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「この野郎……!!」
多川は学ランのボタンに手を掛けた途端に顎を上げて、噛みつこうとしてきた右京の髪の毛を掴み上げた。
「それ以上触ったら、舌を噛み切って死んでやる!!」
「―――だれか、そいつに猿轡噛ませろよ……!」
多川が言うとすかさず右京が叫んだ。
「それなら声の限り叫んで、喉を潰してやる……!」
「……なんだと、このガキ!!」
多川は鼻の両脇の神経をピクピクと痙攣させながら右京を睨んだ。
「そんなに殺されてぇか?ああ!?」
言いながらむしり取るように髪の毛を引き上げる。
苦痛に顔を歪ませた右京が、多川の顔に唾を吐いた。
「お前みたいな蛆虫にヤラれるなら、死んだ方がマシだ!!」
「―――この野郎……!」
多川が拳を握ると、タツが笑った。
「多川さん。クールダウンしましょ?」
「―――?」
多川が彼を振り返る。
「奈良崎さんに渡すまで、こいつに死んでもらっては困る。傷物になってもらっても困る。じゃあ、どうすればいいと思います?」
多川は不服そうに肩で息を繰り返した。
「抵抗できないようにするにはどうしたらいいか考えなきゃ」
「どういうことだ……」
タツは楽しそうに笑った。
「簡単すよ。こいつのばあさん、連れてきましょ?」
「――――!」
右京の目つきが変わる。
「祖母さんに危害を加えるとでも言えば、こいつも大人しくなるでしょ」
「なるほどな……」
多川は投げ捨てるように右京の頭を離した。
「―――やめろよ……!」
右京が頭だけを上げて多川を睨む。
「祖母ちゃんは関係ねぇだろ!」
多川は笑った。
「連れて来い」
「だから、止めろって!!」
右京の声が用具室に反響する。
「―――じゃあ」
多川は笑いながら立ち上がると、カチャカチャと自分のベルトを緩め始めた。
「どうすればいいか、わかってるだろうな……?右京ちゃん?」
脇にいた男が右京の身体を起こし、その目の前にどす黒い多川のソレが差し出される。
「…………!」
本能的に顔を逸らそうとするが多川の手でぐいと下顎を掴まれる。
頬のくぼみに親指と人差し指を突き刺す様に入れられ、痛みに口が開いてしまう。
そこに多川の先端が宛がわれた。
「――――多川さん!」
と、そこに若くて華奢な男が入ってきた。
「なんだ」
多川が右京への力を緩めないまま男を振り返る。
「蜂谷が来ました」
「――――!!」
右京は大きな目をさらに見開かれた。
その反応を見て多川が笑う。
「一人か?」
「一人です」
「サツの気配は?」
「ないです。今のところ」
「いいねえ。連れてこい」
男は踵を返すと、廊下をホールを走っていった。
「……王子様の登場かあ?」
その白い頬に自分のソレをペチペチと打ち付けてから、パンツの中に収めると、多川はベルトを締めなおした。
取り巻きの男たちが軽く袖をまくり、臨戦態勢に入る。
その動作を見てから右京は多川に視線を戻した。
「蜂谷には手を出すな……!それこそ関係ないだろ…!!」
「お前の―――」
言いながら多川が右京の脇にしゃがみこむ。
「祖母さんを拉致する手間が省けたな」
「―――」
右京は眉間に皺を寄せて、多川を睨んだ。
「蜂谷に手を出されたくなかったら、舌を噛み切らず、喉を潰すことなく、ただ従順に。俺の言うことを聞けよ?右京ちゃん?」
そう言うと多川は笑いながら右京の学ランのボタンを一つ一つ外していった。
◇◇◇◇◇
通されたホールはおおよそ保育園を改築したとは思えない豪華な作りだった。
『奈良崎さん お勤めご苦労様でした』の横断幕と、会場をぐるっと囲む紅白幕が、目に痛い。
走っているときは平気だったのに、今さら汗が噴き出してくる。
顎を伝う汗を手の甲で拭いながら、若い男の案内に従ってホールに足を進めると、男は50㎝程開いた用具室の前で止まった。
中は暗くて見えないが、何人かの男がいることはわかる。
「……連れてきました」
「入れ」
多川の声がする。
グググと心臓が締まる。
右京は無事なのか。
生きているのか。
もし無事じゃなく生きてさえいなかったら―――。
全身の毛が逆立つ感触を覚えた。
―――俺がこいつらを殺してやる。
蜂谷が放った殺気を感じたのか、案内した男がギョッとしながらこちらを振り返る。
蜂谷はその華奢な男を突き飛ばすと、用具室の中に足を踏み入れた。
