私とはなんのつながりもない彼。
ふわりとした黒髪に、ちょっとずれたメガネが映える。
そのくせ、運動はすごく得意で、マット運動なんかは軽々やってのける。
彼の名前は、川崎。
下の名前で呼ぶのは、なんだか恥ずかしくて。
私はずっと「川崎」って、名字で呼んでいる。
話したことなんて、たぶん3回くらい。
「それ、落ちてたよ」
「え、あ、ありがとう」
「……うん」
その程度。
なのに、毎晩、布団を抱きしめては、川崎のことを考えてしまう。
この布団が、川崎になればいいのに。
川崎になったと思って、ぎゅっと抱きしめる。
ちょっと照れながら、「おやすみ」って心の中で言う。
……ばかみたいだな、私。
川崎は、私より背が低い。
それなのに、跳び箱も側転も、私なんかよりずっと上手。
そんなとこも、かわいくて、かっこよくて、ずるい。
ああ、毎日毎日、君ばかりを目で追ってるのに。
川崎が話すのは、私の前の席の女の子とか、後ろの席の男の子とか。
私はちょうど、川崎の“ナナメ前”。
あと一席、ずらしてくれたらいいのに。
そしたら、もっと自然に話せるのに。
——川崎。
君のことを、大大大大好きで、どんな話でも受け止める女の子が、ここにいるよ。
君の笑った顔も、まじめな横顔も、
全部、ちゃんと、ちゃんと見てるから。
……ねえ、気づいて。
あと一席だけでいい。
君に、ちょっとだけ近づける気がするから。
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