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カンヒュ短編集

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カンヒュ短編集

12 - 監禁された日帝(最終回:Happy end)

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2024年09月01日

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注意!


・これは分岐エンドのハッピーエンドルートです。

まだ第一話・第二話・第三話を読んでいない方はそちらからよろしくお願いします。

・ハッピーエンドなんかいらねぇよ地獄だけみたいよという方はもう少々お待ちください。

・いつもより文章力がおかしくなってます。

グダグダしてる所が多いかもしれません((


・日帝の精神がおかしくなってます。

・死ネタあり。

・多少の暴力表現有り?

・流血注意

・地雷さんはご自衛願います。


では本編GO








目の前で兄弟が悶えている。

アメリカの腕の下で注射を打たれ、その苦しみから必死に逃げようとする。

アメリカの手によって打たれたのは、放射性物質。


━━━…79年前の惨劇を思い出した。


「……っあ…………」


体が無意識に震え、刀を握る手に力が入らない。

足も体も、全部が震え、前は見えている筈なのに状況がうまく呑み込めなかった。

でも、わかったことはただ一つ。

目の前で兄弟を失いかけている事だけだった。


「空、海」


ポツリと声が零れる。

兄弟に向かって一歩、歩みを進めた時だった。











『日帝』











突然、支給されていたトランシーバーに通信が入った。

雑音交じりでも、その声を俺が聞き間違えるわけが無い。

歩みが止まった。


「…せん、ぱい」


俺の敬愛する、先輩ナチスだった。


『日帝、それはアメリカの罠だ。

おそらく、お前の目の前に居る空と海も偽物だ。

どちらも斬ってしまえ、それで全部終わる』


淡々と先輩の声が流れる。

ドクドクと心臓の鼓動がうるさい。

思い出されるのは、暴力と怒鳴り声と嬌声が聞こえる『躾け』という名の時間。


(━━━…怖い)


ドクンと心臓が鳴る。

目の前で命の灯を消しかけている弟たちと、痛めつけられて教えられた過去。

このまま弟たちを無視するか、それとも先輩たちに逆らうか。

まるで目の前に大きな天秤があるようだった。


「日帝」


ピク、と体が反応した。

声の主はアメリカだった。


「…放射能を打ち消す作用のある物質を今こいつらに打てば助かる。

日帝、こちらへ“戻って来い”」

「…ぁ……」

『待て、日帝。それは行くな。

おそらく相手はお前を殺すつもりだ、全員斬り殺せ。

“昔のお前”ならやれた筈だろう』

「…ッ…………」


天秤にかけられる、己の命と弟たちの命。


幻覚の様にふわりと広がる、あの日原爆の光景。

全身に大怪我を負った弟たちの姿と、俺だけがあの劫火の地獄の中に立っていたのが鮮明に思い出される。

しかし、その反面で俺が受けた数々の暴力と辱めも思い出される。

暗い場所に閉じ込められ、イタ王や先輩に好きなようにいじめられ、泣かされ、そして甘やかしてもらった。


『黙れアメリカ、それ以上日帝を外道の道へとかどわかすな!!

日帝は枢軸国だ!!』

「黙るのはお前だナチス!!日帝は今はもう“日本国陸上自衛隊”だ!!

日帝は79年前に戦争と原爆の恐ろしさを知り、戦後は日本国の為に身を粉にして必死に尽くしてきた!!

俺は、“陸”の頑張りをずっとずっと見てきた!!

今更戦争の道をたどって、日帝が心から喜ぶと思うのか!!」


目の前のアメリカとトランシーバー越しの先輩が言い争っている。

俺は、動けない。


首に、まるで首輪が付けられているように呼吸が苦しい。

腕も足も、重りが付けられているように動かない。

声を出そうとしても、さるぐつわをされているみたいに声が出ない。


「せん、ぱ……

…………あめ、りか…」


必死に声を絞り出しても、どうするのが正解なのかなんてわからない。

どちらの選択肢をとっても、俺が延々と恐怖を持ち続けるのには変わりない。


…ならば、俺がとる行動は一つだけ。


目に見えない首輪に、俺は手をかけた。























「ごめんなさい、先輩」












その一言で、一気に体が軽くなる気がした。


『待て日帝ッ、そっちに行くな!!今行けばどうなるかわかっているのか!?』

「勿論わかってますよ!!

