沢山のありがとうを君に【前編】
🐈×🍏♀(他のカプ要素あり)
橙「…あっ!なあなあ、かなめ!」
緑「ん?なに?」
橙「見てやこれ!!」
緑「……!これって、幸せになれるって言われてる貝?」
橙「そうそう!ヤッベー俺運つよつよw」
緑「すごいじゃん!」
橙「やろ?だからさ……」
橙「ん!」((スッ…
緑「………え、?」
橙「これかなめにやる!」
緑「……え、!?いやなんで!?うるみやが見つけたんじゃんッ!いいよッ」
橙「いーやっ!俺があげたいんや!」
緑「…えぇ…、?」
緑「……あっ、じゃあさ…」
緑「2人で幸せになろうよ」
橙「……んぇ??」
緑「半分こにしよ?」
橙「………( °꒫° )」
橙「……ふはッww」
橙「ええで!2人で幸せになろうや♪」
橙「約束♪」
緑「うん…ッ!」
__ピピピピッ
緑「…………」
緑「……昔の夢か…」
私とうるみやは幼馴染。
小さい頃、うるみやは両親を事故で亡くしてしまった。それから私の家族は、うるみやを本当の家族のように大切に扱ってきた。
もちろん私も
…うるみやの心の傷が深くならないように_。
緑「……ヤバっ…!」
時刻を見ると、もう7時半を回っていた。
相変わらずの寝坊で自分でも呆れてしまう。
考え事をしていても仕方ないので、焦りながら支度をすることにした。
青「あっ、かなちゃん起きたんだ!おはよう!」
緑「…はよっ、ごめんまた寝坊した…」
青「あららwごめんねぇ、あたしが起こしに行けたらいいんだけど…」
緑「や、いいよ。私が頑張ればいいだけの話だし」
緑「………いつも家の事色々してくれて、ありがと」
青「……えっ、!?」
青「どしたのかなちゃん、いきなりw」
緑「…いや、いつもこうして生活出来てるのも、しゃるろのお陰だなって」
青「えぇ、照れるなぁ…/w」
青「あたしはかなちゃんがいるから頑張れるんだよ♪」
緑「………そう」
青「照れちゃった?♪」
緑「照れてないッ!!」
しゃるろは私の姉。
幼い頃、私達は親に捨てられた。今はしゃるろと2人暮らし。それ以来、しゃるろは私に常に気を使ってくれる。
優しいんだけど、私の願いとしてはもうちょっと自分の為に時間を使ってほしいなと思う。
まあ今まで家の手伝いをしなかった私が悪いんだけど。
緑「じゃ、もう行ってくるね」
青「はーい!気を付けてねー!」
緑「行ってきます…ッ!」
私達の住んでいる地域は田舎だ。
木々が風によって揺れ、葉が生い茂る音。海の波の音。静かすぎるこの自然の空気が私は大好き。
…そんな沈黙を破るような、バカデカイ声が後ろから聞こえてきた。
シャカシャカシャカッッ!!!
