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冬の厳しさが混ざり始めた風が川の上を渡り、川に架かる橋の上で向かい合っている二人のコートとジャケットの裾をはためかせながら流れていく。
寒さに身体を震わせた慶一朗だったが、目の前の愛嬌のある顔を持つ恋人はさっき聞かされた言葉の真意が理解出来ずに石化してしまったようで、少し前にも同じように石化したことがあったと思い出し、くすりと笑いながら頬を今度は掌で撫でるとその衝撃に肩が揺れて大きな身体がぐらりと揺れる。
「!」
危ないの言葉が出る前に自ら手を伸ばして欄干を握ったために尻餅をつくような事は無かったが、どう言う意味だと震える声で問われ、これから話をする言葉がより正確に伝わりますようにと願いつつもう一度同じ言葉を繰り返す。
「お前の子供を一緒に育てないか?」
「俺の、子供……?」
「ああ」
その言葉の意味が本当に分からないと苦く笑うリアムの目を真っ直ぐに見つめた慶一朗は、今回お前の実家に連れて行ってもらい、俺には本当に勿体ない程善良な祖母が出来、両親がいればこんな暖かな気持ちになれるのかと感じさせてくれるお前の両親に温かく迎えられた、それは本当に俺なんかには勿体ない経験だったと告げつつ腿の横で感情を堪えるように握りしめられる手に気付き、そっと手を取って己の胸に押し当てる。
「お前の優しさは得難いものだ。でもその優しさがお前に突然生まれたものでは無い、ばあちゃんから両親へと受け継がれたものだと分かった」
「……」
「そうして受け継がれていくものがある、それは本当にかけがえのないものだと思った」
「そ、れは……」
「ああ。俺が絶対手にすることが出来ないものだ」
お前も知っているだろうが幼い頃に家族からの愛情を受けることもなく忘れられたような存在だった俺はお前のように受け継ぐものも受け継いでいって欲しいものもないと、冬の風に消えてしまいそうな笑みを浮かべた慶一朗だったが、リアムが握られている手をそっと振りほどいたかと思うと強い力で抱きしめられる。
人通りも少ないしそもそも今はそんなつもりも無い為、同じようにリアムの広い背中に手を回した慶一朗は、そんな事を言うなと震える声を出す背中を何度も撫でて肩に顔を寄せる。
「ばあちゃんから受け継いだ料理や生き様を俺たちで途切れさせるのは本当に勿体ないことだと思った」
もしもお前が許してくれるのならお前の優しさをその存在に受け継がせたいと思ったと本当に穏やかな声で本心を伝えた慶一朗は、驚いたように肩を掴まれて距離を取るリアムを見つめ、俺は自分の遺伝子を残すつもりなど無い、だからお前の遺伝子を受け継ぐ子供を俺たちの関係や気持ちを理解してくれる女性に産んで貰わないかとも伝えると、リアムのヘイゼルの双眸が夜目にも分かる程キラリと光る。
「それは、代理母を頼むということか?」
「そうなるかな。施設や団体から養子を迎え入れても良いだろうけど、どうせ子供を育てるのならお前の血を受け継ぐ子供が良い」
その子供が男女のどちらであってもお前に似て優しい人に育つだろうと笑う慶一朗の頬を震える手が挟み、そっと額が重ねられる。
「ただ、代理母はオーストラリアでは条件が厳しい」
医師の俺たちが法を破る訳にはいかないが何とかなる方法があるはずだ、それを探そうと微かに震える声で告げると、うんという同じ震える声が聞こえた後もう一度背中をきつく抱きしめられる。
「……ケイ」
「いつかその子供が出来たとき、今日ここで話をしたことによって運命が変わったと言えると良いな」
