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第二話
私は煌に連れられて、次の仕事の現場へと向かっていた。足元から響くヒールの音だけが、静かな廊下に反響する。兄が歩くすぐ後ろで、私は彼の背中を見つめながら、どこか緊張している自分を感じていた。
「まのん、お前はここで待て」
煌が不意に立ち止まり、私を振り返る。視線が交わると、私の中に微かな戸惑いが広がった。でも、それを悟られないように私は平静を装う。
「分かった。ここで待ってる」
短く答えると、兄は小さく頷き、再び前を向いた。私はその姿を目で追いながら、心の奥で複雑な感情が渦巻くのを感じていた。強く、冷静で、私のことをすべて包み込むような兄の存在。だけど、私はそれに応えられない自分をどこか冷ややかに見つめている。
「…まのん、怖くはないか?」
予想外の質問に、私は一瞬戸惑った。兄が心配してくれていることはわかっている。でも、私はただ首を横に振った。
「私は大丈夫。兄さんがいれば、怖くないから」
そう言ったものの、本当は不安に駆られることもある。でも、それを口にすることはできない。私が頼れるのは兄しかいないのだという思いが、いつも私を突き動かしていた。
煌が仕事に向かう姿を見送りながら、私は静かに息を吐く。そして、心の中でそっと囁く。
「私が強くなれなければ、兄さんの隣にはいられない…」
それが、私自身への呪いのようにも感じた。