「………蜂谷」
そこにはどこの制服かわからないが、この暑いのに学ランを着せられた右京が後ろ手と足首を拘束されながら四つん這いでこちらを見上げていた。
口角に傷はない。頬に腫れもない。
何もされてない。
きっとたぶんおそらく。
「よう。蜂谷」
その横で多川が右京の学ランの一番下のボタンを外し、中の黒いTシャツが露になった。
「……どうした?呼んでねえぞ?」
言いながら多川は右京の背中に跨ると、そのTシャツとインナーを一気に鎖骨まで捲り上げた。
白い腹が露になると、周りの取り巻きがヒューと口笛を鳴らした。
「……そいつを、離せよ……!」
湧き上がる怒りを抑えながら、静かにそう言うと多川は嘗めるような視線でこちらを見つめた。
「悪いがこいつは、本日出所される奈良崎さんへのギフトだ。離すことはできない」
「そいつは“赤い悪魔”じゃねえぞ……?」
「ほう」
多川は笑いながら蜂谷を睨んだ。
「こいつは、今年の1月に転校してきたんだ。それまでは山形県だ。赤い悪魔が暴れまわったのは去年だろ」
「―――」
多川は右京の顎を掴み上げて笑った。
「赤い悪魔にボコられたやつらに話を聞いたんだ」
「――――?」
「きつい東北弁だったそうだ」
「………」
蜂谷は右京を見下ろした。
右京も困惑しながらこちらを見つめている。
その頭が僅かに左右に振れる。
『普段はブチ切れたときにしか訛り出ないんだけど……』
いつかこいつが言った言葉を思い出す。
――助けたのは、諏訪の弟だけじゃないのか?
本当に宮丘の危険な奴らを片っ端から―――?
「まあ、どっちにしろ……」
多川は口の端を吊り上げて笑った。
「奈良崎さんに確認してもらったらはっきりする。あの人は死んでもその顔を忘れないから」
「……もし赤い悪魔が本当にこいつだったとして……」
蜂谷は視線を右京から多川に戻した。
「―――こいつを、殺すつもりか?」
睨み上げる蜂谷に多川は笑った。
「全ては奈良崎さんの判断次第だ。俺がどうこう言うもんじゃない」
「――――」
「でもできれば贈り物は、五体満足、綺麗なままで手渡したいから」
多川の目配せでそばにいた2人の男が蜂谷を脇から軽く掴んだ。
「協力してくれるか?蜂谷」
左右の男の手によってワイシャツが惹かれ、右京のボタンが弾け飛んだ。
ぐいと首を押さえつけられ、そのまま突き出した臀部に手が這い、指がベルトに到達する。
「止めろ!!」
多川に押さえつけられている右京が手を振り払って暴れるが、両足首も縛られているため、その身体はマットレスの上に転がった。
多川が笑いながら立ち上がり、右京の脇を抜けると、今度は蜂谷の頭を鷲掴みにする。
「お前、綺麗な顔してるよな……」
ぐいと上げ、顎を掴むように抑えると、その口に舌を這わせる。
「ぐッ……!」
歪んだ蜂谷の唇を嘗め上げると、そこに色の悪い舌を挿入させた。
「んん…ッ!」
嫌悪感のためきつく閉じられた蜂谷の目尻に深く皺が寄る。
しかし多川は首を捻って逃げようとするその後頭部をますます強く掴み上げると、口内の奥まで舌を挿し入れた。
蜂谷の口の端から、多川のものか蜂谷のものかわからない唾液が垂れる。
左右の男に押さえつけられている蜂谷の手が力いっぱい握られ、手の甲の骨が白く浮き上がっている。
「――――!」
右京は唇を噛んだ。
「……わかった!白状する!俺がやったんだ!」
右京が叫ぶように言う。
「奈良崎ってやつは知らないけど、目につく奴、片っ端からのしていったから、その中にそいつもいたのかもしれない!!」
多川はその言葉にやっと蜂谷から口を離した。
瞬間、蜂谷がその顔に唾を吐きつける。
「―――ふふ」
多川は笑うと、振り向きざまに蜂谷の頬に一発入れ込んだ。
続けて腹に何発か蹴りを入れると、一人の手が外れ、蜂谷は床に転がった。
その腹めがけて、多川が足を振り上げる。
「やめろって!!」
右京の割れた声が用具室に響いた。
「俺には何をしてもいいから、そいつにはもう手を出すな……!」
多川は静かに足を下ろすと、蜂谷を殴った手を振りながら右京を振り返った。
「―――何をしてもいい?言ったな?」
「……………」
ペッと血を吐きながら蜂谷が多川を睨む。
「献上品、傷つけたらご主人様に怒られんぞ、多川」
わざと挑発的に言うが、多川は口の端で笑った。
「―――傷をつけなきゃいいんだろ?」