午前1時44分。
メモリア・パークの中心、巨大な時計塔の前。
止まった針は、深夜0時を指したままピクリとも動かない。
その下に立つ高校生たち――秋冬、大輝、紗季、大輔、美緒、悠斗。
彼らは全員、どこか怯え、どこかで覚悟を決めた顔をしていた。
「ここが……最後の“影探し”の舞台だな」
四宮悠斗が低くつぶやいた。
「じゃあ、“最後の影”の持ち主は――」
「俺だ」
神来社秋冬が一歩、前に出た。
「天音の最後の記憶。それは……俺の中にある」
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かつて、誰にも話さなかった“あの日のこと”。
秋冬は、事故のようなものに巻き込まれて、あの“旧校舎の地下”で
血まみれの天音と会っていた。
天音は言った。「私の“代わり”になって」
けれど、秋冬は震えて何も答えられなかった。
(俺は、天音を……見捨てた)
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「秋冬……本当に行くの?」
紗季の声がかすれる。
秋冬は無言でうなずき、時計塔の鉄扉を押した。
ギィィ……という不快な音とともに、中の闇が彼を迎える。
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中は、まるで時の墓場だった。
壊れた歯車、錆びた振り子、散らばる古びた日記。
空間の真ん中には、鏡が立っていた。
その鏡は映さない。誰も。何も。
そこに、天音が現れた。
かつての優しい天音ではない。
“赤い人”と天音が融合したような――この世界の呪いそのもののような姿。
天音は言った。
「私がいなくなったら、みんなが進めるって思った。
でもね、秋冬くん……私、“自分で消えたい”わけじゃなかったんだ」
秋冬は震える。
「じゃあ、なんで……!」
天音は微笑んだ。
「だって、誰かが“選ばれなきゃ”終わらないから」
その瞬間、問いが現れた。
【問い:最後の影を集めることで、起きることは?】
A:天音が戻ってくる
B:今日が終わる
C:一人が“世界から消える”
秋冬は目を閉じて答える。
「C……」
「……そう、正解」
鏡がひび割れ、中から黒い腕が伸びてくる。
秋冬を“代わり”として連れ去ろうとする手。
(俺が……俺が“代わり”になる。
それで天音が戻って、みんなが救われるなら……)
だがその時。
「――やめてっ!!」
美緒が飛び込んできた。
「秋冬を連れていかないで! こんなの、おかしいよ!!」
「だったら、あなたが代わりになる?」
“赤い天音”が問う。
今度は紗季が叫ぶ。「じゃあ私が!」
大輝が続ける。「いや、俺が!」
大輔も、悠斗も、誰も彼もが名乗り出る。
「全員で選ばれるなら……選ばれなんていらない!」
その瞬間――
時計塔が崩れた。
闇の中から、一つの“影”が浮かび上がる。
それは、“天音そのもの”。
天音は、静かに言った。
「……ありがとう」
「私、本当は……“誰にも選ばれたくなかった”んだ」
「ずっと、みんなと一緒にいたかっただけなのに」
「でも、もう終わりにするよ」
「――“今日”を、終わらせる」
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針が、動いた。
午前1時59分。
「カチッ」と音を立てて、時計塔の長針が2時を指した瞬間――
世界が白く塗りつぶされていった。
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…………
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──午前7時。
教室の窓辺。
神夜天音は、静かに目を覚ました。
(……夢?)
だが彼女の目には、誰の記憶もない。
クラスには、大輝も、紗季も、美緒もいる。
でも……誰も、天音のことを見ていない。
天音は、いまも“ここ”にいる。
でも、“誰の記憶にも存在しない”。
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──だけど、窓の外。
自転車で登校する神来社秋冬の姿があった。
一瞬、彼は天音のいる教室の窓を見上げ――
小さく微笑んだ。
“どこかで誰かが、ちゃんと覚えてくれている”
天音はそれだけで、涙がこぼれそうになるのをぐっと堪えた。
そしてノートに、こう書いた。
『私は今日も、生きている』
『繰り返さない今日を、私は選んだ』
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