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きっかけは些細な事だった。
ある夜、僕はコンビニに夕飯を買いに行った。
その帰り道、キヨくんらしき後ろ姿を見つけ、声をかけようと近づいたが、
「キヨく…」
僕は声をかける前にその場で立ち止まった。
キヨくんが女性の人と一緒に歩いていたからだ。
(あ、)
僕は、邪魔しちゃいけないな、と思いキヨくんとは真逆の方向を向き、自分の家へと向かう。
キヨくん、恋人いたんだ。
そりゃそうだ。あんなにカッコよくて面白いんだから、恋人くらいいても全くおかしくない。
(…はぁ…)
って、なんで僕ため息なんかついてんの!?
キヨくんに恋人がいて、幸せなのってめっちゃいい事じゃん!
だったら…
このモヤモヤした気持ちってなんなんだ…?
僕はその正体に気づけないまま、その日は眠りについた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数週間後。
キヨくんの家で動画を撮影することになった。
撮影中、キヨくんがあの日女性の人と歩いていた姿が何度も頭をチラつく。
ああ、なんで僕はこんなことを考えちゃうんだろう。
数週間経った今でもこの気持ちの正体を明かすことは出来ずにいた。
「ーーー!ーーーーーー!」
キヨくんが楽しそうにゲームをしている。
いつもと変わらない、幸せな時間なはずなのに。
いつもとは違う、漠然とした不安が心の底にあることが分かる。
そうか、この気持ちはもしかしたらキヨくんとゲームが出来なくなることへの不安だったのかもしれない。
キヨくんに恋人ができて、僕とゲームをする時間より、恋人と過ごす時間を大事にするようになったら、もうこの幸せな時間は過ごせないのかもしれない。
いや、もしかしたらもう既に僕なんて邪魔な存在になっているのかもしれない。
そんなことを考えているうちに実況もそろそろ終盤にさ
しかかっていた。
するとキヨくんが、
「そろそろちょっと休憩するか?」
僕にそう提案してきた。
「…あ!そうだね、ちょっと休憩しよっか」
「…」
キヨくんがこちらをじっと見つめてくる。
「PーPさ…」
「なんか今日俺によそよそしくない?」
…さすがキヨくん…勘が鋭い。
なんて感心してる場合ではない。
はやく弁明しなくては。
「そんな事ないよ!ちょっと僕考え事してただけで…」
「考え事?PーPなんか悩みでもあんの?俺で良かったら相談乗るよ。」
ずいっとキヨくんがこちらに近づいてくる。
キヨくんは普段おちゃらけキャラではあるが、本当に人のことをよく見ていて、本気で心配してくれる根っからのお人好しだ。
「で、悩みって何?人間関係?仕事のこと?」
…キヨくんのことなんだけどなぁ。
もし僕が、キヨくんに恋人がいることに悲しんで、悩んでいるって言ったらどんな反応するんだろう。
もし僕が、その恋人に嫉妬してるなんて言ったらどう思うんだろう。
きっとキヨくんのことだから、少し驚いて、それでも僕の意見を尊重してくれるんだろうなぁ。
それとも、最悪、今までの関係が崩れちゃうのかなぁ。
そんなまだ来てもいない未来を想像していると自然と涙が溢れ出てくる。
「…PーPさすがの俺も口に出してもらわなきゃわかんな…」
「…ってえ!?なんで泣いてんの!?そんなに辛いことがあったのか?あんま溜め込まずに話してみろよ。」
キヨくんはハンカチで僕の涙を拭う。
その無責任な優しさが僕の心をぎゅっと締め付ける。
僕は我慢できなくなって、キヨくんにあの日の出来事を泣きながら話した。
「あの日…キヨくんが恋人と歩いてるとこ見ちゃって……、なんか分かんないけど、キヨくんがその人と楽しく話してるとこ見てると悲しくなっちゃって…」
「本当に僕って最低だよね…」
こうしてまた、キヨくんの優しさに甘えてしまっているのだから。
「…あれ、話遮っちゃってごめんけどPーPなにか勘違いしてない?」
「…え?」
「俺に恋人なんていないよ?」
「あ、え?でもあの時…」
「あー多分その時PーPが見たのは俺が道案内してた女性の人だわ」
「だから全然知り合いとかでもないし、恋愛関係でもない」
え、てことは…
「全部僕の勘違いだったってこと…?」
「そうなるな」
僕は顔が真っ赤に染まる。
「…wwwPーP顔あっかw」
「う゛っ…だ、だって」
「ww…でも、俺ともうゲームできなくなるってことを想像して泣くほど悲しくなったんだ?」
「う゛、う゛るさいよ!(泣)」
僕は恥ずかしさと安堵した気持ちとで感情がぐちゃぐちゃになり、また涙が溢れてくる。
「あーもう泣かないの」
「うっ…んっうぅ」
「こりゃもう今日は実況撮れねーな」
「ご、ごめ…」
「いいよ、寂しい思いさせちゃった分寂しやがり屋のPーPをいっぱい構ってやるよ」
「なっ…!?子ども扱いしないでよ!そんなの別にいいし!」
「そもそも、僕もちょっとその時疲れてメンタルが弱くなってただけだし、普段だったら別に嫉妬なんかするはず……」
僕が喋り終わる前に、キヨくんが僕のことを優しく抱きしめた。
「き、きよくん…?何して…」
「PーP、俺はこれからどんなことがあってもPーPと実況を続けていきたいと思っている。だから安心して欲しい、急に離れていくなんて勝手なことしないからさ。」
「わ、わかった!もう泣かないから離して…!」
「なんで?構ってほしかったんじゃねぇの?」
「そ、そうだけどちょっとこれは恥ずかしいっていうか…こういうのは友達同士じゃやらないっていうか…」
「恋人みたいってこと?」
「う゛っ、うん。まぁ、そんなとこ…」
「俺は別にPーPとならこの先だってしてもいいけど」
「へ!?ちょっ、何言って…」
キヨくんが僕の顔を覗き込み、じっと見つめてくる。
ち、近い…
こんな急展開、夢にも思ってなかった。
僕はそっと目を閉じた。
ん?
「っwwふふw冗談だってのww」
キヨくんが必死に笑いを堪えている…
「え!?ちょっと僕めっちゃ緊張したのに!キヨくんのバカ!!」
「wwごめんって」
「さいあく!」
あぁ、もう。
やっぱり彼のこういうところが好きだな。
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ある夜、俺はある女性に声をかけられた。
道が分からなかった様なので案内してやっていた。
もちろん、その現場をPーPが目撃していたのも知っていた。
この時間はよくPーPがコンビニに行く時間だと知っていたし、分かりやすくこちらを見ていたからだ。
だから俺は、わざと楽しそうにその女性と会話をしながら歩いた。
嫉妬して欲しかったからだ。
けど、まさかこんなにうまくいくとは。
俺とゲームできなくなるんじゃないか、って想像して泣いてしまうなんて。
少し申し訳無い気持ちもあるが、それ以上に良いものが見れたので結果オーライだ。
これからもずっと俺だけを見ててね。