いかよ?」
確かにそうだ。
なんで僕はこんなにキレて、っていうか嫉妬して…
「うん、そうだよ。そうだね…ごめん百田くん」
すると百田くんは心配そうな顔で僕を覗き込んできた。
…ああ、百田くんが僕のことを心配している。
「テメー、いつもより様子が変だな…風邪でもひいたか?」
なんで全部風邪に繋げるんだ…
まぁそういうところも…って何考えてるんだ僕!?
これは自分でもさすがに心配になってくる。
ひとまず心配かけないようにするか…。
「いや、全然大丈夫だよ。」
「そうか?宇宙に響くオレの助手なんだから、しっかりしてくれなきゃ困るぜ!」
さて、どうすればいいんだろう…
side赤松
はぁ…
私が起きたところを百田くんに急に声掛けられて厨房に逃げてきちゃったけど…
まぁ今の所大丈夫そうだし。
「ひとまず大丈夫かな…」
「何がかしら」
えっ?
恐る恐る上を見上げてみると…そこには東条さんがいた。
「赤松さん、食事に何をしたの?」
「えっ!?いやぁ、えっと…」
「明らかにおかしいわよね。最原君」
「そうだね…何があったんだろう?」
「とぼけないでちょうだい。あなたが何かしたんでしょう?」
…こわい。
私の脳内には魔王が流れていた。
冷や汗が止まらない。
これ以上誤魔化すのは無理そう…。
「すみませんでした」
「はぁ…謝っても遅いわ。でもまだ最原君は“少し”おかしいだけだから、今のうちに元に戻すべきよ。勿論、何か治療薬はあるんでしょう?」
ないとは言わせない。
顔がそう言っている。
でも、そこまで準備の悪い私じゃない。
「うん、もちろんここに―」
…あれ?
「えっと、ここに?」
…あれあれ?
「ない!?」
鞄のどこを探っても見つからない。
そういえば、食堂に入った瞬間誰かとぶつかったような…?
「まさか、その時どこかに落としたのかな…」
でもここら辺には落ちてない!
「…。割れるような瓶に入れてないわね?」
「うん。透明なプラスチックの小さいケースに錠剤が入ってるんだよ。」
「なら探すしかないわね。落ち込んでても仕方がないわ。早めに探しましょう」
…うん、そうだよね!
「本当にごめんね東条さん!私が何とかするから!」
「いえ、ここは私も探すわ。その方が早く見つかるかもしれないし、探し物は得意なの。」
「ありがとう…!助かるよ!」
そう言って食堂の方を振り向いたら。
「あれ!?最原君たちは!?」
「居なくなってるわ…」
side最原
咄嗟に百田くんを追いかけてしまった。
「どうしたんだよ終一!こんなことするなんてテメーらしくねぇ!」
「だって百田くんが逃げるから…」
「いや、それは逃げるに決まってるだろ!」
「えっ?」
「お前、自分が何持ってるか分かってるか!?」
そう言われてふと手元を見てみると…
そこには刃が出たままのカッターが握られていた。
「えっ!?僕は心当たりないんだけど…!」
「はぁ!?んな事知るかよ!ならそれ落とせ!」
「うん…ほんとうにごめん百田くん!」
なのに。
握られたままの僕の手はビクともしない。
まるでそれが必要不可欠だというように…。
「あれ?取れない…」
「呪いかよ…!!そういうの信じねぇつってんだろ!」
「知らないよ…!とにかく僕の手が…っていうか身体が言うことを聞かないんだ!」
そう。
僕は今、走ろうと思って走っていない。
いつの間にか百田くんを追いかけてたし、いつの間にかカッターを刃が出たまま握っていた。
でも。
全部僕から逃げるのが悪いじゃないか?
逃げたら追いかけられるに決まってるだろ。
…あれ…
僕は何を考えていた?
それに、そろそろ体力が尽きてもいいはずだ。
なのに、体力が無尽蔵にあるように、どこまでも走れる気がした。
これも全部百田くんのトレーニングのおかげかな…。
そう思いながら、高鳴る鼓動に耳を傾けた。
百田くんを見ていると、自然と鼓動が早くなる。
もしかして、これが恋というものか…?
「それは恋とは言わねぇ!早く目を覚ませ終一!」
…そうだよね!?
本当に大丈夫かな…僕。
自分で自分の心配をするってなかなかしないよ。
百田くんを追いかけていると頭がぼんやりしてくる。
だんだん霧がかかっていく頭で必死で推理する。
と言っても、犯人の目安はついている。
それは、大体東条さんか赤松さんだろう。
でも、2人ともそんなことするように見えない。
僕が来る前に何かあったのか?
でも赤松さんの様子がおかしかったような…
いや、王馬くんの可能性も捨てきれない。
赤松さんは王馬くんに内緒と言われただけかもしれない。
でも―
「終一!いい加減目を覚ませよ!」
「えっ?百田くんなんで逃げないの?」
「ここが行き止まりに決まってんだろ!」
僕はいつの間にか教室の中まで入ってきていた。
教室の隅で百田くんはキツそうに座っていた。
「大丈夫!?百田くん!」
「誰のせいだと思ってやがる…」
…そばに近寄りたいけど、これ以上近寄ったら僕がおかしくなりそうだ。
それに百田くんにも悪い気がする。
でも、身体がジリジリと勝手に寄っていく。
「…終一…」
「百田、くん…」