目を覚ますたびに感じるのは、強烈な飢餓。
あの人の血の香りを思う、甘やかに私を誘う、麗しい匂い。
「あ”〜〜……れるさんの血が吸いたい……っっっ」
カーテンを開けて夜景を見下ろしながらトマトジュースを飲み下して喉の渇きを慰める。
本当は血が飲みたいけど、僕の好きな人は血を吸わせてくれないから仕方ないかと言って知らない人の血を吸うなんて不衛生で汚いし、要らない。だからヴァンパイアなのに、誰の血も飲んだことがない。
「はぁ、つまんない。自撮りしよ」
寝起きすっぴん風のショットを自撮りする。加工アプリであちこち整えて、SNSに投稿した。
「Coe.」というユーザーネームで始めたアカウントは、何度かのバズを経て今やフォロワー5万人超え。血が吸えない欲求不満はいいねで満たしている。
はぁ、顔かわいくて良かった。みんなが褒めてくれる。
「加工外したら絶対ブス」とか悪口言われることもあるけど、全っ然気にしない、だって僕可愛いし。
「んーーっ、今日もいい朝ーー♪」
最高の気分でベランダの窓を開けると、湿った風が色々な匂いをはらんで部屋の中に吹き込んでくる。
その中からかすかな甘い香りを嗅ぎとった。
「……れるさんの匂いがする」
気づいた途端、背筋がゾクゾクと震えた。
僕を夢中にさせる、あの麗しい匂い。
れるが、この近くにいる。
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