リアムの声にくすくすと笑いながら返した慶一朗は、さっきのように額を重ねられても小さく笑い、変わっていると良いなとも続けると、身体が冷えてきたからホテルに戻ろうと身体を震わせる。
「川の上は冷える」
「……うん、ホテルに戻ろう」
慶一朗の言葉にリアムも頷いて先程歩いてきた道に向かおうとするが、躊躇いを振り切るように夜空を先程とはまったく違う気持ちで見上げ、隣を歩く端正な顔へと目を向けると、慶一朗が今すぐ抱きしめてキスをしたくなるような笑みを浮かべてそっと手を繋いでくる。
ここは旅先でもあるし己の本心を伝えた余韻もあり、いつもならば無視をするその手をそっと握り返すと、手の甲の肌触りを確かめるようにリアムが撫で、くすぐったいと慶一朗が目を細める。
大通りはそれなりに人通りがあるが、特に二人を見ても奇異の目で見られることもなくホテルに向けて歩いて行く。
ホテルに着くまでの間、時折目に入った建造物について一言リアムが呟くと慶一朗が頷いたり質問をしたりするだけだった。
ただそれだけで満足だった。
ホテルに二人が戻るとフロントのスタッフが今夜は冷えますね、顔が赤くなっていますがお部屋の暖房等も調節できますのでとにこやかに提案し、慶一朗がそれは助かるありがとうと笑顔で頷くが、前に飲んだシャンパンをもう一度飲みたいから後で部屋に届けてくれと頼み、チーズとナッツも注文すると本当に今夜は冷えるなと笑いながらリアムの脇腹を肘で突く。
「……早くシャワーで暖まろう」
笑顔のフロントのスタッフに同じく笑顔で返し、エレベーターに乗り込んだリアムが慶一朗をじろりと睨むが、面白い顔になっているぞと返されて珍しくクソッタレと返してしまう。
「その言葉を使えばお仕置きだったな?」
ここにばあちゃんや両親がいないから俺がお仕置きをしてやろうと慶一朗が笑うと同時にエレベーターが到着し、ドアが開いて慶一朗が足早に出て行くが、それを追いかけるようにリアムも大股に駆け出し、部屋のドアを開ける慶一朗を背後から抱きしめる。
止めろ、止めない早く開けろとドアの前で子供のようにはしゃいだ二人は、何とかドアを開けて中に入った途端に子供の気持ちのまま大人の顔になり、慶一朗を壁と己の身体で挟んで顔を囲うように両手をついたリアムは、意味有り気な目で見つめてくる慶一朗の濡れたような赤い唇に吸い寄せられるように口付ける。
「……ん」
鼻から抜けるような息を吐いた慶一朗に気付きそっと離れた後に額に額を重ねたリアムが、何よりも大切なものだと言いたげに慶一朗を呼び、それに答えるように慶一朗が広い背中をそっと抱きしめる。
「シャンパンを持って来るスタッフに見られるぞ」
「……今のケイさんは誰にも見られたくないなぁ」
部屋に入ってすぐの細い廊下で抱き合っている現状をクスクス笑う慶一朗にリアムが本心を零すと、今のお前の顔も誰にも見せたくないと、同じ男である事を教えるような低い本気の声が返ってきて、それに驚いたリアムが慶一朗の顔を覗き込む。
そこにあるのは端正さはそのままに、得も言われない男の色香を漂わせたリアムが一目で惚れた笑みを浮かべる顔で、吸い寄せられるというよりは全てを己のものにしたい思いから頬を両手で挟んで再度口付けると、薄く開いた唇の間から舌先が誘うようにリアムの口内へと入ってくる。
その誘いに乗りたい気持ちをグッと堪え、それでもそれを断るつもりがないことを伝えるように慶一朗の尻に手を回すと片足をリアムの身体に絡めるように持ち上げられる。
次第に息が上がりそうなキスを交わしながら慶一朗の身体を抱き上げ、高低の位置を変えた顔を見上げるように顎を上げると白くて少しだけ体温の低い手が頬を挟んでくれる。