橙「かーなーめーッッ!!!」
緑「ゲッ…」
その正体は自転車を必死に漕いでいるうるみやだった。
…まあ、見なくとも見当は付いていたが。
橙「はよやーッッ!!♪」((ギューッ
緑「暑苦しい…、離れて…」
橙「これが俺の愛の熱さやー!♪」
橙「どや?熱いやろッ!?w」
緑「なにそれ…ッw」
そう、見ての通り私達はただの幼馴染ではなく、恋仲なのだ。
中学から自然と付き合い始めている。
橙「かなめ、今日もお参り行くん?」
緑「もちろん、しゃるろの代わりだしね。サボる訳にはいかないよ。」
橙「毎朝偉いなぁ」
私の日課には「お参り」する事が決まっている。
小さい頃はよくしゃるろと来ていたが、歳を重ねるにつれ忙しくなってしまい、今は私1人で来ている。
どうやらこの町には、神様が宿っていると言われている祠があるらしい。その神様はこの町を守ってくれる力があるだとか。
だからこの町の年配者には、神様を信じてお参りをする人が多い。
…私はちっとも信じてないけど。
でも“彼”は違った。
橙「……………」
……彼はいつも真剣に手を合わせて、丁寧に参拝をする。
本気で神様を信じているのだ。
__その横顔をこっそり写真に収めておいた
橙「…よしっ、終わったで!」
緑「はいはい、じゃっ学校行くよ」
そう言いながら私は自転車に跨り、うるみやを置いて行く。
橙「えッ!?ちょっ、待ってや!!」
そんな私の様子を見て焦ったのか、うるみやも自転車へ一直線に走り出した。
そんなうるみやにはお構い無しに、どんどん距離を離して行く。
橙「待ってやかなめー!!俺寂しくて死んじゃうー!!」
なんて、本当に泣きそうな声で訴えてくる。
それが可笑しくて、ついつい意地悪をしてしまう私の性格は捻くれているのだろうか。
…こんな当たり前の日常が、私にとっての一番の幸せだった。
_ガラガラッ
橙「おはよーございまーす!!」
緑「相変わらずデカイ声…」
橙「挨拶は明るい方がええやろ?♪」
紫「かなめ、うる!おはよぉ♪」
橙「しの!はよや♪」
緑「おはよ、しの」((ナデナデ
紫「えへへ…♪」
この小動物みたいな女の子は、私達の親友しの。
中学も一緒で、よく一緒に町を出て遊んだりしていた。
赤「おはよう愚民共」
橙「アルケー今日も魔王やなw」
赤「俺が魔王なのは当たり前だろ?」
桃「じゃあなんで人間界の高校にいるのさ」
赤「そんなの、人間の愚かさを知る為に決まってるだろ?」
桃「あーはいはいそうなのね」
緑「適当じゃん」
コイツらも中学から一緒にいた親友。
アルケーは魔王らしい、よく分かんないけど。厨二病です。
れむはよくしれっとアルケーにツッコミをいれる。頭の回転が早いからな。
紫「ね、かなめ…、」
緑「んー?」
紫「今日数学で当たりそうな所があるんだ。ちょっと見てくれないかな?」
緑「いいよー」
紫「ありがとうー!」
しのに範囲を教えてもらおうとした瞬間…
先生「おいうるみやーッ!!」
橙「……ん、?………」
橙「あ”ッ!忘れてたー!!」
先生の怒鳴り声と、うるみやの素っ頓狂な声が教室に響いた。
紫「うる、また何かやらかしたみたいだね?」
緑「昨日先生に呼び出されたのに、忘れて部活に直行しちゃったんだよ」
紫「………?」
緑「……八ッ…!」
緑「いやっ、幼馴染の勘というか!?いつもうるみやがやらかすといったら大体こんな事だし!」
紫「そっかー!やっぱり長年の付き合いだと自然と分かってくるものなんだね♪」
緑「そ…、そうそう…」
するとまた、うるみやと先生の会話が聞こえてきた
先生「昨日俺がどれだけ待ったと思ってるんだコノヤロ!!」
橙「だからすまんって!ホンマに忘れとったんやって!」
橙「だって昨日は体育館オールコートで使える日やったんやで!?」
先生「……次は絶対来いよ??(無視)」
橙「ハイ、すんません。」
紫「!!」