でも、俺にとっては目の前で弟たちを失う方が怖い!!」


先輩はまだ何かを言いかけていたが、俺は━━━…

いや、『私』はトランシーバーの電源を切って通信を絶った。

アメリカの方へと走り寄り、アメリカを押しのけて弟たちの呼吸を確認する。


「空ッ、海ッ!!しっかりしろ!!!」


首筋に手を当てる。脈拍は正常だった。

規則正しく、緩い呼吸を繰り返す弟たちの姿にほんの少しばかり安堵の息が漏れる。

だが、打ち込まれた放射能物質の存在を思い出して一気に血の気が引く。


「あっ、アメリカッ!!

こいつらを助けてくれ…ッ!!」


そう懇願したが、アメリカは首を振った。

私はアメリカの胸ぐらにつかみかかった。


「なぜだ米帝ッ!!!

私が戻れば、助けてくれると言ったではないか!!!」

「あー、まぁまぁ、落ち着けって日帝…いや、“陸”。

こいつらに放射能を打ち消す注射は要らねぇんだってば」

「はぁ!?どういうことだ!?」


顔をぐっと近づけて睨むと、アメリカはへらっと笑った。




「だってこいつらに打ったの、鎮静剤と栄養剤だし」




「……はぁ?」


アメリカが懐から余った注射針を取り出した。

その中に揺れる液体。


「こっちのオレンジがかってるやつが栄養剤。

で、こっちの青いやつが鎮静剤だ」

「じゃ、じゃあこいつらは…」

「嗚呼、ただ健康になっただけだ」


へなへなと床に座り込んでしまった。


「は……ぇ………」


全身から力が抜け、呆然と座り込む。

目の前では空が━━━…すやすやと眠っていた。


「てかおい、海、起きろ。いつまで狸寝入りしてんだ」

「ちぇっ……もうちょっと寝れそうだったのに邪魔しないでよアメリカ」


ぺちぺちとアメリカが海の頬を叩くと、海はムッとした顔で起き上がった。

顔色も良く、本当に体に何も無いらしい。

空は本当に眠っているらしかったが…おそらく、空だけが演技にリアリティを出すためにあえて何も知らされていなかったのだろう。

安堵で涙が出そうだった。


「これ、最初から全部演技だったんだよ。

そっちの作戦は全部わかってたから、こうしてお前を正気に戻すために作戦立てて…

演技とはいえ、お前の大切な家族を人質にとるような真似して…悪かったな」


アメリカが申し訳なさそうに頭を下げた。


「大丈夫…だが…

でも、作戦がバレてた?一体、どこから…」

「それは僕がアメリカに全部情報を流してたからだよ」


アメリカと私の会話の中に、涼やかな声が突如聞こえた。

振り向けば、見覚えのある青と白のニット帽。


「フィンランド…」

「やぁ、日帝…いや、陸。

僕ね、実はG7側のスパイやってたんだよね」

「スパイッ!?」


作戦通りなら今は北欧を攻めている筈のフィンランドが颯爽とスナイパーライフルを肩に背負って現れ、にこにこしながら話し出した。


「最初に枢軸に誘われたとき、G7側にこう言ったんだよ。

『作戦の情報を全て流すから、陸を助けてくれ』…ってね。

陸が洗脳されてる所はその時点でもう知ってたし」

「じゃあ、初めから全部…」

「そういうこと」


フィンランドはコートの中に手を突っ込み、盗聴器と思しきものを取り出してひらひらと振った。


「…じゃ、じゃあソ連を枢軸に引き入れるっていうのも…」

「全部筒抜けだったな」

「ってことは、ソ連も…じつは…」

「嗚呼、そうだ。ソ連も根っこはG7側に今回は立ってもらってる」


ただひたすらに驚愕するばかりだった。