互いの口の中から溢れた唾液が口の端を伝い落ちるようになっても離れられずに角度を変えたキスをしながらリアムが部屋の奥へと歩いて行く。
窓際の一人がけのソファに慶一朗を下ろそうとするが無理で、己がそのまま腰を下ろすとようやく慶一朗が離れ、唾液で艶めかしく光る唇を赤い舌で舐める。
その煽情的な舌の動きにまた吸い付きたくなったリアムだったが、その時ドアをノックする音が聞こえ、二人同時に舌打ちしてしまう。
仕方がないと慶一朗がドアを開けに向かおうとするのを背後からリアムが引き留め、何だと睨む目尻にキスを落とす。
「今のケイさんを誰にも見せたくないと言っただろ?」
だから出て行くなと笑ってドアを開けに向かったリアムは、ワゴンにシャンパンのボトルとチーズやナッツを運んできてくれたスタッフに礼を言い、ポケットに突っ込んであったコインを取り出すとありがとうとの言葉と一緒に渡す。
それをソファの上から面白くなさそうな顔で慶一朗が見ているが、何が面白くないんだと自問し、楽しんでいたキスの邪魔をされたからだと答えがあり、ガキじゃあるまいし何処まで餓えているんだと自嘲してしまうのだった。
届けられたシャンパンの栓を抜きフルートグラスに大雑把に見えるがそれでも程好く細かな泡が立つように注いだ慶一朗が、一つをリアムにもう一つを手に取ると互いの目を見つめながら乾杯と口の端を持ち上げる。
前回宿泊したときにも飲んだシャンパンはあのとき感じた思いが間違いではないことを証明する美味さがあり、喉を流れる華やかな味に慶一朗がうっとりと目を細める。
「美味い?」
「ああ」
でもこの飲み方も美味いはずと、アルコールに濡れて艶を帯びた唇を舐めながらソファから立ち上がり、リアムの足の間に膝を突いてグラスを奪い取るとそれを口に含み、何をするのかを楽しみにしているような愛嬌のある顔に笑いかけて唇を重ねる。
慶一朗の望むことを理解し受け入れたリアムが口を開けるとシャンパンが流れこみ、そう言えば前回も同じようなキスをしたと思い出すと同時に慶一朗の腰に腕を回して足に座らせる。
「……風呂に入らないか?」
「バスタブ、狭そうだな」
互いの目の奥に同じ欲を見いだし、それをもっと成長させるために今はまだだと堪えるように目を細めた慶一朗にリアムが囁き、二人が入るには狭いかも知れないと返すが、大丈夫と何の根拠もなく返されて小さく噴き出してしまう。
「……シャンパンが温くなるのは勿体ない」
「風呂で飲めば良い」
今は休暇を利用した旅行中で、しかも今日はあなたの誕生日なのだから、世間が顔を顰めそうな事でもやりたいことをすれば良いと笑う恋人の鼻先に小さな音を立ててキスをすると、リアムの足の上で慶一朗がシャツのボタンを外し始め、それに気付いたリアムがジーンズのボタンを器用に外す。
「……脱がせたかったな」
リアムの欲の滲んだ囁きに、ジーンズはまだ穿いているしもう一枚あるだろうと艶然と笑みを浮かべて降り立ち、行儀悪く両足を使ってジーンズを床に脱ぎ捨ててシャンパンのボトルを片手に脱がせろと目を細め、その誘いに当然ながら乗ったリアムが同じように自らの服を脱いだ後に慶一朗の下着を脱がせるが、抱き上げろと珍しく自ら強請ってくる。
それが嬉しくて今日はこちらが良いと慶一朗の頬にキスをした後、膝の裏に腕を通して横抱きにする。
「……」
自宅ではさすがに羞恥から止めろと暴れるが、ここでそれを拒否する不粋さが羞恥に勝ったようで、ボトルの中身が零れないように気をつけつつリアムの首に片腕を回し、行き先はバスルームと笑いながら笑顔の頬にキスをするのだった。