紫「すごいすごい!かなめの予想当たったよ!!」
緑「まあやっぱりか、って感じだけどね、w」
橙「かなめー!また怒られたー!!泣」
緑「それはお前が悪いだろ!」
橙「そうよなー…、もーッ俺ったら☆」
緑「何回忘れる気なの?メモしとけばいいじゃん」
橙「えー…、書くのめんどくせぇし、書いたら書いたでその紙どっかいくし」
緑「メモ帳に書けッ!!」
橙「持ってへんもーん!」
緑「はぁ……」
全くこのバカは……
桃「ないなら買いに行けばいいじゃん」
橙「へ?」
紫「確かに!デートにもなるし丁度いいんじゃない?♪」
橙「デートッッ!!?」
この町は田舎のため、大きなショッピングモールは隣町に行かないとない。
そのため、特別な用事やおでかけをしない限り、隣町に行くことはあまりない。
橙「かなめ!今日行こうや!!丁度部活もあらへんし!」
緑「…いいよ」
橙「よっしゃー!!かなめと久しぶりのデートやぁ!!」
赤「デートごときでよくそんなに喜べるな」
桃「ほんとに」
紫「れむ!私達も今度デートしようよっ!♪」
桃「…まあいっか、楽しいし。いいよ♪」
紫「わーい!!」
赤「ここにはバカップルしかいねぇのか」
あっという間に放課後の時間になり、予鈴が鳴った瞬間…
橙「かなめ!はよ行こや!!」
緑「はぁ!?待ってよ準備早すぎ!」
橙「だって楽しみなんやもん!」
緑「メモ帳買いに行くだけなのに?」
橙「俺にとっては最高のデートや!」
緑「…………」
能天気だな……
隣町へ向かう為には、電車に乗らなければ行けない。私とうるみやは電車に乗り、いつものように他愛のない会話をしていた。
その時ふと高齢者が腰を痛そうにして、背中を曲げているのが目に入った。
橙「おばあさん!ここ空いてますよ!」
私が席を譲るよりも先に、うるみやが一足早く行動にした。
「あら、いいの?ありがとうねぇ」
橙「いえいえ!」
緑「………」
…私はうるみやのこういう所が好き。
言葉にするよりも、まず行動で示してくれる所が、安心できて隣にいてとても心地よかった。
_満足気に笑ううるみやをまた、写真に収めた。
カシャッ
橙「……ん、?」
橙「え、今写真撮った…!?」
緑「うん撮った」
橙「なんで!?かなめそーゆーのあんませぇへんやん!?」
緑「うーん…、まあ記念?とかそんな感じ?」
橙「あっ!分かったで!うるみや今めっちゃ変な顔しとったんやろ!?」
緑「…違うよwめっちゃ爽やかな顔してるw」
橙「えー…?まあ別にええけどな?♪」
緑「はいはい、もうそろそろ着くよ」
写真のうるみやの顔は私だけの秘密にしておこう。
ショッピングモールに着くと、色々な雑貨が沢山並んでいて、見てるだけでも楽しくなってしまう。
メモ帳だけでも様々な種類があり、迷ってしまう。しかしもう6月の為、オススメの物が目に入りやすい所に陳列していて、選ぶのには無駄な物が目に入らず、割とお気に入りの物は探しやすくなっていた。
緑「なんか気に入った物あった?」
橙「…うーん、メモ帳とか使わへんし良く分からんなぁ…」
緑「言うと思った」
あまりショッピングモールに来ないうるみやは、物欲がない為、物に関しては興味がない。
緑「…あ、じゃあこれは?」
橙「ん?どれどれ?」
緑「これならメモ欄大きいし、うるみやのバカデカイ字でも書けるよ」
橙「バカデカイって!?」
緑「自覚なかったのかよ」
橙「じゃあこれにする!」
緑「これでいいの?」
橙「おん!だってかなめがこれがええって言うんやから、これが一番ええんや!」
緑「なんだそれ」
うるみやはいつもそう。
私が選んだ物を全肯定し、真っ先に決めてしまうのだ。
橙「ほな買ってくるな!」
緑「…………」
緑「私が買うよ」
橙「……え、?」
橙「え!?いやいやええよ!?自分の物やし!」
緑「…えーと、だからそのー…」
緑「…たっ、誕生日プレゼント!」
橙「誕生日って……、まだ二ヶ月も先やで?」