フィンランドも、ソ連も…まさか全員G7側だったとは……



「…陸さん」


呆然としている私に、端に立っていた日本が話しかけてきた。


「日本……」

「………」


日本の手が私に伸びる。

『ぶたれる』

そう覚悟して目をつぶったのだが。


「…?」


いつまで経っても衝撃が来ない。

日本を見上げれば、日本は私の頭にそっと手を置いて撫でていた。


そして、笑顔で一言こう言った。








「おかえりなさい、陸さん」








そういう日本に、私は笑顔を返した。








「ただいま、“祖国様”」













私の洗脳も解け、ソ連もフィンランドもG7側へと正式に戻った。

つまり、今の枢軸はイタ王と先輩のみ。

その2国で強国相手に勝てるわけもなく━━━…

イタ王は、フランスやイギリスに捕まり。

先輩は、ソ連に惨敗して捕まった。



そして、わずか数日で第三次世界大戦は終結した。


枢軸国側の惨敗だった。


G7側へと一気に3人も行ってしまったことが主な敗因だった。








終結から2か月後。


「こんにちは、先輩、イタ王」

「やぁ日帝!調子はどうなんね?」

「すこぶる良いぞ。イタ王はどうだ?」

「ioもばっちり!!…って言いたいところなんだけど、ピッツァもパスタも最近食べられてないから満たされてないんね」


へら、と元気なさそうにイタ王が笑った。

私は後ろのカートに載せていた皿をイタ王に出した。


「そう言うと思って、持ってきたぞ。

明太子パスタで申し訳ないがな」

「えっ、パスタ!?食べていいの日帝!?」

「嗚呼、当然だ。ピッツァもあとで持ってくるな」

「わーい!!ありがとうなんねー!!」


久しぶりのパスタを前にはしゃぐイタ王を横目に、私は壁にもたれかかって本を読む先輩の方を向いた。


「こんにちは、先輩。

お加減はどうですか」

「…ふふ、日帝か。

道理でイタ王がはしゃぐわけだ」


先輩も微笑みを浮かべて私を見上げた。


「ここでの生活も悪くないぞ。

冷暖房完備、ご飯も美味しい。風呂やトイレといった公共施設も綺麗だし、何より看守も良い人ばかりだ。

第二次世界大戦後の収容施設とは全く違うな」

「それは良かったです。

まぁあの施設は激戦の終結後すぐ出来た臨時の施設ですし、物資も食料も何もかも不足してましたからね」


…そう。

今私が居るのは、戦争犯罪者が収容される専用の刑務所…の、牢屋の前。

留置所としての役割も果たす、世界で最高峰レベルの刑務所だった。

この間裁判が最速で終わったイタ王と先輩は、そこに戦犯として収容された。


「先輩にも持ってきましたよ。

忘れ物です」

「…嗚呼、懐かしいな」


私は先輩に、ハーケンクロイツが彫られた小さなバッジを渡した。


「戦場跡に落ちてました。

これ、先輩の物ですよね?」

「嗚呼、そうだ。

どこかで落としたなとは思っていたが…まさかこういう形で戻ってくるとはな」

「裁判の時、先輩の襟に無いなって思って必死に探しましたよ。

…傷は入ってましたが、綺麗な状態で見つかって良かったです」

「ありがとう、日帝。

これで心置きなく逝ける」

「“まだ”それを言うのはちょっと早いですよ、先輩」


先輩も私も顔を見合わせて笑った。


「先輩、最後に食べたい物。

本当にこれで良かったんですか?」

「嗚呼、これが食べたかったんだ。

最近口にできていなくてな」


