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宿の屋根の上に佇み、レイス・ワイルは月を見上げていた。血塗られた戦いの残響がまだ身体に残っている。
「……お前たちとはここでお別れだ。」
宿の部屋の中で傷の手当てをしていたまどかたちが、その言葉に反応する。
「は? 何言ってんのよ、レイス。」まどかが剣を収めながら顔をしかめた。「ここまで来て、何を今さら──」
「俺は”放浪者”だ。」レイスは静かに言った。「誰の味方でもなく、どこにも属さない。……それが俺の生き方だ。」
「……」
誰もすぐに言葉を返せなかった。
レイスが一人で生きてきたことは、戦いの中で誰もが理解していた。その戦闘の勘、躊躇なく敵を屠る冷徹さ──それは、誰かと共に歩むためのものではなかった。
「レイス、君は……王国に追われるだけでいいの?」萌香が不安そうに言う。「もしまた襲われたら──」
「そんなことはどうでもいい。」レイスは目を伏せる。「誰も俺を守る必要はないし、俺も誰かを守る理由はない。」
「……」
サブが苦笑しながら腕を組む。「冷たいことを言うじゃねぇか。さっきまで俺らと一緒に死にそうな戦いしてたくせに。」
「それでも、俺はここに留まらない。」レイスは言い切った。「お前たちはお前たちの道を行け。俺は、俺の道を行く。」
そう言って、レイスは屋根から飛び降りた。
「待って!」まどかが思わず追いかけようとするが、みりんがそれを止めた。
「……行かせてあげようや。」みりんは静かに言った。「彼が決めたことやねん。」
まどかは唇を噛んだが、何も言えなかった。
レイス・ワイルは、闇の中へと消えていった。
彼は放浪者。
ただ、道なき道を歩き続ける者だった。