二人で使えば狭いバスタブでボトルに直接口を付けてシャンパンを口に含んだままキスを繰り返し、自堕落な大人だと笑いながらも離れずにキスも止めなかった二人は、ボトルが空になったことに気付いて名残惜しいがシャンパンの飲ませあいは終わりだ、次のお楽しみに進もうと笑い、慶一朗を抱き起こしたリアムがそのままバスタブから出て行こうとするが、流石に慶一朗がそれを制止する。
「ケイさん?」
「何をする必要があるかそろそろ覚えろ、筋肉バカ」
その声に侮蔑が籠もっていればリアムも即座に反応しただろうが、情しかこもっていない声に諭されて我に返る。
「……見てる」
「ダメだ、バカ」
何度も言ってるがお前は人の排泄行為を見て楽しむ趣味があるのかと苦く笑われて視線を左右に彷徨わせたリアムだったが、慶一朗の手を取った後に白い手首にきつく吸い付き、思うような赤い痕が残ったのを確かめると角度を変えて同じ場所に同じ痕を付ける。
「リアム?」
「……よし」
何が良しなのか理解できなかった慶一朗が己の手首を見下ろし、そこに赤いハートが浮かんでいることに気付いて顔を上げると自慢気に胸を張る恋人がいて、ただただ呆気にとられてしまう。
「何処で覚えた、こんなキザなやり方」
所謂キスマークでハートを作るなどいつどこで覚えた、誰を練習台にしたと慶一朗が半ば本気で詰め寄ると、お前の背中とにこやかに返されて絶句してしまう。
己でも見ることなどなかなか無い背中に何度もキスをされた覚えはあったが、まさかそこで練習していたとは想像もつかず、驚いたかと笑いかけてくるリアムに仕返しをしたい気持ちになる。
ここで同じ場所に同じ痕を残すのも面白くないと気付いた慶一朗だったが、同じ場所に残すのは悪くないとも気付き、リアムの手を取って口を付けると、軽く歯を立てて上目遣いに見つめる。
「いたずらっ子か」
「……お返しだ」
ハートのキスマークをありがとう、ちゃんとお礼もしたから大人しくベッドで待っていてくれと広い背中をぐいと押してバスルームから追い出すと、ガラスのドアの向こうで盛大な溜息を吐くが、この後の時間を楽しみにしている顔でリアムが冷蔵庫からビールを出して口を付けるのだった。
女ならここまで手間を掛けることも待たせる必要も無いのにと舌打ちしつつ、慣れてしまった作業を少しでも早く終わらせる為にリアムから見えない場所に移動するのだった。
ぎしりと二人分の重さにベッドが軋み、その音を掻き消すように慶一朗が熱の籠もった声を零してしまう。
一体どのくらいの時間そうしているのか、もう良いからと何度言っても分かったとは言わないリアムの指と舌に追い上げられ、快感と悔しさに抱え込んだ枕に顔を押しつける。
くそったれと今最も相応しくない言葉を思わず吐き捨てると、その言葉を使えばお仕置きだっただろうと小さく笑われ、うるさいバカリアムと続けようと口を開けるが、それを見越したようにリアムの指が狭さを楽しんでいるような中でグッと動いて刺激を与え、恋人を罵る言葉の代わりにいつもならば堪えてしまう快感の滲んだ声が流れ出す。
その声に気を良くしたのか、同じ場所を刺激されて慶一朗の腰が揺れ、枕の下に頭を突っ込んでシーツに嬌声を吸い込ませようとする。
「ケイさん」
「……っ! な、んだ……?」
「うん。――イイか?」
「さっきから、言ってる、だろ……っ!」
いつまでも子供が手遊びをするように中を弄るのを止めろと言っていると枕を己の手ではね除けて顔を見せた慶一朗は、そこにギラリと目を光らせたリアムの顔を発見し、もしかすると少しでも早く突っ込みたいのをずっと堪えていたのだと気付いて両手をリアムに向けて伸ばす。
それは謝罪の合図とは違い早く来いと招く為のもので、それに気付いたリアムが嬉しそうに吐息を零した後、慶一朗が予想したとおりに本当は一分一秒でも早く突っ込みたいのを堪えていたものを押し当てる。