イタ王と同じように、後ろに控えさせていたカートから食事を持ってほんの少し扉を開け、お盆を渡す。

先輩は嬉しそうな顔をして受け取った。


「そう、これこれ。野菜スープとマッシュポテト」


嬉々として手を合わせて食べ始める先輩に、思わずフッと笑い声が漏れる。


「ん?なんだ日帝、何かおかしかったか?」

「いえ、そういうわけでは…ただ、本当にあなたは変わらないなと思いまして」

「最期まで変わらず過ごす。それが今の俺のモットーだ。

死ぬ前に慌てていたら未練があるとみなされて恰好が付かないだろう」


どこまでいっても、先輩は先輩のままだ。

私は不意に笑顔を浮かべた。








先輩とイタ王と共に、私は牢屋の外にあぐらをかいておにぎりを頬張る。

昔、二人が私のために作ってくれた鮭と昆布の2つのおにぎり。その時の味を再現できるように、必死に朝からご飯を握った。

そうして、食事を食べ終わって、たくさんたくさん色んなことを話した。

戦時中の事、過去の笑い話。ほかの国と話したことや、自分が枢軸の他の仲間と出会うまで何をしていたか。


イタ王は相変わらず昔からピッツァとパスタが大好きでよく作っていたらしく、先輩はなんと画家になりたくて絵を沢山描いていたんだとか。試しに白紙の紙と鉛筆を渡してみればそれはそれは見事なイタ王の肖像画をさっと描いてみせた。


たくさんたくさん話して、2時間はあっという間に過ぎていった。



「イタリア王国、ナチス・ドイツ。

時間です、出なさい」


看守が呼ぶ声がした。


「もうそろそろ、か」

「楽しい時間はあっという間なんね~」


扉が開けられ、二人は牢の外へと出た。


「日帝さん…いえ、陸さんはこちらへ」

「わかりました。先輩、イタ王、また後で」

「うん!またあとでなんね~!」

「またあとで、日帝」


私だけは違う場所へと看守に連れられて、先輩とイタ王は同じ場所へと看守に連れられ歩いて行った。








歩いて歩いて、着いた場所はグレーの寂しい場所。

その真ん中に、二人が座っていた。


「どうぞ、陸さん」

「…ありがとう」


看守から手渡される、拳銃。

掌の中でそれは黒く光り、重い感触が掌に収まる。

イタ王が笑った。


「おーっ、日帝!

銃似合うんね!」

「やめろってばイタ王、私はもう拳銃など持ちたくないのだ」

「イタ王。日帝は今はもう陸上自衛隊だ、銃なんて物騒なものは持ちたくないだろう」

「それもそうかぁ…」


私は拳銃をぎゅっと握りしめる。

これから行われるのは、


二人の処刑だ。


イタ王と先輩の強い要望により、元は絞首刑による死刑だったのが私が直接手を下す形になった。

勿論これは罪には問われない。



「……先輩、イタ王。

今ならまだ、絞首刑にでも電気椅子にでも薬物処刑にでも切り替えられます。

…本当に、私に撃たれて良いんですか」


私は二人に、最後の確認として尋ねた。

二人はきょとんとした顔を見合わせ、そしておかしそうにくすくすと笑った。


「何を言ってるんだ、“陸”。

最期まで友人だった奴になら殺されても良いと、死刑判決の時に言っただろう?」

「ioもナチと一緒なんね。

“陸”になら、喜んで殺されたいかな」


後ろ手に手を縛られ、自らの意思で先輩たちはわざと目隠しをつけないままでいる。

最期に見る顔は、私でありたいのだと。


「…ちょっと、処刑時刻まで時間がありますから。

最期に手紙読ませてくださいよ」

「え、陸からの手紙!?珍しい!!