緑「そうだけど、何事も早めの方がいいんだよ!」
ごちゃごちゃ言ううるみやからメモ帳をぶん取って、先に会計を済ませる。
緑「はい」
橙「…ありがとかなめ!大好き♪」
緑「分かったから…」
素直に受け取ったうるみやは、メモ帳を大事に抱えて笑っていた。
電車に乗り、町に着いて自転車を2人並べて帰路へ走らせていた。
緑「あ、うるみや。帰ったら提出物と来週のテストの予定を書いておくんだよ?忘れない内にね」
橙「おん!」
橙「うひゃー、仕事がいっぱいだぜw」
緑「そんな多くないでしょ」
橙「そうやなw」
いつまでもこうして二人で自転車を走らせていたい。
夏休みが近づき、テストも沢山予定に入ってくる。
そんな時期に絶望的な状況になっている奴がいた。
橙「なあホンマにヤバい!!テスト範囲のとこなんも分からへんッ!!」
緑「…またか……」
紫「え…、大丈夫なのうる?もう来週だよ?」
橙「部活でそれどころじゃあらへんよ…」
桃「何言ってんの。部活は一週間前からテスト期間で停止してるじゃん」
橙「……バレた?♪」
赤「ただ勉強がめんどくせぇだけじゃねぇか」
紫「あれ、確か赤点取ったら夏休み中の部活行けないんじゃなかったっけ…?」
橙「そうなんよッッ!!!」
赤「お前バカかッッ!?」
橙「そうです!バカですッッ!!」
緑「……仕方ない、私が教えるよ」
橙「マジッ!?かなめ神ー!!」
緑「今回だけね!」
橙「ええー冷たーいw」
緑「……いつまでも私に甘えられる訳じゃないんだからね」
橙「何言ってんねん!かなめとはこれからもずっと一緒やろ?w」
緑「………」
緑((ベシッ
橙「いたッ!?なんで叩くねん!?」
緑「バーカ」
橙「…最近かなめにバカって言われることが多くなった気がすんねんけど、」
桃「それはうるが悪い」
紫「あ、かなめ!今度勉強教えてくれないかな?」
緑「もちろん、いいよー」
紫「やった!かなめに教えてもらったら満点取れちゃうかも♪」
緑「なんだよそれw」
緑「ただいまー」
青「あ、かなちゃんおかえりー!」
緑「…何作ってんの?」
青「気付いた?クッキーだよ♪」
青「小腹が空いた時にでもって思ってねー♪」
緑「……手伝う」
青「…えッ!?」
青「いいよいいよ!かなちゃんはゆっくりしてて!」
緑「……いいの、私がやりたい」
青「…え…、じゃあ、お願いしようかな…♪」
_…なんで今まで手伝いをしてこなかったのだろう
もっとしゃるろと過ごす時間を増やせたのに。一緒に楽しく料理が出来たはずなのに。
今まで忙しいことを理由に目を瞑ってきた自分に激しく後悔する。
青「かなちゃんと一緒に料理出来るの嬉しいなぁ♪」
青「…やっぱり誰かと一緒にいるのが一番幸せだね♪」
緑「…ッ……」
こんなに喜んでくれるなんて…
誰かと一緒にいることの幸せは痛いほど分からされてきたのに。こんなにも優しい姉に恵まれていたのに_。
今更後悔しても遅いことは分かってた。
_だから私は、“今”をもっと大切にしていきたい。
緑「…で、出来た…ッ」
青「上手上手!きれいに出来てる!」
緑「…料理ってこんなに大変なんだ…」
青「そりゃあねw」
青「でも食べてくれる人がいるって思ったら頑張れちゃうんだ!」
緑「……そっか…」
緑「……いつもありがとう」
青「…えっ、どうしたのまた唐突にw」
緑「…初めて料理がこんなに大変だって知った。だからいつもありがとうって」
青「…ふふっ、なんか最近かなちゃん変わったね♪」
緑「…え…?」
青「なんか前よりも一日を大切に生きてるなって感じる♪」
緑「…………」
緑「…そりゃ、日常なんて当たり前じゃないからね」
緑「私もそういう事を思える程、大人になったってことだよ」
青「そうだよねー、かなちゃんもう高校生だもんねー♪」
青「……あんなに小さくて、あたしの後ろに隠れてばっかりだったのに、いつの間にか立派になっちゃって…」
