「――あ」
3人同時にそう呟いた。
『おっと。自然にしていてくれよ。この声は、諸君以外は聞こえない』
実験初日、謎の声が言ったセリフが脳裏に蘇る。
『もし一般生徒にバレたら――その時点で君たちの命は消える』
「え、なんで……」
パンッ。
「だって見張りはアイツが……」
パンッ。
ほぼ同時に、何かがはじける音がした。
その瞬間、青木の頭を掴んでいた桃瀬の手も、
青木に突っ込んでいた黒崎の指も、
力を失い、代わりに二体が青木の身体に覆いかぶさった。
「……わ……わあああああっ!!」
後ろに立っていた男子生徒は、悲鳴を上げながら生物室を駆け出して行った。
「……桃瀬……!?」
やっとのことで這い出した青木は、桃瀬を見下ろした。
彼は茶原の時と同様、首の後ろに穴を開けて、ぴくぴくと痙攣していた。
「……黒崎……!」
今度は黒崎を振り返る。
グレーの髪の毛を首から吹き出した血液で真っ赤に染めた彼の方は、すでにもう意識がないらしく、うつ伏せに倒れたまま動かない。
「……くろ……さ……」
桃瀬の血が付着した真っ赤な手が、宙をさ迷う。
「…………」
青木はその手を引くと、黒崎の頭に乗せてやった。
「……き………」
桃瀬は黒崎の頭を撫でると、安心したようにそのまま動かなくなった。
「――――」
青木はやっとのことで立ち上がると、二体の死体を見下ろした。
(……ジャッジと関係なく殺された。他の一般生徒に見られたから……?)
青木は目を見開いた。
(てかこれまさか、俺も同罪になるんじゃねえの!?)
慌てて首元を押さえる。
「……お前は大丈夫だよ」
そのとき背後から声がした。
「行為を見られたことじゃなくて、実験とか死刑のことを一般生徒に聞かれたってのが問題だから」
振り返るとそこには、扉を足で開け放った赤羽が立っていた。
「あ……赤羽……?なんで……?」
青木があんぐりと口を開けていると、彼を突き飛ばすように6人の男たちが入ってきた。
二人一組になり桃瀬と黒崎をそれぞれ担架に乗せると、青いシートを掛け運び出していく。
さらに残った2人がモップとバケツで飛び散った肉片や血痕をあっという間に消し去り、生物室はわずかな鉄分の匂いを残して、何事もなかったかのように静まり返った。
「…………」
遠ざかる足音を聞きながら、青木は小さくため息をついた。
桃瀬と黒崎。
行きつく先が天国でも地獄だとしても、
二人一緒に逝けただろうか。
「――――」
廊下で彼らの去って行った先を見ていた赤羽がこちらを振り返る。
「青木……俺は……」
何かを言おうとした瞬間、
――――ドクン。
また熱の波が青木の身体を襲った。
「あ……ア゛………」
青木はそのまま膝をついて前に倒れ込んだ。
「――おい。なんか薬でも盛られたのか?」
赤羽の声が近づいてくる。
……わからない。
声にして言えたのかはわからなかった。
身体が――腰が――意思とは関係なくカクカクと動いてしまう。
赤羽が敵だとしても、
他の死刑囚と同じく、青木のことを恨んでいるとしても、
彼にはこんな姿は見られたくない。
「見る……な……!」
やっとのことでそう言ったときには、こめかみから流れた汗が顎から床に落ちていた。
「……くっ……うッ……!」
自分の心臓の音が耳元で煩い。
身体が燃える。
このままじゃ――焼け死ぬ……!
「……ッ!?」
そのとき、後ろから誰かが青木を抱きしめた。
慌てて振り返ると、廊下から漏れる光で赤い髪の毛がかろうじて見えた。
「おい……!」
「いいから黙ってろ。苦しいんだろ」
赤羽の手が腰から股間に回る。
散々黒崎に貪られたソレは痛いほどに反応していた。
黒崎の手よりも硬く熱い掌が、青木のソレを包む。
「……いや……嫌だ……!」
「そうかよ」
「離せ……!」
「はいはい」
強めに握られ上下に擦られる。
「あ……ぁあッ……」
(なんだこれ……!黒崎の時には感じなかったのに……)
青木は打ち寄せる快感の波に思わず顎を上げた。
「……はは。気持ちいかよ」
赤羽がだらしなく開いた青木の唇に指を突っ込む。
桃瀬の時には感じなかった満足感がある。
もっと。
もっと奥まで突っ込んでほしい。
「……ンッ……んん……んっ……んッ……」
青木は赤羽の指を、まるで赤ん坊が母親の乳房を吸引するように吸った。
喉が嚥下を繰り返す。
「いいこだ……。そのまま素直に感じてろ」
もっと。
もっと欲しい。
もっともっと赤羽が――。
「――いいぜ。イけよ」
赤羽の低い声が耳元で響いた瞬間、
「は……あッ………あ……!」
青木は果てた。
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