公式文書くらいでしか陸の文章読めなかったのに!!」

「まさか俺たちに宛てて…か?」

「そりゃ勿論。…じゃ、読む」


それから私は、二人に宛てての手紙を読んだ。

勿論内容は二人しか知らない。

看守たちも、その時ばかりは下がっていてもらった。

ここで手紙の内容を明かすのは…ちょっと気恥ずかしいから辞めておこう。


読み終わったとき、二人は笑顔と泣き顔の間に居た。


「…あのさぁ、死ぬ前にそれ聞かされたら死ぬに死ねないじゃないかぁ……」

「…最期まで罪な奴だな、日帝は……」


私は笑った。

そして、拳銃をしっかりと握り直す。


「看守さん。もう、良いのか」

『はい、陸さんの好きなタイミングでお願いします』


看守からの放送を聞き、私はしっかりと二人に向き直った。


「…じゃあ、もう…」

「あ、ちょっと待って日帝」


ん?と聞き返すと、近くに来るように促された。

そして、屈めと言われたので屈むと。


「手は出せないから、こうするしかないんだけどさ」


イタ王が私に体をもたれさせた。

抱擁のつもりだろうか。


「こうして日帝に抱き着けるのも最期なんね。

悔いの無い様にしておきたい」


そして、左頬にキスを落とす。

イタ王は笑った。

私は軽く赤面した。


「じゃ、俺も良いか日帝」

「えぇ、構いませんよ」


顔を寄せるように指示されたので、顔を寄せると。


「まぁ最期だから許せ」


そう言われて、右頬にキスをされる。

海外だとキスの文化は根強いようで、日本生まれ日本育ちの私は流石に恥ずかしくて俯いた。


「ふは、なんか面白いな日帝」

「笑わないでくださいよ先輩!!

イタ王も笑うな!!」

「だって、しゃ、シャイすぎて面白いんね…!!」



あー、だめだ…この二人と一緒に居ると、なんだか緊張していた気持ちが一気にほぐれるな。

…でも、世界は残酷だった。



「…さて、日帝。俺はもう十分楽しんだ。いつでも良いぞ。イタ王はどうだ?」

「ioも十分楽しんだんね。最期にこうやって日帝とナチとバカみたいな話で笑えて、良かった。

イタリアにも、国としてやっていくうえでの最低限の事は全部教えてあるし…これからのイタリアも安泰なんね」


二人は笑った。


「「いつでも撃て」」


声を合わせて、言われた。

私は、まず…ナチに照準を合わせた。

決して苦しまぬ様、銃で撃つ上での弱点にしっかりと狙いを定める。


「先輩…何か、私に最期に言っておきたいことはありますか」

「あー…そうだな…じゃあ、言い終わったらすぐ撃ってくれよ?」

「…わかりました」


先輩が、表情を緩ませて笑顔を浮かべた。


「日帝」











「愛しているぞ、日帝。

今までも、これからも、ずっと」











先輩に言われた通り、私は撃った。

弾丸は脳を貫通し、背後の壁に赤い花を咲かせる。

即死だった。



次は、イタ王。

照準をしっかりと合わせる。

イタ王は隣で親友が死んだというのに、優しい笑顔を浮かべていた。


「イタ王、最期に伝えておきたいことはあるか」

「んー……じゃあ、2つだけ。

一つはioの息子のイタリアに、『これからも見守ってるよ』って伝えて」

「わかった。もう一つは?」

「これは、日帝に。ioもナチみたいに、言い終わったらすぐ撃ってくれる?」

「…嗚呼、わかった」


イタ王も、私の目をまっすぐに見て笑顔で言った。











「日帝、これからもずっとずっと愛しているんね」











一発。

背後にもう一輪、血の花が咲いた。

しんと、処刑場が静まり返る。


(……終わった)