青「なんか感動してきちゃった…w」
青「…これからも、ずっと側にいてね」
緑「………」
緑「……離れる訳ないじゃん」
どれだけ自分が大切に思われていたのか、それは二度目にしてようやく自覚することが出来たと思う。
この一分一秒がかけがえのない人生なんだと_。
休日
うるみやの家にお邪魔しようと思い、しゃるろと作った手料理を持ち、家を出る。
うるみやは今、部活動は停止中なので家にいるはずだ。だから、ついでに勉強を教えてやろうと思う。
緑「うるみやー!いるー?」
私はいつも玄関からではなく、裏庭から声を掛けて入る。
今日家に行くと連絡していないから、きっとうるみやは吃驚して、その後すぐ嬉しそうな顔をして出迎えてくれるだろう。
それだけで自然と胸が踊った。
橙「…えッ!?かなめ!?」
橙「どしたん?珍しいなぁ!」
緑「……うるみやがちゃんと勉強してるか見に来た」
橙「…ゲッ、よう分かったな…」
橙「ちなみに今何してたと思う?♪」
緑「………」
今の時刻は12時過ぎ。この時間うるみやなら……
緑「昼食食べようとしてたでしょ」
橙「ピンポーン!正解!」
橙「流石かなめ!俺の事よう分かっとんなぁ!」
緑「当たり前でしょ。何年幼馴染でいると思ってんの」
橙「…好きやでッ!」
緑「いきなりだなぁ!?」
橙「だって言いたくなったんやもん!」
緑「そうですか…」
いつも愛情表現をしてくれるうるみや。
そういう真っ直ぐで素直な所が私は好き。だから毎日「好き」と言われることはもちろん嫌ではなかった。
……けど、私から「好き」だと言うことはあまりなかった。
緑「ねぇうるみや、しゃるろが作った料理食べる?」
橙「マジッ!?作ってくれたん!?」
橙「食べる食べる!!」
緑「了解、温めてくる」
うるみやはしゃるろが作った料理が大好き。
いつもコンビニ飯で済ませてしまううるみやの体調に気遣ってしゃるろがいつも作ってくれる。
橙「うわー!!美味そう!!」
橙「食べてええ!?」
緑「どーぞ」
橙「ほな、いただきます!!」
橙((パクッ
橙「うめぇーッ!!」
緑「……クスッ…」
当たり前だが、うるみやはいつも礼儀正しく「いただきます」と「ご馳走様」を言っている。
そして何より、ご飯を美味しそうに食べる。
しゃるろにその報告をすると、いつも嬉しそうに笑う。しゃるろが頑張れる源はうるみやでもあるのだ。
緑「……ねぇ、うるみや」
橙「ん?なんや?」
緑「……卵焼き、美味しい?」
橙「卵焼き?」
橙「もちろん!なんかいつもとちょっと違う味で美味い!!」
緑「……そう、良かったね」
橙「おん!♪」
実はその卵焼きは私が初めて一人で作ったのだ。
けど敢えてその事は内緒にしておく。
昼食も食べ、うるみやが寝っ転がろうとしたのを私はすぐさま止めた。
緑「おい起きろ」((ベシッ
橙「いたっ!?なんや!?」
緑「勉強すんぞ」
橙「………べん、きょう…」
橙「えーッ!!嫌や!!」
緑「そうやっていつも後回しにするから、テストの点数悪いんだよ!?」
橙「でも今日は勉強する気分じゃねぇ!!」
緑「…………」
緑「勉強頑張ったらご褒美あげる」
橙「!?」
こういう事は良くある。そんな時は大体、ご褒美で釣る。
橙「……ぐぅ…、それなら…頑張るわ…」
ほらチョロい
緑「よし、じゃあ一緒に頑張ろうね」
橙「…おん…ッ!」
かれこれ数時間が経った頃、そろそろ気分転換に散歩でもしようかと思い、うるみやに提案してみる。
緑「うるみや、休憩しよ」
橙「ッはぁ!!疲れたぁ!!」
緑「お疲れ、よく頑張ったね」
緑「散歩でもしに行こうか」
橙「ホンマ!?やったー!♪」
緑「…………」
コイツ本当は猫じゃなくて犬なのでは…と思ったのは内緒。
海辺へやって来た私達は、コンビニで買った軽食を食べてゆっくりすることにした。