小さく息を呑む気配に気付きつつもグッと先に進むと脇に抱えた慶一朗の足がびくんと跳ね、それを抑えるように全身で覆い被さると中を進む熱と質量に慶一朗が頭を仰け反らせるが、枕やシーツを握っていた両手をリアムの背中へと回してしがみつくように力を込める。
いつもと同じ場所を刺激していることに気付いて入った安堵から息を吐いたリアムを、快感に霞む目で見上げた慶一朗は、いつもは断固拒否しているその先へと進む許可を与えようと頭を持ち上げ、満足しているがまだまだ足りないと言いたげな頬にキスをする。
「ケイさん?」
「今だけは、止めろ」
「――ケイ」
さん付けを今だけは止めてくれと懇願するとリアムの目に強い光が宿るが、キスの後に覗き込まれながら名を呼ばれ、その音が耳から全身を巡ると同時にリアムを迎え入れている場所が熱を帯びた気持ちになる。
「――っ!」
一瞬の強い刺激にリアムが顔を顰めて慶一朗を見下ろすと、目尻を仄かに染めながら快感からかそれ以外の理由からか、震える唇が良いぞと何かに対しての許可を与えてくれる。
「ケイ?」
「……いつも、無理だと言ってる、けど……」
今日だけは構わないと口早に震える声が先を許してくれたことに気付いたリアムが限界まで目を見張るが、己の言葉は嘘では無いと教えるように慶一朗の手がリアムの尻をグッと掴んで引き寄せるように動き、うんと短く頷いてゆっくりと腰を押しつける。
「――ァ!」
いつも感じている場所よりも深い場所を押し広げられる感覚に目を見張り、気持ちよさそうな息を一つ零したリアムを見上げた慶一朗だったが、足を肩に担がれるように広げられて何だと思った瞬間、経験したことの無い深い場所への刺激を受けて身体を震わせてしまう。
「アァ……っア!!」
自分で自分を疑いたくなるような大きく高い声が慶一朗の口から流れ出し、リアムの背中から咄嗟に手を離して両手で口を押さえるがそれを笑うような気配は一切無く、それどころかそこまで気持ちよくなってくれている事が嬉しいと言いたげに目を細められ、赤く染まる目尻にキスをされてしまう。
口を押さえても枕やシーツに顔を押しつけても抑えられない嬌声が慶一朗の意志とは関係なく流れ出すが、恥ずかしいだの何だのと言っている余裕など一切無く、次から次へと生まれる快感にリアムが押さえつけている足が痙攣し、背中を抱いていれば間違いなく爪で傷付けてしまうほど強くシーツを握りしめる。
そんな様子を目の当たりにしたのは初めてで、リアム自身少し不安を覚えたのか、小刻みに上下する薄い腹にそっと手を当てて大丈夫かと問いかけると、慶一朗の手が握っていたシーツを手放し、身体が弛緩したように力が抜けてしまう。
「ケイ……?」
「そ、こ……やめ、……っ!」
頼むから止めてくれと本人の意志とは関係の無い涙が目尻に滲んでいるのに気付き、何を止めて欲しいのか教えてくれと問いかけた時、まさかと思いつつ腹に重ねた手でそっと肌を撫でると、掌に痙攣しているような震えが伝わり、抑えることも出来なくなった口から意味の無い嬌声が流れ出す。
「アァア……ヒ、ッァア!……!」
リアムが腰をグッと押しつけ肩で震える足を押さえつけると悲鳴じみた声が流れ出し、少し腰を引くと頭が嫌だというようにシーツの上で左右に振られ、再度押しつけると白い喉が曝け出される。
今までこれほどまで快感を享受している姿を見せたことはなく、奥へ進んでも良いと許してくれた結果をまざまざと見せつけられ、リアムの腰が小刻みに震えてしまうほどの快感が背筋を駆け上る。
