mtk 視点
「涼ちゃん、様子おかしくない?」
僕は呟いた。
涼ちゃんは耳を塞いで、蹲っていた。
顔は見えず、肩が激しく上下している。
これは演技じゃない。
「カメラ止めて!」
僕は涼ちゃんに駆け寄った。
びしょ濡れの涼ちゃんは震えていた。
早すぎる、荒い息の中で呟いてる。
やめて、お願い、やめて…
僕がいること何も気付いていないみたいだ。
「涼ちゃん!」
滉斗も駆け寄ってきた。
「…過呼吸?」
僕は呟く。
「涼ちゃん。少し立てる?椅子に座ろう。冷たいから」
滉斗が涼ちゃんを抱き抱えるようにして椅子に座らせる。
「大丈夫だからね。息吸えてるからね」
僕は言うけどこの声はきっと届いていない。
後ろから水音がし、振り返ると一応用意しておいた救護班のお医者さんがいた。
「失礼します」
僕らの隣にしゃがみこみ、涼ちゃんの顔に触れる。少し上を向かせると、白すぎる、涙と汗で濡れた顔が露になる。目は瞑ったまま。
「緊張か、なんらかのフラッシュバックによるパニック発作ですね。藤澤さん、少し頑張って、目を空けれますか?」
涼ちゃんの目が少し開く。
「上手ですよ。今はミュージックビデオの撮影中です。辛い記憶を思い出してしまいましたか?」
涼ちゃんは乱れた呼吸の中こくこくと頷く。
「1回呼吸だけに集中してみましょうね。では大森さんの口を見てみましょう。大森さん、深呼吸をしてあげてください。大森さんの方が落ち着くと思いますから。ゆっくりお願いします。」
僕はゆっくり、わかりやすいように深呼吸を繰り返した。
「藤澤さん、すこし真似してみましょう」
涼ちゃんの苦しそうな目が僕をみる。
「上手ですよ。ゆっくり続けて見ましょうね」
しばらくして、涼ちゃんの呼吸は落ち着いた。
涼ちゃんの肩に暖かいタオルがかけられた。
滉斗がやったんだ。
「少し楽屋で横になりましょう。撮影はここまでがいいと思います」
お医者さんが言った。
「涼ちゃん、立てる?」
僕と若井は涼ちゃんを両脇から支えて、ゆっくり立ち上がった。
コメント
2件
なんか私の作品と似てる系統だけど…こっちの方がいい…
やっぱりこの方物語描くのうますぎる😢