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「桜も見飽きたな」
この言葉を呟いたのは、何回目なんだろうか。
………私は、狐…いや、“悪魔”と歪な契約をしたときから、世界が変わってしまった。
最初は周りの人全員が驚いていたが、それ以降、馴染んできたのか“春”に対して何の疑問も持たなかった。
自分が腰を掛けていた小さいベンチに、桜吹雪が押し寄せてきた。
「うわ、っ!」
確か今日は風が強い予報だった気がする。まさかこんなことになるなんて………
「あ…キーホルダー!」
鞄に付けていたキーホルダーが風でゆらゆら飛んでいった。
早くしないと、と思い。私はキーホルダーの元へと走った。
そのキーホルダーは、“狐”に“桜”が付いていた。
「なんとか回収したけど………まぁまぁ遠いところ来ちまったな」
なんとなく右へ行きたくなったので、進んでいく。
時刻はすでに午後4時を回っていた。
道なりに進むと、そこには黒髪の誰かが立っていた。
風によって髪がなびき、まるでアニメのように感じたが、そんなことはどうでもよい。
「……あの……」
私は勇気を振り絞って声を掛けた。
「なぜ、この世界には“存在しないはず”なのに……」
「……………“紅葉”を持っているのですか?」
「………」
沈黙。これがずっと続くんじゃないか、と不安にもなってくる。
「……貴方は、“風狐”様が仰っていた」
「“八崎心那”さんですね」
「……は、」
何故、私の名前を?……
何故、あの悪魔の名前を?
「私は神籤瑞瑠」
「…“秋世界”からの者です。」
第一章:【春世界】