私は昼食を食べたばかりなのであまりお腹は空いておらず、飲み物だけを買った。
うるみやはと言うと、さっき昼食を食べたのにも関わらず、菓子パンを三つも買い、更に炭酸水も飲んでいる。
男の子の成長ってすごいな、とつい感心してしまう。
橙「うめぇー!勉強した後に甘い物は疲れ取れるわー!」
緑「そりゃ良かった」
美味しそうに頬張る顔。リスみたいだ。
そんなうるみやの顔をすぐさま写真に収める。
橙「…また撮ったん?」
緑「うん」
橙「最近写真よく撮るな?そんなに好きやったっけ?」
緑「……別に好きでも嫌いでもないけど、写真に収めておきたいなって思っただけじゃん」
緑「うるみやとの大切な思い出だよ?」
橙「………」
橙「えーッ!?そういう事!?」
緑「そういう事」
橙「そんならちゃんと撮ろうや!ツーショ撮ろ!」
緑「え、わ、私は別に映らなくていいよ!」
橙「何言ってんねん!二人だからこその思い出やろ!?」
緑「…………」
…まあ、一枚だけならいいか、
橙「ほないくで?はいっチーズ♪」
カシャッ
橙「おー!ええやん!完璧ー♪」
緑「………」
満面の笑みのうるみや、その隣でちっとも可愛くない表情をしてる私。
ほんとに、私とうるみやって正反対だなって改めて思う。
橙「写真の中のかなめも可愛ええな♪」
緑「ッ!?」
不意打ちで予想外の事を言われて一気に顔に熱が集まる。
きっと今の私はとてつもなく酷い顔をしているだろう。
橙「あれ?赤くなっちゃった?♪」
緑「バカッッ!!お前がそんな事言うからだろ!!」
橙「素直じゃあらへんなぁ♪」
うるみやのこういう所がズルい。
緑「……はい、うるみや」
橙「ん?」
橙「え!?アイスやん!?しかも俺が好きなやつ!」
緑「知ってる、だからこれにしたんじゃん」
緑「…勉強頑張ったね、これご褒美だから」
橙「やったー!ありがとなかなめ!」
緑「まあご褒美だからね」
うるみやはご機嫌そうにアイスの袋を開ける。
そしてそのアイスを二つに割った。
うるみやの好きなアイスは、棒が二本あって、二人でも食べられるようになっている。
その片方を私に差し出してきた。
橙「ほい!」
緑「……え、?」
橙「あげるわ!一緒に食べようや♪」
緑「いやなんで!?うるみやに買ったんだよ!?」
橙「ええんやって!俺が一緒に食べたいんや!」
緑「……えぇ…」
こうなったらうるみやは止まらない。
私がいくら遠慮しても、私が受け入れるまでずっとしつこく説得してくる。
ここは素直に受け取ることにした。
緑「…あ、ありがと…」
橙「おん!」
緑「……ん、?」
よく見ると、私のアイスの方が大きい。
緑「ちょっと、私の方が大きいじゃん!せめてうるみやが大きい方食べてよ!」
橙「いーやっ!こっちの方が美味そうやからこっち食べてほしいんや!!」
緑「味は変わらないでしょ…」
うるみやは優しい。
こうして二人で何かを分け合う時は、美味しそうな方、きれいな方をくれる。
常に誰かに気を使えるみんなのお兄ちゃん的存在でもある。
橙「一緒に食べれることが、俺の楽しみなんや♪」
緑「……そう」
全く、どいつもこいつも寂しがり屋だな。
仕方ないから私が最期まで一緒にいてあげよう。
橙「……なぁ、かなめ」
緑「ん?何?」
アイスも食べ終わり、しばらくのんびりしていた頃、うるみやが口を開いた。
橙「……ご褒美、もう一つもらってもええ?」
緑「…え?別にいいけど…、何が欲しいの?」
橙「…!ホンマ…!?ええの!?」
緑「うん」
橙「…じゃあ……」
_うるみやがふと、私の前で屈み、顔を近づけキスをしてきた。
緑「……!」
橙「…へへっ、ありがとな!元気出たわ!♪」
緑「…急にすんな、バカっ」
橙「急じゃなかったらええってこと!?」
緑「誰もそんな事言ってないわ!!」
なんて、ちっとも可愛くない照れ隠しをする私。
そんな私を優しく撫でてくれるうるみやの手が好きだ。