いつも慶一朗の身体への負担を少しでも軽減したい思いから、己のものを全て慶一朗の中へと挿入した時の気持ちよさを想像しつつ堪えていたのだ。
今、普段からは想像も出来ない嬌態を見せている慶一朗にもう無理だと思いつつも、本当に良いかと最後の確認をしたリアムは、弛緩している手が己に向けて伸ばされた事に気付き、そっとその手を取り頬に押し当てる。
「――いい、と、言った……っ!」
こうして話す事も苦痛にすら感じる快感に身を委ねているのだ、くどい確認などするなと橋の上での己の態度を忘れたかのように言い放った慶一朗を細めた目で見つめたリアムは、うん、そうだなと頷いて詫びのキスを掌に落とすと、今までの動きなど子供だましだと言うように腰を引いては、今まで全てを挿入したことの無い中を蹂躙するように押しつけると、慶一朗が未だかつて聞いたことが無いような悲鳴を上げる。
その声に今までなら罪悪感を覚えて腰を引いていたリアムだったが、眼下の白い肢体が発熱しているかのように赤みを帯び、己が時間を掛けて残した情痕も艶めかしく浮き上がる様を見ると、男の征服本能としか言いようのない気持ちが芽生え、せめて苦痛しか感じないでいてくれればと顔を見下ろすと、茫洋と開かれた双眸に見つめられ、先程のように手を取って薬指の根元にキスをすると苦痛だけではないと教えるように、夜の限られた時間にしか開かない花のような笑みが浮かぶ。
「――Komm, Liam.」
来い、と、花弁の中心のような赤い舌に誘われて顔を寄せキスをするとくぐもった声が口の中に溢れ、子どもが嫌だと駄々をこねるように頭を左右に振る慶一朗を見下ろしつつ未経験の強すぎる快感が生み出されているであろう場所を何度も刺激し、甲高い悲鳴のような声に煽られるようにただただ腰をぶつけて慶一朗の身体を痙攣させてしまう。
そして、リアムに訪れた白熱の瞬間、今日はゴムを着けなくて良いと言われていた為に最後の理性のようなそれで抜け出そうとするが、ただ強い動きに揺さ振られるだけのような慶一朗がリアムが抜け出そうとするのを足を絡めて阻止し、気怠げに頭を持ち上げて赤く染まる耳を口に含むように囁きかける。
「……い、い……から」
中に出せとの言葉がリアムに届くと、慶一朗の頭を囲うように腕を突いてキスをし、程なくして中に熱を吐き出してしまう。
「……っ、……!」
久し振りのその感覚に慶一朗が腰を震わせるが、リアムの身体が覆い被さってきたために広く汗ばんでいる背中を抱きしめ、己が無意識のうちに付けてしまった傷跡をそっと撫でる。
「……ケイさん」
「――俺が女、なら……お前の子どもを、産めるのに、な」
途切れながらの本心にリアムが一度目を見張った後、どんな言葉を返せば良いのかは分からないが、ただただその気持ちだけは嬉しいと汗ばむ身体を抱きしめてうんと小さく頷く。
今回の帰省で慶一朗の中に生まれた大きな変化、それを言動の端々から感じ取ったリアムは、出会った頃や付き合いだしてから幾度も経験した突然の別れを乗り越えた先にこのような関係が待っているなど想像も出来ず、あの時短気を起こさなくて良かったと自嘲するが、腕の中から穏やかな寝息が聞こえてきた事に気付きそっと顔を覗き込む。
そこにはいつも以上の快感に身を委ねた後の気怠さなど感じさせない穏やかな寝顔があり、この寝顔をこれからも見続けられ、もしかするとここに自分に良く似た子どもも加わるかも知れないという慶一朗が垣間見せてくれた未来予想図に自然と顔を綻ばせたリアムは、いつもに比べれば乱雑に慶一朗と自身の身体をタオルで拭くと、規則正しく上下する肩を抱き寄せ、汗ばんでいる頭の下に腕を通してこれだけは変えるつもりが無いと慶一朗を抱き寄せながら目を閉じるのだった。