二人の死に顔を、私はしっかりと見た。

二人は、口元に笑顔を浮かべ、肩を寄せ合って笑っていた。



拳銃を置き、私は二人に近づいた。

そして、二人の頭を撫でた。











「私も、今までも、これから先もずっと…

愛している」
















二人の葬式は一緒に行われた。

生前彼らが書いていた遺書にのっとり、葬式は順調に進んだ。


「…父さん…」

「父上……」


そうやって棺の前で呆然と立ち尽くすイタリアとドイツに、私はなんと声を掛ければいいのかわからなかった。

処刑だとはいえ、私が二人を殺した。

その事実は変わらないのだから。


でも、流石に何もしない訳にはいかない。


「…イタリア、ドイツ。お茶でもどうだ」

「…あ、日帝さん…ありがとうございます」


ドイツが赤く腫らした目で私を見た。


「…あの、日帝さん」


いつものカジュアルな服装からは考えられない、きっちりとした喪服に身を包んだイタリアが話しかけてきた。


「ありがとうございました。えと、その…父さんの、事なんですけど…」


頭を下げられた。


「…え?」

「看守さんたちに聞きました。

io……ううん、僕の父上もドイツの父さんも…二人とも、死に顔が笑っていたって」


棺の中でも笑ってますし、とイタリアは棺の方に目を向けた。


「僕は、日帝さんとナチスさんと父上が一体どういう関係で、どういう会話をしていたのかなんてまったくわかりません。

…でも、僕は日帝さんに最期を見送ってもらって…きっと幸せだったと、思うのです」

「…俺も、イタリアと同じ気持ちです」


本当にありがとうございました、と。

二人は頭を下げた。



「…辞めてくれ、」


出した声は、震えていた。


「あいつらの本当の最期は、笑って見送りたいんだ」


涙が頬を伝った。








通夜式と葬式の後は、しっかりと丁重に火葬された。

私も一緒に、と言われたので二人分お骨上げを行い、丁寧に骨壺に入れられた。

私は宣言通り、二人の前では決して泣かなかった。








そんなこともあり、あっという間に四十九日。

今日、二人のお骨は墓へと入れられる。


先輩は、先代のプロイセンさんたちが眠る墓へ。

イタ王も同じく、先代たちが眠る墓へと埋葬された。


埋葬後、私は花を供えて手を合わせる。

きっと今も、見守ってくれていると信じて。









━━━━…それから、数年後。

手を合わせて目をつむると、あの日の光景が蘇ってくる。

二人は戦争犯罪人で、決してしてはならない大罪を犯した。


けれど、私が過ごした枢軸としてのあの時間は、紛れもない宝物だった。




「…先輩、イタ王、今日も元気そうで良かった」


花瓶に生けた百合の花を撫でると、ふわりと風に揺れる。

なんとなく、私の傍に二人が居るような気がした。



「……ん?」


ポケットで携帯が振動した。

メールか…


「…嗚呼、アメリカから」


メールの内容は、

『緊急で会議があるんだが来れるか?』

とのこと。

『行けるぞ』、と返信して携帯を閉じた。



目の前にある、二つの墓をじっと見つめる。

優しい面影が、残っていた。


「じゃあ、また来るから…

いつまでも見守っててくれ」


“この世界の、行く末を”





墓に背を向け、歩きだす。

春風で紫紺の隊服の裾が風を孕み、ふわりと膨らむ。

向かい風で、墓地に植えられた桜の木が一斉に花びらを散らして私の体へと降り注ぐ。


『頑張れ』という、二人の声が聞こえた気がした。










私は進むのだ。


親友を失い、途方に暮れようとも


いつかまた、あちらで出会えるその時に


胸を張って、笑顔で再会出来る様に。






end







というわけで、ハッピーエンドでした…!

結果的に、日帝…いえ、陸が一歩前へと進める最後になったんじゃないかなと思います!


バッドエンドはまだ手を付けられていないのでこれから頑張って書きます…(笑)


ではまた次回!

この作品はいかがでしたか?

1,156

コメント

68

ユーザー

イタ王もナチスも酷いことをしてたけれど、2人の最期の様子に何か気持ちとか涙とかが凄くこみ上げてきました。こちらまで寂しくなるような何とも言えない気持ちだけどそれでいて雨後のような読後感です。神作品をありがとうございます。長文失礼しました。

ユーザー

日帝が騙されてるのカワヨイが弟思いなのもまたいい

ユーザー

神作をありがとうございました  もう色々設定とかこってるし、文脈?表現?形みたいなのも凄く良かったと思うし、優しい日帝さんとか ちゃんと幸せがあった枢軸とかその三人組の儚いシーンもとか  アメさん信じてましたよぉッ❗空&海君もぉっ❗  自分、バットエンド苦手なのでそちらの方は観ませんが、読んでてとても感情揺さぶられましたっ❗とても面白かったです❗ ありがとうございました❗ 長文失礼いたしました。

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