翌日の放課後、うるみやは珍しく勉強すると言い出し、すぐ帰って行ってしまった。
私はと言うと、以前約束をしていたしのと教室で勉強することにした。
緑「それじゃ、始めようか」
紫「うん!よろしくかなめ先生!」
緑「先生って…、私そこまで教えるの上手くないよ?w」
紫「ううん、かなめの教え方は丁寧で分かりやすい!」
紫「将来教師とかやってそう!」
緑「………」
“将来”という言葉に少しズキンとする。
でもそれは決して悟られないように、いつも通りの笑顔を装う。
緑「大人になってからも勉強はしたくないなーw」
紫「それもそうだねw」
緑「というか、しのはどの教科が苦手なんだっけ?」
紫「…科学ぅ……」
緑「そっかwそれじゃあ科学を重点的に勉強しよっか」
紫「うん!」
紫「範囲どこまでだっけ?」
緑「三十二ページだよ」
紫「流石かなめ!よく覚えてるね!」
緑「まあ私は家帰ってから何もすることなくて暇だからね」
緑「じゃ、早速やろっか!」
紫「うん!」
すると、勉強に取り掛かろうとした時、教室のドアが開いた。
先生「お、勉強してるのか?」
紫「先生!そうです」
先生「邪魔して悪いな。実は科学の範囲が少し狭くなるんだ。その範囲表を取り替えに来た」
紫「そうなんですね!」
するとしのがやったね、と小さな声で耳打ちしてきた。
先生「じゃ、引き続き頑張れよー!」
紫「はいっ!」
先生が居なくなると同時に、しのは範囲表を確認しに行った。
紫「どこまでになったのかな……、ってあれ?」
紫「かなめ!範囲三十二ページまでって書いてる!」
緑「え……っ、うそ!?」
すぐさま前の範囲表を確認すると、そこには「三十四ページまで」と記されていた。
しまった、と心の中で小さく舌打ちをする。
緑「ごめん、見間違えてたみたい!w」
紫「そうだったんだwでも範囲狭くなって良かったね!」
緑「うんw」
危ない、こういう細かい所も気を抜いちゃいけない。細心の注意を払わなければ…。
そろそろ辺りも暗くなり、帰ることにした。
紫「かなめ、今日はありがとうね!」
緑「いえいえ〜、気を付けて帰ってね」
紫「はーい♪」
暗い夜道、一人で自転車を走らせる。
いつもならうるみやが隣でバカみたいに騒いでいるため、いつにも増して空気が冷たく感じる。
……一人って寂しいんだな
そんな風に思っていたら、夜中なのにも関わらず、聞き馴染みのあるバカデカい声が聞こえてきた。
橙「あっ!かなめおかえりー!」
緑「……なんでいるの?」
橙「なんでって…、そんな嫌そうにせんでもええやんw」
緑「別に嫌がってない」
橙「じゃあホンマは俺に会えて嬉しいってことなん!?」
緑「…………」
橙「あ、図星?w」
緑「うるさい、てか何の用?」
橙「あぁそうやったw」
橙「…はいこれ」((スッ…
緑「……ん?何これ、…チョコ?」
橙「おん!かなめチョコ好きやろ?昨日の昼間のお返しや!」
緑「昨日の昼って……」
昨日の昼、うるみやに何かをあげた覚えがない。
しかし一つ思い当たることと言えば…
緑「もしかして昨日のアイスのお返し!?」
橙「?おん♪」
緑「いやなんで!?昨日のはご褒美だから別にいいのに…」
橙「でも、かなめがくれたことには変わりないやろ?」
橙「俺が食べてほしくて買っただけやから気にせんと♪」
緑「えぇ…」
緑「…じゃ、じゃあ、せめて半分こしよ…!昨日のアイスも半分にしたし…」
橙「え?ええの?」
緑「当たり前でしょ」
橙「じゃあ遠慮なく♪」
緑「どーぞ」
橙「はいかなめ、あーん♪」
緑「どぇッ!??」
橙「なんやその声w驚きすぎやんw」
緑「…え、や、なんで…!?」
橙「これ俺の憧れやねん!ほら、食べてーや!」
緑「…うッ……」
でもこれはうるみやがしたいことなんだよな…。
仕方ない、付き合ってやろう…
緑「……あ、あーん…」((パクッ
クッソ恥ずかしい……ッ!!
