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◇◇◇◇◇
自分が何度果てたかは、わからなかった。
正直、そんなに何度も絶頂に追い詰められるとは思わず、数えることすらしていなかった。
太腿が繰り返す痙攣に痺れ、噛んでいた枕が自分の唾液でドロドロになった頃、自分の手を包んでいた永月の手に力が入り、自分の中に捩じ込まれたモノが痙攣したことによって、やっと行為が終わったんだとわかった。
荒い息をつきながら、枕から歯を離すと、後ろから覆いかぶさっていた永月は、
「はは。枕ぐちょぐちょ…」
と言って笑った。
コロンと身を返され、唇にキスをされる。
もう何十回と合わされ、吸われ、絡まった口は、ジンジンと生温かく痺れている。
「右京の唇、内出血してる……」
永月が笑いながら覗き込む。
「うそ」
「マジ。下唇、ちょっと黒くなってる。……ごめんね」
「………」
触ってもわからない。そういえば少し腫れているような…。
右京は永月を見つめた。
「―――右京」
彼もこちらを見つめ返す。
行為中の鋭い視線とは違い、また柔らかな優しい瞳に戻っていることに安堵する。
と、突然―――。
プルルルルル
プルルルルル
固定電話のコールが鳴り出した。
「―――――?」
永月が身を起こす。
階下で足音がして、永月の母親だろうか、上品な女性の声が聞こえてきた。
「こんな時間に……。何だろ……?」
永月は転がっていた短パンとパーカーを引き寄せた。
真夜中の着信―――。
急変を知らせる病院からの電話―――。
右京の心臓がドクンと波打つ。
「―――右京?」
パーカーから頭を出した永月は、身を起こしたまま青ざめている右京を振り返った。
「どうしたの?」
「あ、いや―――」
右京は慌てて取り繕うと永月を見つめた。
「だれか入院してる人とかいねえの?」
「―――んー。特には?」
永月は考えた後、
「あ、従妹が、バレー部の練習で骨折して入院してるらしいけど」
「―――それは、関係ねぇかな」
右京がふっと笑うと、永月も微笑んだ。
「見てくるね」
そう言うと彼は、部屋のドアを開け、廊下の電気をつけて出ていった。
「―――はい。あ、本人起きてきたので、聞いてみましょうか?」
ドアを開けたことで母親の声が2階まで聞こえてくる。
「先生よ。担任の高岡先生」
――――?
担任の教師?
右京は壁時計を見上げた。
時刻は夜中の0時を回ったところだ。
こんな時間に―――何を?
と、
~~~♪~~~♪
今度は右京の携帯電話の着信音が鳴った。
慌てて音を立てないようにドアを閉め、ズボンを探す。
ベッド脇に落ちていたそれを拾うと、右京はポケットから携帯電話を取り出した。
【 諏訪 輝 】
―――諏訪?
「もしもし」
声を潜めて出ると、
『あ、右京。悪いな、こんな時間に』
「―――いや。どうした?」
『教師から電話来たか?』
「電話?」
右京は廊下を振り返った。
「来てないけど、どうした」
『蜂谷がまだ帰っていないらしい』
―――蜂谷が?
思わず息が詰まる。
『まあ、あいつのことだからどこかほっつきまわってるんだとは思うんだけど、親が大騒ぎして。いろんなところに電話かけまわってるらしいんだよな』
「―――そ、そうか」
『あいつの行き場所なんて、知らないだろ?』
諏訪の言葉に右京は記憶を引き戻した。
ーーーーーーーーーーー
『ーーー今日はこれから暇?』
あの時はなんか予定がある風ではなかった。
『ーーー夜は?』
夜も、だ。
ーーーーーーーーーーー
その後あいつは、誰と出会い、どこに行ったんだろう―――。
「――――」
『ま、気にすることでもないとは思うけどさ。お前が変なことに巻き込まれてないか、一応確認』
「―――サンキュ」
『――――』
普通に答えたつもりだったが、電話口の諏訪の空気が変わった。
『ーーお前、変なこと考えんなよ…?』
「なんだよ、変なことって」
言いながら散らばっている服を手繰り寄せる。
『いいから今日は大人しく寝ろ』
「そのつもりだよ」
Tシャツに袖を通し、ハーフパンツを履く。
『―――信じるからな?』
右京はふっと笑いながら、Tシャツに頭を通した。
◆◆◆◆◆
「おまたせ……って、あれ?」
永月は無人になった自分の部屋を見渡した。
窓が開かれ、生暖かい風がカーテンを揺らしている。
「はは。逃げられた……」
笑いながら窓に寄ると、表の道路を右京が走っていくのが見えた。
「ケツにチンコ捩じ込まれた直後なのに、よく走れるなー。痛くないの?」
笑いながら窓枠に肘をかける。
「右京……、君は今から、行方不明になってる蜂谷を探しに行くのかい?」
その後ろ姿に問う。
「でも、忘れないでね。出納帳のこと」
右に曲がるか左に折れるか迷っている青白い顔に囁く。
「正義感の強い君が、彼を許せるとは思えないけど」
永月は窓枠に頬杖をつきながら、クククと笑った。