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アルマと手を組むのを止めたため、一人で復讐問題を解決しなければいけない。護身用ナイフをもらったものの、小さな武器だけでは万が一死にそうな場合不十分。もし争いごとになるのなら、武器は必須だと見た。
気分転換に地下三階へ来てみたが、ここには武器庫が存在する。とはいえ、僕は復讐相手を殺すことはできない。殺しかけてしまったが、あれは自分の意志ではなくもう一人の自分が暴走しただけ。二度とあんなことはしないが、脅す程度ならちょうど良い。
牢屋の通路の奥にあるT字路を左折して進むと、とある扉から何やら騒がしい声がした。足を止めて、騒がしい方へ視線を向ける。どうやら一人の男が何か奇声を上げているようだ。気になるが、他の囚人とは関わりたくない。その場をスルーして進むことにした。
「……なんだ、この寒気は」
廊下を歩いていたら、なぜか寒気がしてくる。身も毛もよだつ眼差しを感じて、後ろを振り返っても誰もいない。そういえば、男子更衣室にいた時もこんなことあったような……。
前を向いて歩き始めると、後ろからいきなり首を絞められた。腕が首に巻きつき、息ができない。足が床から離れる。ゼエゼエと呼吸すればする程、息苦しさが増してしまう。
「………………誰……?」
後ろを振り返ることはできず、そのまま頭に血が上り意識が混沌としてきた。このままじゃ死ぬ。なんとかして、立ち向かわなければ。そう思うのに力の違いがありすぎて、抵抗や攻撃も出来ないままその場で力が抜けてしまった。床に顔が直撃した。
どれくらい気を失っていたのだろうか。気がつくと、全く見知らぬ緑色の壁に囲まれた部屋に座っていた。手が後ろで縛られていて、身動きが取れない。口には何も貼られていなかったので、呼吸できる。それよりも不可解なものが目に映る。目の前の壁に復讐相手が貼り付けにされていた。両手と両足に釘が何本か突き刺さり、そこから禍々しい血が流れている。
相手も何が起きているのか分かっていないらしく、喚き散らしてはいるが全く耳に入ることはなかった。なぜならその横に見たこともない男が立っていたから。金髪のパーマヘアに前髪で目を覆い尽くしている、背の曲がった怪しげな男。そいつが僕の首に腕を巻きつけた張本人に違いない。
見た目は弱々しい陰キャの雰囲気だが、目の奥は狂気に満ちてギラギラと光らせていた。
僕は動かない腕を使わずにゆっくり立ち上がると、壁に貼り付けた男の刺さっている脚の釘へ金槌で打ちつけ始める。復讐相手の男は、悲鳴をあげてやめてくれー!と懇願していた。とてもじゃないが見ていられない。
確かに僕はこういうことを望んでいた。しかし母親を殺した恨みは、彼を殺しても尚収まることはない。だから手の込んだ計画を実行し、あいつがたくさん苦しんでから息の根を止めようとした。それなのに、この男が阻止するかのように現れてはもう息の根を止めようとしている。これはまずい……。
どうにかして止めなければ、自分の虫唾が静まらない。腕を何回も動かして、紐を取ろうと試みた。だが、アニメや漫画のようにするりと外れることはなかった。僕はただ復讐もできずに、あいつが死ぬのを見るしかないのか。
「外そうとしても無駄だ。固く締めているんでね」
嫌味っぽく聞こえる声で話しかけてきた。その声が大変イラつき、怒った口調で返す。
「お前、何者だ? どうしてこんなことする?」
「僕はハンス。君のこともアルマのこともずっと観察していたんだよねー。それで僕、思いついちゃったんだ。君が復讐したい相手を僕が殺せば、君は絶望する。そうすれば、君の絶望に怯える顔が見られる……。それだけのためにやってみたのさ」
「なんのためにこんなことするんだよ」
「君さ。アルマと仲が良くなったんだってな。ふざけるな! アルマは僕だけのものだ! 誰にも渡さない!」
「か、勘違いしないでよ! 僕はアルマとはなんの関係もない!」
叫び声を上げた瞬間、僕はハンスの左脚を蹴り上げた。
囚人はいつでもそうだ。自分が正しいと思ったことを平気でする。自分の得する殺人ならするし、暴力を振るうことでアイツらは安心出来る。必ずしも親がいなかったり虐待をされたりしただけでは、普通殺人など犯さない。むしろ後ろ向きになったり孤独になったりするだけで、その曖昧な気持ちを殺人などの犯罪としてぶつかることはしない。ごく一部の人間が暗い未来を見据えて、行動しているにすぎない。
僕にはその思想が分からないし、分かりたくもない。普通に家族がいて、何事もなく平和に暮らして、平穏な日々を過ごして死んでいく。そんな生活がしたかったのに、シリアルキラーに台無しにされた。
僕はあいつらを許さない! 赤の他人の未来を潰しても平然としていられる、社会の塵を排除してやる! 例え自分の命がどうなろうと、僕は僕の意志を貫く。もう他人なんかに頼っていられない。
腕の紐を無理やり千切って、護身用ナイフをポケットから紐を握りしめ取り出す。振ると、小型ナイフが出てきた。銀色に神々しく輝く。