橙「ん、良く出来ました♪」((ナデナデ
緑「…この…ッ!」
何事も無かったかのように接してくるうるみやに腹が立つ。
からかわれるだけじゃ悔しいので、たまには私からもやり返してやる。
うるみやの満足そうに笑うアホ面にキスをしてやった。
橙「………!?」
するとうるみやは目を大きく見開き、更にアホ面になった。
緑「ふはッ、アホ面w」
橙「や、やってさ!まさかかなめからしてくれるとは思わんかったから…!!」
緑「…たまには私からしてやってもいいよw」
橙「!?ホンマか!?」
緑「それはどうかな」
橙「まーたそうやってはぐらかすー」
緑「まあ詐欺師ですから」
……ごめんねうるみや
きっともう、私からこんな事をすることはないよ。
テスト当日
テストが全て終わり、うるみやがすぐさま私の所に駆け寄ってきた。
橙「なぁヤバいッ!!」
緑「それはどっちのヤバい?」
橙「空欄あらへんよッ!!全部ちゃんと書いたで!」
緑「おっ!すごいじゃん、よく頑張ったね」
そう言い、うるみやの頭を撫でてやる。
橙「やろ!赤点だけは絶対嫌やったからな!」
橙「これで夏休みはかなめと遊び放題や!」
緑「何調子乗ってんの、まだ結果分からないじゃん」
橙「いや!絶対大丈夫や!」
橙「かなめが教えてくれたんやし!」
緑「はいはい…」
橙「あ!そやかなめ!」
緑「なに?」
橙「再来週部活の試合あんねん、良かったら見に来てくれへん?」
緑「………」
緑「……いいよ」
橙「よっしゃ!かなめがおったら俺大活躍出来るかも!」
緑「何バカみたいなこと言ってんの」
口ではそう言いつつも、バカみたいに嬉しかった。
…最後の夏だし、うるみやが大活躍してるとこ見てやるか。
翌週、全てのテストが帰ってきた。
うるみやはなんとか全教科赤点を回避することが出来て、とても喜んでいた。
良かった、と内心胸を撫で下ろす。
なにより、うるみやが部活に行けず、悔しい思いをしなくて良かった。もうあんなに悔しい顔は見たくない。
だから今回だけ特別。
…なんて言うけど、本当は私がうるみやと過ごす時間を増やしたかっただけ。
ごめんねうるみや、勝手に私の我儘に付き合ってもらって。
そして更に翌週はうるみやの試合があった。
宣言通り、うるみやは試合で大活躍をし、見事快勝をした。
カッコ良かったよ、なんて言ったらすぐ調子に乗るから言ってやんないけど。
_うるみやの夏休みが何事もなく迎えることができて良かった。
これで私の役目も終わり。
そろそろ決心しなきゃな、…
今日は雨が降っていた。でも今日はこのくらいが丁度いい。
私はうるみやに伝えなきゃいけない事があるから。
…それは嬉しいことではないけど。
珍しく玄関から訪ねて来た私にうるみやは戸惑っていた。
緑「…………」
橙「…ど、どしたんかなめ?玄関から訪ねるなんて珍しいなぁ?」
緑「………」
橙「……?」
いつもと様子が違う私に、うるみやは戸惑いを隠せないでいた。
これ以上うるみやが喋る前に私が先に口を開く。
心臓が五月蝿いほどバクバク鳴っている。
でも伝えなきゃ_。
私は決心して、言葉を発する。
緑「……あのさうるみや」
橙「……おん、?」
緑「…私と別れてくれない?」
コメント
7件
あ、え、あの、す、好きです。(初コメ失礼します) いやなんかもう本当にどひゃーって感じですもう……😭😭( ひよってフォローしてなかったけど全作品見てますストーカーしてました🙄 まじもう橙緑(桃紫)の犬と飼い主感が好きすぎます🥹🫶🏻🫶🏻 青の頼れるお姉ちゃん感も赤の保護者感も全てが好きですありがとうございます……🤦🏻♀🤦🏻♀ 最後の私と別れてくれない?でしにかけです😭
エモエモすぎてドキドキしちゃいました、主様の文章の天才っぷりに感無量です。 これからもう一の読みます!
ノベルめっちゃ書き方上手すぎて好きです…💕 別れちゃうの!?😭どうなっていくかが楽しみです! 幼馴染系の小説マジで好きです…!!💕✨